第2話ミルズと個性豊かすぎる仲間たち
さて、一体これからどうしたものか。大きくため息をつき、机上に置かれたパソコンを眺める。グレイに言われるがままこの部屋まで来たが、結局内容もよくわからなかった。そもそも、他にどんな人間がいるかすらわからない。数名ほどの気配は感じるが、全員がグレイのように話がわかる通じるやつだとは限らないだろう。
「ぅおらッ!!」
後ろから迫る気配に俺は咄嗟に席を離れた。椅子を一瞥すると、さっきまで座っていた椅子は机の奥にしまい込んだプリントのようにくちゃくちゃになっている。噂をすれば……というのは、ここでは適応外であって欲しかった。
「は、はぁ……???」
辺りをよく見ると、所々壁や机に凹みができていた。きっと、このようなことが初めてではないのだろう。それにしても危なかった。もしも避けきれず頭に直撃していたら……考えるだけで恐ろしい。
あまりに突然の出来事に呆気に取られていると、事務椅子ブレイカーは口を開いた。
「テメェ誰だ? 侵入者か? ちょこまか避けやがって的は的らしくじっとしてろやクソがッ!!」
金属バットが勢いよく振り下ろされ、咄嗟に机の影に隠れる。鈍い衝撃音が鳴り響き、蛍光灯に照らされた長く白髪が龍のように高く舞った。左ポケットに手を入れ、静かに様子を見守る。ソイツはゆっくりとこちらを向きながら俺の方へと近づいてきた。
「あ゛? テメェPさんか?」
誰だよPさん。知らんわ俺に聞くな。きっと隠語か何かだろうが、あいにく初めて聞く言葉だ。下手に刺激しない方が身のためだろう。
「んまいっか! 頼んでたもんくれよ」
注文……となると武器か薬物かその辺りか。会話でどうにかなる相手ならいいが、そう簡単にことが運べるとは思えない。
「おーい聞いてんのかー? 頼んでたやつだよッ!! まさか持ってねえとは言わねえよなあ!?」
彼女は引きずっていたバットを机に強く叩きつける。
ーーどうにかしてここを乗り切らなければ。本日二度目の失神なんてのはごめんだ。
ポケットに手を突っ込んだまま、俺はゆっくりと立ち上がった。
「あぁすみません。ちょっとびっくりしただけなのでご心配なく。どちらをご注文でしたっけ?」
「は? ちゃんと伝えたろ!! チョコだよチョコッッ!!!!」
「念の為の確認ですよ。……しばしお待ちを」
薬物だった……っ!! 目を彼女に向けたまま内ポケットを探るも、その場しのぎになるようなものは見つからなかった。そこら辺の土か枯葉かを持っていればよかったと今更思考を巡らせるが、そんなことをしたって何にもならない。コツンと指先に角ばったものが当たり、一つのアホらしい考えが浮かんだ。こんなものでも、数秒の時間稼ぎにはなるだろう。
「どうぞ」
「……あ゙? チョコレート?」
手のひらには、ダイス型の小さなチョコレート転がっている。短い舌打ちの後、彼女は俺の手を目掛けてまっすぐ足を振り上げた。間一髪で手を引っ込めたが、チョコレートはそのまま蹴り上げられてしまった。
「ちげぇよクソが。アタシの事舐めてんのか?」
「あはは……ジョークですよ……」
ギラリと光る彼女の瞳を見つめたまま、静かに二、三歩後ずさる。この方法はお気に召さなかったらしい。よく知らない場所での戦闘は極力避けたい。まだ人数すら把握しきれてないのだ。こちらに勝機はないだろう。
「まぁいいか。あってようがあってなかろうが、ここまで来たんなら全員ぶち殺すだけだッッ!!!!」
そういいながら彼女は金属バットを大きく振りかぶる。左手を抜きかけた時、背後からやや掠れた声が話しかけてきた。
「そこら辺にしとけレイラ。そいつが可哀想だろ?」
その声にバットは頭上で止まる。声の主は他でもないグレイだった。
「グレイ〜! もーそこにいたのかよ!! 待ってたんだぜー!?」
人が変わったように表情をパッと明るくさせて、レイラと呼ばれた彼女はグレイの方へと走っていった。レイラは勢いのままグレイに抱きつき、何やら嬉しそうに話しかけている。
「なあグレイ、こいつ誰だ?」
「そいつは今日からオレらと働くことになったミルズだ」
グレイの声に小さく会釈を返す。いつの間にかバットはレイラの手から離され、近くの床に転がっていた。
「なーんだPさんじゃねえのかぁ……」
レイラは残念そうに唇を尖らせ、ため息をついた。誤解が解けてなによりだ。グレイの身体を抱き寄せたまま、レイラは口を開いた。
「……でなんでこいつが?」
「まぁ、色々あったんだよ。気にすんな」
「グレイったらいつもそれだよなーまいいけど!!」
レイラは明るい表情を浮かべ、駆け足でこちらへ向かってきた。
「アタシはレイラ! よろしくな!」
「あぁ。よろしく」
満面の笑みで胸の前に拳を突き出すレイラに、そっと拳を返す。あまりの豹変っぷりにやや困惑していると、突然思い出したかのように、レイラは声を上げた。
「あ、てかあんた怪我してねえか!? まさか骨折れてたりして……!」
心配そうに俺の右手を手に取ろうとするレイラを軽く避け、俺は腰に両手を当てた。
「大丈夫だ。問題ない」
「そっか……ならよかった! てかチョコレートサンキューな! 後で美味しく頂くぜ!」
床に落ちたチョコレートを拾いながら笑顔でレイラは答えた。さっきまでの暴言ヤク中バーサーカーと同一人物だとは、とてもじゃないが思えない。
「んで誰だっけ?」
「ミルズだ」
「ミムゾだな!!」
「ミルズだ」
半分ラリっているのか、名前もろくに覚えていないようだ。ドア枠に寄りかかったまま愉快そうにこちらを眺めるグレイに、なるべく落ち着いた声で話しかける。
「というかグレイ、せめて仲間に情報共有はしておいてくれ」
「あ゙ー悪ぃなミルズ。探してたんだがどーも見つからなくってな」
頭を掻きながら、グレイはひょうきんな俺に話しかけた。全く、ここの連携が心配になってくる。警備も一重ロックとはあまりにも無謀だ。
「殺されなかったから良かったが……ところで、他の仲間はどこだ?」
「……あぁ、もうすぐここに来るぞ」
やはりか。せめてまともな人が居てほしいが……
ガチャリと音がなり、扉がゆっくりと開く。同時に血なまぐさいドロドロとした空気がこちらへ流れ込み、思わず顔を顰めた。早速嫌な予感しかしない。
「やあ、君が新入りだね! 元気そうでなによりだ!」
明るい声で部屋から出てきたそいつは頭からだらだら血を流していた。何が『元気そうでなにより』だ。死にかけの人間が言えることか!!!
「……は? え、大丈夫か?」
ケロッとした様子で佇む彼をまじまじと見つめる。俺の言葉に彼はなんでもないかのように軽く笑い飛ばした。
「大丈夫だよ。僕は死んでも生き返るからね。いやぁ〜08から君が来たと言われてね。ついでに斧で頭かち割ってもらったんだ! 本当に見事な死に様だった! 頭から血が流れる度にどんどん冷たくなっていく感覚がなんとも言えず……ふふふっ!! 思い出すだけで体がゾクゾクするよ…っ……///!!」
「は、はぁ……?」
「コイツはナカギ。不老不死……正確には死んでも生き返る体質だ」
グレイはベッコベコに凹んだ椅子を撫でながらそう言った。どうやらここには常識とやらは存在しないらしい。
「と、とりあえず大丈夫なんだな……?」
「もちろんだよ。驚かせてしまってすまないね」
驚いたなんてレベルじゃない。これがもしホラー映画の一幕なら、多分お前が黒幕だ。
バタンと突然扉が開き、奥から黒髪の子供が小走りでやってきた。身につけている白いエプロンには赤色の液体がべっとりとついている。見なかったことにしよう。
「もぉナカギ〜! 待っててって言ったじゃーん!」
「あぁ、すまない。早く合流した方が良いかと思ってね」
「ミルズ、コイツが08だ」
グレイの紹介に、08は一歩前に出て無邪気な笑顔を見せた。
「やっほぉ〜! キミがミルズ〜? よろしくねぇ〜!」
「あぁ、よろしく」
「でも残念〜! せっかくキミを拷問できると思ったのにぃ……」
08は頬についた血液を舌で舐めとり、不気味に口角を上げる。多少変わった人がことは覚悟していたが、まさか4人中3人がイカれてるとは。その場で固まっていると、グレイが俺の肩に手を置きゆっくりと口を開いた。
「どうしたミルズ。今更怖気付いたか? どーしても気になるってんなら、テメェの脳みそ弄ったっていいんだぜ?」
怪しげな声でグレイは語った。前言撤回、ここの連中は全員頭がイカれてる。どうやら俺はとんでもないところに来てしまったようだ。どうも俺の運は随分と前に尽きてしまったらしい。
「……いや、必要ない」
「ほーん……そりゃ残念」
グレイは肩から手を離し、他のメンバーのところへと戻っていった。様子を見る限り、グレイがここのリーダーで間違いないだろう。グレイは俺の様子を愉快そうに眺め、追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「これで全員だが、慣れそうか?」
「なわけあるか」
最後まで読んでくださりありがとうございます!
評価・感想を頂けると、とても励みになります!
更新は遅めですが、何卒よろしくお願いします。




