第10話「二本の意味」
鎧騎士を倒し、戦利品を回収して帰還したのは夕刻だった。
拠点に戻ると、まずは装備を降ろし、全員で簡単な食事を取る。
その間、水無瀬は小型端末を操作し続けていた。
「……戦闘データの解析が終わりました」
彼女が画面をこちらに向ける。そこには鎧騎士との交戦記録が時系列で表示されていた。
「一本目、胴への有効打突。この時点でスキル反応あり。しかし対象は活動を継続」
「スキルが発動したのに、倒れなかったってことか」榊原が腕を組む。
「はい。通常の敵ならここで即死しています」
「じゃあ、なんで……?」
俺も画面を覗き込む。確かに一本目の後、鎧騎士の動きが一瞬鈍ったのは覚えている。だが、それだけだった。
「二撃目、小手。これは有効打突とは判定されませんでした。刃筋は通っていましたが、打突の力と機会が足りず、残心も不十分。スキル反応はなし」
「つまり、浅かったってことか」榊原が頷く。
「はい。剣道の判定基準に沿えば、あれは一本にはなりません」
「そして最後の面。これは有効打突としてスキル発動、対象は活動停止」
水無瀬が画面を閉じる。
「……この結果から考えると、ネームド個体は一撃で仕留められない可能性があります。ただし、まだ確証はありません」
榊原が俺を見る。
「一本目で効かなくても、二本目で仕留められる可能性はあるってことだ」
「二本先取……か?」
口に出してみると、竹刀を握る手に力がこもった。剣道の理そのままだ。
水無瀬は慎重に言葉を選ぶ。
「仮説です。次にネームドと交戦できれば、検証できます」
「望むところだ」榊原が笑った。
一本では終わらない勝負。
だが、それなら二本目を取ればいい――剣道で学んだ、それだけの話だ。