第19話「判別訓練」
翌朝、格納庫横の訓練場に集合すると、すでに人型標的が十体ほど並べられていた。
無骨な金属フレームに耐衝撃樹脂の外装。胴部や手足に、赤や青のラインが入っている。
「これが……部位判別用の新型標的?」俺が呟く。
「そうだ」榊原が答える。「昨日の映像をもとに、反応部位と無反応部位を色分けしてある。赤が有効、青が無効だ」
水無瀬がタブレットを操作し、標的が低い唸り声を上げて動き出す。
動きは昨日の人型を再現しており、速度もそこそこある。
「ただ叩くだけじゃダメです。間合いと刃筋を正確に合わせないと、判定は出ません」水無瀬が注意を促す。
「よし、真。最初はお前からだ」榊原の声。
俺は中段に構え、呼吸を整える。初動は面へ――。
「面っ!」
竹刀が赤ラインを正確に捉え、判定音が鳴る。
続けて小手。
「小手っ!」
だが音はしない。わずかに外した。
「次!」榊原が間髪入れず促す。
「胴っ!」
右胴を抜き、再び判定音。流れに乗る感覚が戻ってくる。
ひと通り終えると、榊原が評価を出す。
「面と胴は安定してるが、小手が浅い。昨日の失敗もそこだ」
「……意識します」
「それから、青ラインに打ち込んだら減点だ。実戦じゃ隙を晒す」
「はい」
次は三人同時の連携訓練。榊原が射撃で標的を止め、俺が有効部位を打つ。水無瀬は背後から別標的をけん制。
標的は一定時間ごとに動きのパターンを変え、時にはフェイントも混ぜてくる。
「面! ……胴! ……突き!」
汗が額を流れ、息が荒くなる。だが竹刀の手応えは確実に蓄積されていく。
休憩中、榊原がぼそりと呟く。
「真、お前の突きは深くて速い。あれは実戦でも使える。ただし、外せば隙は致命的だ」
「分かってます」
「ならいい」
午後は応用訓練。水無瀬が「声の模倣」を再現するプログラムを組み込み、標的が仲間の声を出す仕様にした。
「真……やめろ……」
一瞬だけ手が止まりそうになるが、すぐ振り切る。
「面っ!」
竹刀の先が赤ラインを正確に捉える。
「いいぞ」榊原が短く言う。
夕方、訓練を切り上げようとしたその時、管制室から緊急通信が入った。
『榊原隊、至急。別ルート探索班からの報告です』
九重班長の声が硬い。
『第七層の入り口で、昨日の黒い靄と同じ反応を複数確認。しかも……動いています』
榊原が俺と水無瀬を見る。
「……明日、潜るぞ。準備しとけ」
胸の奥が熱くなる。昨日の靄が、まだあの下にいる――。
次は、逃がさない。