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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
5/12

第5話 咎縊吏-トガクビリ-

「せいっ」

「はっ!」


 俺と四季園さんがそれぞれ刀を振るった。

 斬り倒された餓鬼がバタバタ倒れる。


 二階を探索しているうちに、何度か餓鬼の集団に出くわした。狭い廊下は俺たちに不利と思われたが、向こうも渋滞して動きが鈍っていた。お互い様ってわけだ。


 特別なことをしなくても内部はマッピングされていくようで、データ画面を開けば通ってきた道を確認することができる。俺たちは慎重に前進した。


「次の階段が見当たらねえ……」

「かなり歩いたと思うんですけど……」


 疲労で体力が減ることはないが、目的地のわからない迷路を歩き続けるのはメンタル的にきつい。

 廊下には等間隔で行燈(あんどん)が置かれていて、視界は利いている。これが一斉に消えるなんてことはないよな。それも心配だ。

 何度目かの角を左に曲がると、餓鬼の群れとかち合った。相手は五匹だ。


「ふっ――」


 力を抜いて、滑らかな動きを意識する。相手をまとめて斬り伏せると、その先にようやく階段が見えた。


「ありましたね!」


 四季園さんが興奮した声で言った。


「たぶん、上がったらボスとの戦いだ。覚悟はいい?」

「はい。何がいても恐れません」

「逃げるのは一応アリだからな?」


 絶対に初見で勝たなければならないなんてことはない。相手を見て、作戦を練るくらいはしてもいいだろう。


 俺たちは階段を上がった。

 三階は広い和室だった。オール畳敷き。一切飾りのない、ひらけたスペースだ。


 そして、その奥に座っているのは人の形をした異形だった。

 編み笠が顔を隠していて、その下に何があるのかわからない。青い着物のようなものを纏っているが、表面のあちこちからウネウネした触手が生えている。


 異形は懐から小刀を出して抜いた。

 ――おおお……。

 さらに、唸りながら左手を掲げる。左手が崩れて、鞭のような長い紐に変形した。


咎縊吏(トガクビリ)……名前以外の情報は出てきません」


 四季園さんは緊張した声で言い、すぐにデータ画面を閉じた。


「左右から攻撃しよう」

「は、はい」


 俺は中段で刀を構えて前進した。四季園さんもゆっくり前に出る。

 トガクビリがゆらゆらと動き出した。

 左手を振りかぶる。

 シュッ、と音がした。俺は反射的に右へ跳ぶ。鞭が槍のようになって俺のいた場所を貫いていた。


 ――突くの? (くび)らねえのかよ!


 謎の怒りを覚えた。

 俺は突っ込んで刀を振り下ろす。トガクビリが左腕で受けてきた。それだけで跳ね返される。硬い! ハゼカイナと同じように表皮が頑丈すぎる。

 四季園さんも反対から仕掛けるが、小刀の鋭い連撃に刀をはじかれて体勢を崩した。

 ――ふ、ふ、ふ……。

 鳥肌が立つような不気味な笑い声。


「あうっ!」


 四季園さんの首に左腕の鞭が巻きついた。


「やめろおおおお!」


 俺は背中に斬りかかるが、反転して放たれた小刀の一撃を右の二の腕に受けた。よろけて後退する。


「あ、がぁ……」


 四季園さんの首を絞める鞭がギチギチと音を立てた。四季園さんは両手で鞭をほどこうとしているが、無理だった。


 俺がなんとかするしかない! 右腕の痛みは無視しろ!


 俺は旋風丸を構えて踏み込む。

 トガクビリは右手の小刀一本で俺の攻撃を受け流してくる。だが俺は止まらない。攻め続けて隙を作る!


 刀を振りまくっていると、どんどん体の底から力が湧いてくるのがわかった。

 痛みを感じない。とにかく振り切れ!


「らあああああッ!」


 渾身の縦振りを放つと、相手の小刀がはじけ飛んだ。刀身が砕けている。よし、もう使い物にならないはずだ。


 俺はそのまま当て身を仕掛けた。トガクビリの背中にぶつかって、体勢を崩させる。

 すかさず敵の背後に回り込むと、旋風丸で鞭を断ち切る。

 締めつけから解き放たれた四季園さんがうしろに倒れていく。


 相手の武器は二つとも無力化した。とどめを刺すなら今だ。

 俺は相手の左側面から斬撃を放つ。トガクビリの左腕を深く切り裂いた。

 いける――と思った瞬間、敵は右手を鞭に変えた。


「がっ!」


 一瞬で首に巻きつかれ、絞め上げられる。

 旋風丸を持ち上げて斬ろうとするが、うまく力が入らない。


「ぐふっ!?」


 トガクビリの左手が回復した。俺の腹に鞭を巻きつけると、すさまじいパワーで絞めつけてくる。

 耐えきれず、俺は刀を手放した。


 やばい、死ぬ……!


 少しでも世界に抗おうとしたのに、ここで終わるのか。早すぎるだろ。まだやれる。奇跡になんか頼るな。俺は悪と戦いたくて武術を習ってきたんじゃねえか――!


「うおおおおおお!」


 俺は絞められたまま前進した。トガクビリの首に両手を伸ばし、掴む。足払いをかけると相手がバランスを崩した。俺は強引に体をねじって一緒に倒れ込む。わずかだが、鞭の緩む気配を感じた。


 俺はすぐ、首にかかった鞭に指を入れる。隙間があった。

 息を吐いて力を込めると、鞭を振りほどくことに成功した。

 トガクビリが起きようとしている。俺はダイブしてむりやり押さえ込んだ。


「四季園さん、首! 首を斬ってくれ!」

「はっ、はいっ……!」


 四季園さんが〈長緑(おさみどり)〉を構えて走ってきた。目が充血し、唇にも血がにじんでいた。


「この一撃で――!」


 四季園さんの、渾身の斬撃。

 仰向けに倒れていたトガクビリは抵抗できなかった。

 刀身が首に叩き込まれ、胴体から切り離された。

 俺の腹に巻きついていた鞭から力が抜けていく。


「い、生き返りそう……?」

「いえ、たぶん、勝ちました」

「よかった……」


 俺は起き上がる気力も出せず、トガクビリの死体に覆いかぶさったまま動けなかった。

 隣に四季園さんも座り込む。


「伊吹さん、本当にありがとうございました。あなたがいなかったら、私は確実に殺されていました……」

「俺も、四季園さんがいてくれてよかった。一人じゃ無理だったな……」


 それ以上会話が続けられず、俺たちは黙り込んだ。


 しばらくすると、トガクビリの死体が白い霧になって消えていった。

 あとには、透明な勾玉(まがたま)が残されていた。手のひらに乗るくらいの小さなものだ。


「これは、なんだ……?」

「調べてみます」


 四季園さんがデータ画面を展開して情報を探した。


「ありました。どうやら武器を強化する道具のようですね。武器には必ず勾玉をはめ込める場所があるので、そこに入れて効果を発動させるようです」

「何が強化されるの?」

「武器攻撃力、保有属性、固有剣能の三つです。選べるのは一つだけで、ランダムに変化が起きるとか」

「なるほど。じゃあ四季園さんが使って。とどめを刺したんだし」


 俺が提案すると、四季園さんは両手を振って拒否した。


「だ、駄目ですよ! 相手を追い詰めたのは伊吹さんじゃないですか。私はおいしいところだけもらっちゃったので、ここは伊吹さんが!」

「遠慮しなくていいよ」

「伊吹さんこそ!」


 俺たちは譲り合いをしまくって、そのうちに笑い出した。


「はは、やっとまともに笑えた気がするぞ」

「ふふ、そうですね。普段はこれが当たり前だったのに」


 四季園さんは苦笑した。


「やはり、伊吹さんが使ってください。私の刀は属性も固有剣能もついています。伊吹さんの刀が強化されなければ、この先が厳しいと思うんです」

「うーん、一理ある」


「それに」と、四季園さんが微笑む。


「道場の皆さんを見返してほしいですし」

「……まいったなぁ」


 それを言われると弱い。俺自身、馬鹿にされたことは本当に悔しかったのだ。


「じゃあ、いいんだね?」

「どうぞ」


 俺は勾玉を拾うと、旋風丸の柄の根元に空いている穴……スロットにはめ込んだ。


『強化先を決定してください』


 女の声が頭に響き、目の前に画面が出てきた。

 武器攻撃力、属性、固有剣能の三つが表示されている。


 ……攻撃力は俺の体術でもカバーできることがわかった。属性も、今はわからないことが多すぎる。シンプルに強いのは固有剣能――スキルの獲得じゃないか?


「よし」


 俺は固有剣能の文字に触れた。

 旋風丸が金色の輝きを発した。


――――――

〈旋風丸〉

・武器攻撃力5

・保有属性〈なし〉

・固有剣能〈傷口に塩〉

 傷ついた部位を攻撃した際、損傷値(そんしょうち)が2倍になる。

――――――


「損傷値って要するにダメージのことだよな?」

「神様はあまり英語を使いたくないようですね」

「変な意地張ってんなあ」


 要するにあれだろ? 部位破壊した場所を攻撃するとダメージが倍増するんだろ? もっとわかりやすく表現してもらいたいぜ。


「後半戦にならないと効果が出ないんだな。惜しい」

「でも、絶対にあった方がいいですよ。きっと今後に活きます」


 四季園さんが励ましてくれる。俺は素直にうなずいた。

 とりあえず、この城郭のボスは撃破だ。

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