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初体験は髪の毛い女

 「これは中学の頃に体験した怖い話しなんだけどさ

 ……まぁ、と言っても特に落ちはないからね」

 静かに男が語り始める。


 「でも、普通はそんなもんだよ。ドラマティックに飾られた、終わりのある話しはファンクションだよ」

 そう言って目を瞑って、何回か深呼吸するとゆっくりとまっすぐ見つめた。


 ――――

 これは僕が中学生の頃の話。

 両親が心霊番組やUFO、とにかくオカルト番組が好きだった。

 だから、夏になると特番をよく家族で見ていたんだ。


 小さい頃なんて怖い癖して、手を目で覆って指の隙間からついつい覗いてしまう。

 そんなゾワゾワとする感覚に僕はハマっていた。

 だけど、それのせいで夜は眠れないしトイレに行きたくなっても行けないでお漏らしして、よく怒られてたっけ。


 と言っても中学生になるとさすがにそう言った映像くらいでは怖がらなくなったが、ビビリなのは変わらない。

 

 はっきりと覚えてるのは、昼寝をしようとしていた時。

 僕は、部屋がなくて母と姉と三人の部屋で寝ていた。

 その日は休みだったかなにかで、昼寝をしようとしてたんだよ。

 寝るのが大好きでさ、12時間とか寝ちゃうんだよね。


 ああ、ごめんごめん。

 本題に入るよ。


 ようするに、眠いのに寝れない。

 そんな微睡んだ状態がずっと続いてた。

 まだ、昼間でカーテンは開けっ放しで、陽の光が部屋の中をガンガン照らしていた。

 僕はそれのせいで寝れないのかと思ったんだが、微睡みの心地良さに動こうとはしなかった。

 入口側に背を向けて、ただぼんやりと闇に落ちるのを待っていたが、そこからまったく寝ることはできない。


 家の中には一人で、物音とすれば外からたまに聞こえる車の音だけ。


 でもさ、こう言う時ってなんの前触れもないの。 

 本当に突然だよ?

 

 物音一つしなかったのに、急に怖くなった。

 背中に誰かの気配を感じて、身動き一つとることすらできないの。

 バレないように寝たふりをして、いつの間にか呼吸も浅くなる。


 そうして、身を潜めるようにしていたんだけど、全然いなくなる気配はない。

 口から心臓が飛び出るくらい暴れて、限界が来たんだ。


 「誰?」


 声にしたつもりが言葉になっていなかったと思う。

 体ごと振り向こうとすると、振り向いてる途中。

 分かりづらいと思うが、後が見えるか見えないかギリギリのところで動かなくなったんだ。


 それが初めての金縛り。

 一気に血の気が引いたよね。

 目をかっ開いて、この状態が過ぎ去るのを待ったんだ。


 だけどさ。

 やっぱり気になるんだよ。後ろが……。


 目だけをギギギと動かして、どうにか確認しようとしたらさ。

 見えたの。


 髪の毛がだらりと長くて、白いワンピースを着た女。

 顔はなぜか黒く闇に染まっていてさ、どんな風になっているのは見えなかった。

 それが、ただずっと突っ立って下を俯いている。


 指先一つ動かさない。

 まるで精巧に作られた人形のようにそこにいるだけ。

 すると、不意に体が自由になり慌てて起き上がるが誰もいなかった。


 その後、母にこの話をしたんだけどさ、そしたら。


 「私も、金縛りにあって体重くて苦しいからって、目を開けたら白いワンピースの髪の長い女の人が上に乗ってた」

 って、普通に言ってきたんだ。


 ね? 特に落ちはないでしょ?


 姉も、姿見で身支度を整えてると寝てる母が起きてたんだけど、振り返ったら寝たままだったとか、不思議な体験を結構してる。


 うん。

 これが落ちのない一つ目の話。


 それじゃ、次は2つ目だ。


 ――――


 これは、初めて金縛りにあってしばらくしてからの話。

 あれ以来、結構不思議な体験をするようになったんだけど、その中で驚いた一つのできごと。

 

 「ごちそうさま」

 なんの変哲もない一日。

 普通に夕食を食べ終えて、ふと時間を見れば20時だった。


 「じゃぁ、寝るからおやすみ」

 そう言って自室に戻っていく。

 このころは、物置になっていた客間を掃除して自分一人の部屋として使ってたんだ。

 本当に昔の和室。

 古い置物とか、土でできた壁とか、そんな感じで今思えば少し不気味だったかもしれない。

 日当たりもそこまで良くないし、横になると足元には神棚があった。


 特になにかそれのせいであったわけじゃないんだけど、すごい眠かったんだよ。

 布団を敷いて横になれば、意識は一気に微睡みの向こう側に引きずり込まれたわけだ。

 そして、次に起きたら朝になって学校に行く。


 そう思ってたんだけどさ。


 「――ご飯だよー」


 母が呼ぶんだよ。何回も呼ぶんだ。ご飯だよーって。

 しかも、頭は寝ぼけてる。

 そのせいでその言葉を頭が理解するまで、時間がかかったことが救いだったと思う。


 やべ。行かないと。

 怒られる……。


 「――ご飯だよー」


 その声はずっと僕を呼ぶ。

 だから、重い瞼を持ち上げて、両手に力を入れて体を持ち上げようとしたんだ。

 ……待てよ? ご飯食べたよね?

 じゃぁ、今呼んでるのは誰?


 やばいと思ったのに、体が言うこときかないの。

 布団に戻ろうとするんだけどさ、ジリジリと勝手に上半身が持ち上がって、目も閉じることができない。

 だけど、力を入れて強引に抵抗するとなんとか全身の主導権が戻ってきたんだ。

 

 急いで目を閉じて、布団に潜るとずっと鼓膜を揺らしてた声がピタリと止む。

 あー、さすがにヤバかったわ。

 と、安堵した瞬間――


 「バレちゃった。あは――あはははっ」


 耳元でかん高い笑い声が聞こえてさ、一気に体がこわばる。

 ぎゅっと強く目を瞑って、その声が消えるのを待って、しばらくすると静寂が戻った。


 「はぁ〜……びっくりした」

 今、何時になったんだろ? って、まだ2時じゃん。


 「寝よ」

 そのまま寝たよね。


 ね? やっぱり落ちはないんだ。

 でも、あのまま声の通りに起きてたらどうなってたのかと思うけど、それ以来、騙そうとする声は聞こえなかったんだ。

 だから、この話しを聞いて、同じ体験したらぜひ確認して教えてください。

 

 「どうだった? ね、本当のホラーってそんなに怖くないでしょ?」

 「う……ん。でも、想像すると怖いかな」

 「俺は、怖くないけど、一度体験はしてみたい」

 「私も私も! したいー」

 怪談話を当時の彼女の家でしてた。

 友達も盛り上がって、いろんな話をしてたんだけど、残念ながら僕の話しには落ちがない。

 「よし、次は――」


 ――ガチャ、ガチャガチャガチャ……


 「え? 誰?」

 やっぱりこう言う話しをすると、寄ってくるって言うけどさ、本当だったんだ。

 「僕、見てくるね」

 こう言うのに慣れるってやだよね。


 「誰です……か?」

 玄関を開けて廊下に顔出したけどさ。

 「いない」


 やっぱり、ここでも落ちはない。

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