1.俺の状況
ナナちゃんを助けてから数日、何事もなくとは行かない。
毎日のように魔法連盟の見回りがあったり、怪人の発生率が大幅に上がったりと色々あるが、中でも俺に直結する様な出来事は一つだけ。
拠点が変わったことだ。
あの廃工場が嫌になったとかではなく、スレイヤーとの戦闘時に半壊していたのだが。その後ナナちゃんの件が終わり、オウカちゃんを迎えに行ったときの事だ。
「オウカちゃん~!何処にいるの~!」
「クオン。向こうの部屋も見てきたがいないぞ」
「すみません、私の方も見つけられませんでした…」
オウカちゃんがいない。
ナナちゃんを助けた後、俺は転移で工場まで戻ってきていた。
ナナちゃんの家族を全員起こしても後、数回は転移が使える余力は残っていたので、善は急げとスレイヤーを連れて戻ってきたのだが…。
うっかり巻き込んでナナちゃんも連れてきてしまったのだ。
しかし、ナナちゃんは怒ることなく。何なら、オウカちゃんを探すのを手伝ってくれていた。
申し訳なさと感謝で、本当に頭が上がらない。
「私もう一回、向こうの方見てきます!」
パタパタと走って探しに行くナナちゃんを見て、スレイヤーも言う。
「我も周辺を見てくる。クオンは倉庫の方を頼むぞ」
「わかった!」
再び探しに行き二時間後。
「いました!!」
ナナちゃんの大きな声を聞き、俺とスレイヤーは急いで向かう。
そこは、廃工場から歩いて直ぐの森。何時も水汲みや洗濯をしていた場所だった。
「クオンさん、大丈夫です。気絶しているだけで息もしてますし、脈も正常です」
「そ、そっか~。よかったぁ~」
ヘニャっと地面に座り込む。緊張が解れ腰が抜けた。
俺程ではないが皆、安堵したようで、少し顔が緩んでいる。
「一先ず連れて帰るか」
「うん」
「あ、でもあの工場はやめた方が良いかもしれないです」
「あー、うん。だよね」
「ええ、あの壊れ具合だといつ倒壊するかわからないですし…」
「でも、他に拠点無いしな~。スレイヤー何かある?」
「いや、我も拠点らしい拠点は無いな」
「うーん、どうしたものか」
「なら、私の家に来ますか?」
「え!いや、ありがたいけど。私達、魔法連盟に喧嘩売ったも同然だしな~」
「それなら大丈夫ですよ、さっき魔法連盟から連絡がありまして。今回の事やこれまでの事を謝罪すると同時に、お詫びとしてこれからの生活の全てを負担すると言われまして」
「え、あの自称天才は?」
「彼は、あの後姿を消したそうです」
そこからナナちゃんに色々な確認を取った。
魔法連盟がこれまでのナナちゃんの家族やナナちゃん自信に掛けていた魔法の事や、怪人化した人を死亡した事にして人体実験に使った事など、他にも色々聞いたが取り敢えずこれだけかい摘まんで話すと。
これまでの魔法を使った認識阻害は自称天才(魔法連盟ではプロードと呼ばれていた)の独断でやっていたものだったと言っているらしい。
そして、人体実験に関してだが、これはナナちゃんの妹以外は全員、家族や血縁に許可を取った上で生命維持やその他排泄等のお世話をすると言う慈善事業に近い物だったのだが。
プロードやその関係者、利益を独占したい企業等がそこに介入し、人体実験を行っていたのだと言う。今のところ被害の全容は見えていないが、相当数の被害者がいると思われるとの事だ。
「魔法連盟、警備ザルすぎない?」
「それは、私も思いました…。それよりもです、こう言うわけで私の家は今、三人増えたところで養えるだけの資金があります。それも、今回私達を助けてくれお二人とその仲間と来れば家族は誰も反対しません。というか、もう許可を取ってあります」
「わあ、仕事がはやーい」
「ナナは凄いな!」
「それで、クオンさん。うちに来てくれますよね?」
「謹んでお断りを……アッ、オセワニナリマス」
「はい!」
「クオン、お前…」
やめろ、言うなスレイヤー。俺もわかっている。精神年齢で言えば割りと離れている筈の俺とナナちゃんの会話で年上の俺が圧に屈したなんて情けないと思うだろう。俺もそう思うが、あれは凄いよ。
もう、プレッシャーが可視化されてた。後ろに般若見えたもん。断ったら、ここがおれの墓場になってたんじゃないかと思う程に。
と、まあ、そんなことがあって今はナナちゃんの家にお邪魔している。それも、俺とスレイヤーの拠点が見つかるまでの間だが。
流石に、未成年の女の子に養われているのはどうなんだとスレイヤーに言われたのでここ数日は拠点探しをオウカちゃんと一緒にしている。
「クオンちゃん!マジヤバイ場所見つけた!」
もう一個変わった点がある、オウカちゃんが俺をクオンちゃんと呼ぶようになった。




