第12話「第六層、消息不明」
緊急要請を受け、俺たちはすぐに装備を整えた。
第六層――これまでの任務でも何度か足を踏み入れたことはあるが、今回の依頼はただの探索ではない。消息を絶った探索班の捜索・救助だ。
「失踪は何時間前だ?」
「八時間前。最後の通信は第六層北区画の奥。魔物との交戦中に途絶えたそうです」水無瀬が端末を操作しながら答える。
「魔物の種類は?」榊原が尋ねる。
「映像記録から推測すると、複数の大型人型。詳細は不明。ただ、装備や動きから通常個体より高い戦闘能力を持つ可能性あり」
「……嫌な予感しかしねぇな」榊原が小さく吐き捨てる。
指令室のモニターには、現場付近のマップが投影されていた。
第六層北区画は通路が入り組み、死角も多い。救助隊にとっては最悪の地形だ。
「今回の目標はあくまで生存者救出。敵殲滅は優先度二位です」
指揮官の刑事部長が全員を見渡す。
「目視での生存確認が不可能な場合は、即座に撤退判断を下せ。よいな?」
俺たちは頷いた。
生きている仲間を連れ帰る。それが第一だ。
移動用の装甲車でダンジョン入り口まで向かい、そこから徒歩で下降する。
途中の階層は警戒しつつもスムーズに通過。
だが、第六層に入った瞬間、空気が変わった。
「……音がない」
榊原が低く呟く。
魔物の気配すら感じない静寂。壁や床に焦げ跡、そして乾いた血痕。
「交戦の跡だな」俺が竹刀を握り直す。
「かなり最近だ……数時間前だろう」水無瀬が屈んで痕跡を確認する。
やがて、北区画への分岐点に辿り着いた。
その奥は薄暗く、視界が悪い。
「ここから先は小隊行動だ」榊原が指示を出す。
「真、前衛。俺が右側をカバーする。水無瀬は後方から全方位監視」
「了解」
竹刀を構え、深呼吸をひとつ。
鎧騎士との戦いのときのように、全身の感覚を研ぎ澄ます。
今度は人命がかかっている。
「行くぞ」
俺たちは北区画の闇へと踏み込んだ。