38話 まだまだ麺
「……」
「いやあ、真面目で寡黙で職人って感じで……凄い人が来てくれましたね。2つの意味で」
「うん。本当にね」
1階層突破に沸いたあの日。
俺たちは酒を飲み過ぎ、結果ダンジョンに帰すことも帰ることも忘れて仕方なくこっちの世界で2匹の世話を見ることに。
最初は終わったと思ったが、あーちゃんはそういったゆるふわグッズってことで余裕で誤魔化せたし、イキリ爺に関しては服さえ着せれば宴会で滑ってる人、町中でコスプレしている人くらいの視線でなんとか済んだ。
なんなら料理の覚えが良くて彰君含め従業員からは頼りになる存在として認識されているらしい。
因みに鳥の頭はこの店をバズらせた看板メニュー卵スープと棒棒鶏、そして最近猛威を振るっている油淋鶏をイメージしてのコスプレってことにしている。
急な環境の変化で2匹は早く帰りたいって思ってるんだろうなって考えていたけど、そんなこともなくこんな状態が既に2週間。
場合によっては2匹、或いは2匹の内1匹だけを残してダンジョンに、なんてこともあるくらいだ。
イキリ爺曰く、布団で寝れるの最高。つまみ食い神。お給料で買った酒最高とのこと。
一応イキリ爺には多少お金を渡したのが効いているらしい。
ただ、家に帰る途中パチンコ店を気にしたり、たばこを吸ってる人を凝視したり……ちょっと危ない雰囲気が漂ってはいるけど。
「増築してお客さんもスムーズに流せるようになって、料理の提供もスピードアップ。休みの日の仕込みとか、休憩時間の仕込みも以前とは比べ物にならないくらいに楽で時間もできて……実は麺の試作品を持ってきたんだけど、彰君今日のお昼これ食べてみてくれないかな? 彰君の意見を聞いて一緒に改良していきたいんだけど」
「あっ! ついに麺づくりですね! 勿論お手伝いします! あ、もうランチ始まりますよ! 店開けてきます!」
そんなこんなで結局これがプラスに働いて、俺はついにダンジョンドロップ品だけで麺を作り出した。
正直自信はある。
だってコムボールからドロップしたコム粉にはそれだけのポテンシャルがあったんだから。
あれ、本当にすごい。
水を足し過ぎてもべちょべちょにならないし、何をどうやってもいい感じにコシがでて茹ですぎても決して伸びない。
だから俺は失敗しらずの『スーパー麺』って勝手に呼ぶ程で、今から彰君に食べてもらうのが楽しみ――
「あ、いらっしゃいませ! お客さん、そういえば久しぶりじゃないですか?」
「うん。ちょっと、いいことがあって。それでいろいろ忙しくなってた」
「そうですか。それじゃあ、いいこと祝いで大盛無料にしておきますよ!」
「うん」
「それじゃあ、奥ご案内します」
「……。奥。うんうん。そうやってもっともっとあなたはお客さんを呼び込むべき。呼び込めるようにするべき」
「え? あ、はい。そのために頑張らせていただきす。ご注文はいつものラーメンと炒飯で?」
「うん。でも、奥ができたってことは……もっと美味しくなったんだよね、ラーメン」
「えーっと……。察しがいいですね。あはは、お客さんには負けました。まだ試作段階なんですけど、食べますか? うちの新しい麺」
「うん」
変に感のいい、いつもの女性客。
案内を済ますと俺は新しい麺を茹でて新作ラーメンのを作り始めた、のだが……。
「ご、が……」
「ぷぺえ……」
「お前ら喋るとバレるからって言って……ってどうしたんだよその汗」
ウキウキな俺とは対照的にあーちゃんとイキリ爺は大量の汗を流しい気を荒くしていた。
あの女性客といい、この2匹といい。
なんか今日は変な日だな。
空気も悪いし、たまには俺が料理運ぶか。
「――お待たせしましたラーメン大盛と大盛炒飯です」
「うん。ありがとう……。スープはいつも通り、麺は……いつもよりおいしい」
「そうですか! ありがとうございま――」
「でも、足りない。まだ……これだと、勝てないよ。こっちの、じゃなくて新しくできるラーメン屋に」
「え?」
女性客から手渡されたのは、新店オープンのチラシ。
今はやりの次郎インスパイア店が喜々快々の正面にできるんだと。
「……。これ、ちょっとヤバいっすね」
「人生逆転が逆転するかもね。だから頑張って頑張って、もっともっと深く強く。待ってるから。私。最高の一杯。最高の瞬間を」
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。




