32.
スレイヤーの言う通りに移動し、ナナちゃんの反応があった場所へと辿り着いた。
やっぱり俺の体は限界で時折意識が飛びかける。転移や怪人化した人を起こす等の能力は使えるのだが、俺自身が限界なのだ。
しかし、今は倒れるわけには行かない。だって、ナナちゃんの大事な妹ちゃんを抱えているのだから。絶対に妹ちゃんとナナちゃんを再会させる、その一心で動いている。
何度目かの眩暈を越え、やっとナナちゃんを見つけた。
自称天才が居なくなった事で結界や認識阻害等が消えたのだろう。スレイヤーの感知能力で範囲を絞り、手当たり次第に扉を開けたら時間はかかったが見つけられた。
自称天才の口振りから無事であろう事は判っていたが、自分の目で見ると不安が消え安心する。
「良かった…!」
無事だった嬉しさが込み上がり、声に出てしまった。けど、スレイヤーも同じなのかナナちゃんを見ながら穏やかな表情をしている。
「…んっ…ぅん…?」
ナナちゃんが寝返りと共に目を開く。
寝起き早々、俺の顔を見てビックリしたのか飛び起き警戒する。そのまま部屋を見渡しスレイヤーの姿と背負っている人の姿を確認し、少し顔色が悪くなる。そして、俺の背にも人が背負われて居るのを見て絶望する様に言った。
「私は何をすればいいですか…?」
全てを諦めた顔をして俺達に問うナナちゃんは、これまで何度もこの方法で従わされてきたのだろう。
しかし、俺達はそう言ったことをしに来たのではなく、寧ろ逆だと伝えなきゃいけない。
「ナナちゃん、私達は何も望まないよ」
「では、どうすれば家族を返して頂けますか?」
「何にも要らないよ。はい、返すね」
背負っていた妹ちゃんをナナちゃんのベッドに寝かした。その行動に倣いスレイヤーも、ナナちゃんの両親をベッドに空きが無いので、床へ寝かす。
「これで信じて貰えるかな?」
「はい…一応は」
「大丈夫だよ。ナナちゃんに何も頼まないから。安心してね?」
俺は、そう言ってゆっくりと立ち上がって妹ちゃんの側に行く。
「まっ、待ってください!家族にはなにもしないで!」
俺の行動が、今のナナちゃんにとても不安を与えたらしく。突然、俺に抱き着いて懇願するような声でお願いしてきた。顔を見ると目に涙を溜めていた。
どうしたものかと考えていると、これまで静観していたスレイヤーが口を開いた。
「クオンお前、その誤解を生む喋り方どうにかならないのか?」
「え…?」
「それと、ナナ。すまない、我の協力者は口下手な様でな。この三人を助けるために尽力したのはクオンだ。なので、誓ってこの三人を害することはない」
「ほ、本当…ですか?」
「ああ、と言うより今の状況が一番の証拠じゃないか?」
「確かにそうですね…」
何とか俺の誤解は解けたようだ。何故、誤解されたか分からないけどまあ、良い。
誤解が解けたなら本題に入ろう。




