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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
7/12

第7話 晒し首

 避難所の人たちへの説明は父さんに任せ、俺は長野駅方面へ向かって歩き始めた。四季園さんも自然な流れで隣にやってくる。


「すっかりやる気だな」

「不思議です。最初からあまり恐怖を感じなかったんですよね」

「俺もだ。戦わなきゃって思った」

「……精神をいじられている、なんてことはありませんか?」

「ないとは言い切れない」

「うう、昨日の午後五時半まではあんなに平和だったのに……」

「四季園さんってけっこう几帳面な人?」

「時計をよく見るタイプです」


 左手首の腕時計を見せてくれる。


「帰ったら七時まで自主トレをして、それからお風呂、お夕飯をいただくのがいつもの流れでした。昨日は寄り道して、伊吹さんの道場の近くにいたのですが」

「彼氏と会ってたとか?」

「なっ……!? い、伊吹さんっ、デリカシーのない発言は控えてください! 私に男性の影が見えると!?」

「いや、美人だし、いてもおかしくないかなって……」


 四季園さんは硬直した。だんだん顔が赤くなってくる。


「び、美人、ですか」

「すごく綺麗だよ」

「あ、あうあう」


 急に語彙が崩壊してしまった。


「伊吹さんっ、サムライに憧れて武術を始めたと言いましたね!?」


 なぜかキレ気味に訊いてくる。


「そうだけど……」

「サムライはそんなキザに女を口説いたりしません。未熟ですっ」

「その理屈で未熟扱いされるのがよくわからないし、別にキザではなかったと思うよ」

「女性に美人とか綺麗とか、恥ずかしがらずに言えるのは実はすごいことなんですよ」

「そうかなあ」

「意外に天然ということですね。よくわかりました。ふん」


 なんだか怒らせてしまったようだ。気まずいな。

 プロペラ音がした。

 頭上をヘリコプターが飛んでいく。


『こちら自衛隊。全国及び長野市内に巨大不明建造物を多数確認しております。危険ですので絶対に近づかないでください。また、学校、商業施設に避難所が開設されています。車の乗り合わせ等で移動をしてください』


 そんなアナウンスが聞こえた。


「街中を餓鬼がうろついてるんだが」

「自衛隊も手が回らないんですよ、きっと」

「銃弾って通じるのかな?」

「わかりませんけど、市民が残されているかもしれないって考えると、撃ちづらいと思いませんか?」

「同感」


 マシンガンなんて危険すぎて使えたもんじゃない。


「そういえば、トガクビリを倒して能力は上がったのかな」


 俺は画面を展開した。


――――――

伊吹恭一

体力123

攻撃60

防御50

敏捷55

技巧50

――――――


「上がり幅が微妙だ……」


 しかも体力は減り続ける一方。回復手段はないのか?


「ところで伊吹さん、長野駅に向かっているんですよね?」

「そうだよ。偵察しようと思ってね」

「突入はしないと」

「規模がでかそうだから、城郭階級も高いはずだ。無理をしないで、相手のレベルを知る」

「敵も倒せばデータが手に入るようですしね」


 俺たちは餓鬼王、トガクビリの情報を細かく手に入れていた。

 異形階級という数値があって、餓鬼王が2、トガクビリは4となっていた。上限は10。


「俺たちのステータスにもレベルをつけてほしかったな。そうすれば実力差がわかるのに」

「情報は自分で集めろということです。攻略サイトに頼るなと」

「四季園さん、ゲームやるの?」

「無双系だけはやります」

「へえ、意外」

「趣味のないつまらない女ではありませんよ」


 ふふっ、と四季園さんは笑った。俺は天を仰ぎたくなった。


 ――ああ、何事もなければこれって完全にデートなのになあ。超絶美少女とおしゃべりしながら街を歩くなんて最高のシチュエーションなのに。


「……見えてきましたね」


 四季園さんの声が固くなった。

 正面に巨大な城が見えてきたのだ。でかい。七階くらいあるだろうか? 赤黒い霧を纏った城は、駅舎のある位置に屹立している。


 大通りには餓鬼の死体が転がっていた。先行した能力者たちが倒していったようだ。

 俺たちは戦うことなく長野駅前、善光寺(ぜんこうじ)口までやってきた。駅のロータリーとつながる直線道路。周辺に人の気配はなかった。


「慎重に行こう」

「ええ」


 俺たちは刀を発現させ、構えて前進した。

 左手に駐車場がある。そこに大量の槍があった。転がっているものや、アスファルトをぶち破って突き立っているもの。いろいろある。

 俺は顔を上げた。


「――――ッ!!」


 そして息を呑んだ。

 突き立った槍の穂先に人間の首が刺さっていたのだ。刺されて間もないのか、首からは血がボタボタと垂れている。


「こ、こんなことって……」


 四季園さんが声を震わせ、数歩下がった。

 俺はその場から動けなかった。


「……安堂(あんどう)さん?」


 刺さっている首に見覚えがあったからだった。

 固有剣能の解放に興奮し、走ってどこかへ行ってしまった兄弟子。

 安堂さんだけじゃない。

 周囲の槍に生首をかけられているのは、みんな俺の知っている顔だ。

 兄弟子たちの……。


「うっ、げえ……っ……」


 その場に膝を突き、俺は吐いた。

 見下されていた。馬鹿にされていた。そんなことはどうでもいい。同じ道場の門下生であることに変わりはなかった。六年間、一緒に鍛錬を受けてきた仲間に変わりはなかった。


 だけど、みんないなくなった。

 みんな、殺されてしまった。


「く、ぅ……」


 挑みかかってきた人間を晒し者にするのが敵のやり方か。こんな、悪趣味な真似をするのがお前らの好みなのか。


「許さねえ……! 俺の仲間たちをよくも……!」


 俺が立ち上がった瞬間、背後から四季園さんが抱きついてきた。


「伊吹さん、落ち着いてっ……!」

「離してくれ。異形を皆殺しにしないと気が済まないっ……!」

「感情だけで行動してはいけません! あなたも同じようにされてしまいます!」

「でも、でも……!」

「私を一人にしないで。今、頼れるのは伊吹さんだけなのだから……」


 その言葉で、俺の昂ぶった熱が抜けていった。すがるような声が、俺に冷や水を浴びせかけてきた。


「ごめん、四季園さん」

「いいんです。止まってくれてよかった」

「冷静になれたよ。俺たちは偵察に来ただけだったな」

「はい」


 四季園さんの体が離れていく。


「私も友達を殺されました。仇討ちしたい気持ちはわかります。でも、今は着実に強くならないと」


 その通りだ。

 やみくもに突っ走ったらすべてが終わる。

 今は確実に、自分のできることをしよう。俺は涙をぬぐった。

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