第6話 救出
トガクビリの死体が消えてしばらく経つと、城の周りに風が起きた。
黒い霧が渦を巻いて、空へ昇っていく。
そして俺たちは、いつの間にか教室らしき場所にいた。
「ここは三階の空き教室……! 学校が解放されたんですね!」
四季園さんが嬉しそうに立ち上がった。
「残っている人を探してきます!」
勢いよく走っていくので、俺も慌てて追いかけた。
「ていうか……」
ここ、女子校じゃねえか。男がいるの、冷静に考えて気まずすぎる。
俺は方向転換し、階段を降りて昇降口へ向かった。
校門の横までやってくると、振り返って校舎を見た。
真新しい建物だ。これが戦国時代風の城になっていたのだからとんでもない。
俺がぼーっと待っていると、四季園さんが女子生徒たちと一緒に出てきた。全部で十五人いる。
「伊吹さん、校舎にいたのはこれで全員です」
「妹さんは?」
「いませんでした。その、間に合わなかった人の顔も確かめてみたのですが……」
つまり、他にも死体があったのだ。
「きっとどこかで隠れてるよ。そのうち会えるさ」
「……そうですね」
四季園さんはこくこくとうなずいた。
「長野市役所は無事でしたね?」
「ああ」
来る時、異変がなかったことを確認している。
「あそこに避難所ができているかもしれません。全員で移動しませんか。亡くなられた方は……今はどうにもできません」
「そうだな。申し訳ないけど、生きてる人を優先しよう」
四季園さんが全員をまとめ、動き出した。
女子生徒たちはみんな疲れているようで、足取りが重かった。市街地をのろのろと進んでいくと、正面に大型ホームセンターが見えてきた。城にはなっていない。
そこには避難所が開設されていた。
大人たちが率先して、たどり着いた人に飲み物を渡している。
「皆さんはここで休息を取ってください」
「紅葉ちゃんは?」
「私は戦う側になったので、人助けに行きます」
女子生徒たちは困惑した様子だったが、四季園さんにエールを送ってくれた。彼女らはおばさんたちに案内されて建物の中へ入っていった。
「恭一じゃないか!」
その声に俺はハッとした。駆け寄ってきたのはスーツ姿の父さんだったのだ。
「無事だったんだな!」
「父さんこそ! 母さんは?」
「一緒だ。……全員無事で、本当によかった」
父さんは俺の肩をポンポン叩いて笑った。
「あのさ、父さん」
「どうした?」
「俺、あいつらと戦わなきゃいけないんだ」
「……もしかして、あの変な声が言ってたやつか? 俺は何も出なかったが、周りに自分の能力を出せる人がいてな……」
あちこちで同じ現象が起きているようだ。
「それだよ。武器も持ってる」
「だ、だが、絶対に戦う必要はないんじゃないのか?」
「他にできる人がいなんだ。俺は小さい時から正義の味方に憧れてきた。やらなきゃいけないんだ」
父さんは不安そうだ。俺だって無茶を言っているのはわかっている。
「絶対に死なないから。待っててくれ」
無言の時間があった。
「……できれば、毎日顔を見せに来てくれ」
「わかった。……ありがとう」
父さんはまた、俺の肩を叩いた。
「母さんにも気をつけてって伝えてくれ」
「ああ」
俺はなんとなく手を差し出した。父さんとしっかり握手を交わし、避難所を離れた。父さんは長いこと、俺と四季園さんのことを見つめていた。その表情は、もうわからなくなっている。




