第20話「第七層へ」
翌朝、まだ外は薄暗い時間に装備庫へ集合した。
今日の目標は第七層入り口――昨日、別ルート探索班が黒い靄を目撃した地点だ。
「通信機の周波数、標準より二段階下げた。電波妨害の可能性がある」水無瀬が報告しながら、各自の端末を調整する。
「弾薬、マガジン五。予備は搬送ドローンに積んでる」榊原がライフルを確認。
俺も竹刀を手に取り、刃筋を確かめる。木肌に吸いつくような握りの感覚が、戦闘前の落ち着きを与えてくれる。
搬送用エレベーターが地下へと降りる。
第六層までは順調だった。昨日確保したエレベーターホールを通過し、さらに下へ。
扉が開くと、湿度と温度が一気に変わった。熱い。空気が重く、息がしづらい。
「ここが……第七層」
足元は岩盤ではなく、半ば溶けたような黒い床。歩くたびに靴底が僅かに沈む。
壁は脈動するようにわずかに動き、薄く赤い光を放っていた。
「生体反応……いや、地形そのものが反応してる?」水無瀬がセンサーを覗き込む。
「気を抜くな。ここじゃ何が敵か分からん」榊原が短く言い放つ。
進むうちに、耳の奥に妙なざわめきが混じるようになった。
言葉ではないが、人の声のようにも聞こえる。
やがて通路の先に淡い影が揺れた。黒い靄――間違いない。
「いた……」俺が呟く。
靄はゆらゆらと漂い、やがて壁の割れ目へと消えた。
「追うぞ。ただし罠に注意」榊原の指示で隊列を組み直す。
割れ目を抜けた先は、天井が高く開けた空間だった。中央に巨大な柱のような構造物がそびえ、その根元に複数の人型が立っている。
全員、昨日の模倣体と同じ外見――ただし動かない。
「……待機してる?」水無瀬が低く言う。
「なら、俺たちが動くまで動かねぇってことだ」榊原が銃を構える。
俺は竹刀を握り直す。
この柱の奥に、きっと黒い靄の巣がある。
次の瞬間、全員の仮面がゆっくりとこちらを向いた。
「来るぞ――!」
榊原の号令と同時に、静寂が崩れた。




