36話 あーちゃん油特製油淋鶏
「――お手を拝借。1階層突破を祝しまして……カンパーイ!!!!」
「ごがああああ!!!」
「ぷぺぺぺぺぺ!!!」
激闘の末、何とか1階層を突破……ということで俺たちは勢いよく2階層へ侵入、はせずに満場一致で祝賀会を開くことにした。
お飲み物はのど越し爽やかな銀色のしゅわしゅわ。
汗水流した仕事の後はやっぱりこれよこれ。
もうおつまみを作る時間も惜しくて期間早々開けちゃった。
イキリ爺もあーちゃんも美味そうに飲んでいて、楽な方に流れるというか仕事に没頭し過ぎないというかそういう性格部分だけじゃなくて、味の趣味っていうのも主人に似る者なのかね?
ともかくアルコールを飲んでいるこの瞬間って、この一杯のために生きてるって感じがするよな。
あー。全員生きててよかった。
……いや、犠牲はあったか。食べちゃったけど。
「そんじゃ1日余ったし、扉もまだまだ出現中だから……無礼講ってことで飲んで食って食うぞ!」
「ごがっ!」
「ぷぺっ!」
「お前ら何でも作ってやるからこの中のメニューから好きなの選んでくれ!」
幸せに満たされながら俺は2匹にメニューとメモ帳を手渡した。
そう。
ここは俺の店『喜々快々』。
モンスターを呼ぶなんて当初は絶対にしないって思ってたけど、今日は盛大に祝いたくて2匹を連れて来てしまったのだ。
まぁ元々あーちゃん、というかオイルスライムって存在を知った段階で連れて来るかもって思ってたけど。
というのもうちは揚げ物や炒めものに弱い。
だからあーちゃんの出す油で作った料理が予想以上に美味くて、その可能性は100パーセントまで跳ね上がり、絶対に変わった。
イセのもも肉も手に入ったことだし、肝心のネギも今はある。
念願の最強油淋鶏を作ることは確定として、2匹が何を頼むのかすごく興味がある。
「はてさて、お前ら決まったか?」
『棒棒鶏大盛』
『卵スープいっぱい』
2匹は嬉しそうにあえてメモ帳にチ注文を書いて手渡してくれた。
どっちもこの店の人気メニュー。
目の付け所がいいな、俺のテイムしたモンスターたちは。
「OK。じゃ、早速作るとしますか」
厨房へ移動してフライパンを手に取る。
そしてしっかり俺の後をついて来てくれたあーちゃんに油を出してもらって料理に取り掛かる。
「棒棒鶏用に水を火にかけてっと……。それじゃああーちゃんの出してくれた油で油淋鶏から作ってくか」
アイテム欄から水再生式無限もも肉を取り出して使う分だけ切る。
次にダンジョン内でも披露したようにした味をつけて、暫し放置。
その間にたれ用のネギを大量に刻んでボウルに入れ、あとは用意した多めの酢と醤油、砂糖、ごま油、チューブのしょうが、にんにく、はちみつを投入して混ぜ合わせるだけであっという間にたれは完成――
「ごが」
「え? ……もしかして料理興味ある?」
『ありますねえ。手伝っていいですか?』
メモ帳を使って手伝いをしたいと言ってくれるイキリ爺。
なんかこいつがこんなこと言うのは意外だけど、ま、これくらいやらせてやってもいいか。多分子供が親の手伝いをしたくなるみたいな感じなんだろうな。
「じゃあこれを入れて混ぜておいて。それと棒棒鶏はお湯が沸いたら火を消してささみを入れてくれ」
「ごが!」
嬉しそうに料理に取り掛かるイキリ爺。
こんな見た目だけどその反応がちょっと可愛く見えなくもない。
進化したことで羽が体毛が料理に、なんてこともないだろうからとりあえず心配はなさそうだな。
それじゃあ俺は引き続き油淋鶏の続きを。
片栗粉をまぶして皮目から焼いてこんがりと。
後はひっくり返して中まで火が通るようにじっくり揚げ焼き。
ささみに比べて肉の水分量が多いのか、跳ねる脂の量が多い。
一応キッチンペーパーで水気は取ったんだけどそれだけジューシーってことだろう。
ちなみに水再生式無限もも肉は、今回あえて使用しなかった半身に水を掛けておくとあっという間に復活。
おかわり分どころか全部使い切らない限り、本当にこれだけで無限に油淋鶏が唐揚げが作れる。
こんな不思議な肉、流石に従業員には見せられないし、自分だけで管理しないと。
「おっ、そろそろかな」
油を掛けて大切に育てたもも肉を上げて、油を切ると一口大に切る。
皮がパリッと音を立てて、かなりいい感じに仕上がったみたいだ。
これだけでもう美味そうだけど、これを皿の上に適当に敷いたレタスと共に盛り付けて、最後にイキリ爺が混ぜ合わせてくれたたれを掛ければ……『あーちゃん油特製油淋鶏』の完成!
これは……ちょっと味見しちゃおっかな。
「うん! 美味い! やっぱりささみよりもも肉だよな! めちゃくちゃジューシぃー!」
口の中でたれと噛んだときに出る肉汁が絡んで、噛む度に美味しくなる。
あーちゃんの油がまた普通の油よりもべたついてなくて、それでいてコクを増してくれているというのもあって、ご飯に合う、合い過ぎる味わいになっている。
これは男性客も大満足なのでは?
「ご、ごが!!」
「あ、見られたか……」
俺が油淋鶏を食べていることに気づいたイキリ爺は、自分もそれを食いたいという思いからか、任された仕事以上のこと、キュウリやトマトを手際よく切って、味付けは分からないからできないようだったが、それ以外の工程を見事にこなして棒棒鶏を仕上げていった。
こいつ、料理いけるな。
「ごが!」
「分かった分かった! ほら、これお前の分な。それとこっちはあーちゃんの分」
「ごが!」
「ぷぺ!」
2匹用に油淋鶏を取り分けると全員で行儀悪く厨房でパクつく。
このルール無用な感じもなんか悪くないな。
『おいしいです!』
『鳥ってやっぱうまっ!!!!』
「良かった良かった。でも、鳥が好きってお前も鳥なのに……。あーおかしい。2人とも今回は本当にお疲れさん! あはは! あーちゃんもイキリ爺も2回目だけどビール持てくれ! 乾杯っ!!」
2匹の嬉しさいっぱいで溢れた言葉が綴られたメモ帳を最高の酒の肴にして俺はべろべろになるまで酔ってしまうのだった。
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