43話【社交パーティー】
結論から言うと、レレは国王陛下に気に入られた。
個人的な食事の場に呼んでくれると、暇があれば剣の稽古もつけてくれると言った。
陛下の戦友の方に感謝しかない。その人がいなければ、レレもレレを連れてきた私も不敬罪で首が飛ぶところだった。
そして絶叫系アトラクションよりもドキドキハラハラした陛下との謁見は終わり、次は社交パーティーへと会場を移した。
私とレレは陛下と共に、会場となるメインホールに入場する栄誉を承る。
今回の社交パーティーの目的はレレのお披露目であり、主役を連れてくるのは陛下のお役目らしい。その立役者となった私にも、同行の許可は得られた。
メインホールへの正面入口ではなく、会場を見下ろせるほど高い壇上への入場口からの入場。
その扉の前に、陛下の後ろに、レレの隣に立つ。
流石に緊張するわね。思えば異世界に来て初となる社交界。家族とセレスさん以外の貴族が沢山いる場所である。
私の緊張を勘づいたのか、
「大丈夫だミラ! オレ様が付いてる」
ギュッと私の手を握ってくれる。
「……! ありがとう。レレ」
なんだか今日は、レレがいつもより頼もしく見える。情けないな。私がしっかりしなきゃいけないって、来るまでは思っていたのに。
「イージス帝国の偉大なる太陽! バルトロ・イージス国王陛下が到着なされました!」
会場の中で、合図となる兵士の声が扉にいる私たちにまで届いた。
「我の後に付いて来い。紹介は我がしよう」
「かしこまりました。陛下」
「わかったぞ! あっ、です!」
簡略的な陛下の指示の後、扉は兵士によって開け放たれた。
国王陛下の入場。それにより会場にいた全ての貴族が頭を下げた。
会場には既に多くの貴族が集められていた。その全員が頭を下げ、国王陛下に敬意を評している。
分かってはいたつもりだが、やはり王様というのはすごい存在なのね。それを改めて認識した。
……あっ、もしかしてあそこに居るのって。
会場にいる彼女に目がいった。周囲とは異なる黄色の礼服、カラフルな色合いは広い会場でも一際目立つ。
やっぱりセレスさんね。
彼女は子爵家だからこのパーティーに呼べれるのは自然なこと。知っている人を見つけて、何だかホッとする。少し緊張が緩和された。
「面を上げよ」
陛下のその一言に一同が顔を上げる。そして、ザワつく。
「リザードマン? なぜ陛下と一緒に……」「それに赤い鱗……本で知った者とは違うな」「見たことないな。突然変異なのか……」
奇異の目。それには、一人の少女のトラウマが呼び起こされる。
「……ッ」
かつて赤い鱗で迫害の目を向けられていたレレ。私の手を握る彼女の手が、少し震えていた。
その手を強く握り返してあげる。
「(大丈夫よ、私がついてる)」
「っ……! ……おうっ」
怖がる必要なんてない。私にはレレがついていて、レレには私がついている。
私とレレの手の震えも、お互いに握っていれば震えはしない。
「皆の来訪に感謝しよう。そして今日、集まってもらったのは他でもない。我が国にとって初となる、外交特使のリザードマン。戦士レレを紹介するためだ」
陛下はレレを戦士と呼んでくれた。それは他でもない、レレを認めている証拠である。
「そして外交特使任命の立役者である、ランドリス家長女、アルミラ・ランドリス嬢も並びに紹介しよう」
私の名前が出た途端、会場はまたザワついた。
あの悪魔が?とかなんだとか色々言われている。なかなか酷い言われようであるが、まぁ気にしない。せっかくレレの晴れ舞台。ドンと構えておこう。
「今後我が国は、レレ以外の多くのリザードマンを受け入れる予定である。その為の政策もランドリス家当主のユリウスと娘のアルミラが講じている。貴族の中心である皆には、その事実を周知しておいてもらおう」
要点を纏めた報告をすると、陛下は少し横にズレる。
「では、外交特使のレレから言葉を貰おう」
ここに来て、思わぬ無茶振り。
私は少し、いやかなり嫌な予感がした。
そしてその予感は的中したように、
「へへッ、まかせろ!」
「れ、レレ? お願いだからお淑やかに――きゃ!?」
皆を見下ろせる高いお立ち台であり壇上。彼女は私をお姫様抱っこで抱きかかえ、その壇上の手すりに飛び乗る。
そしてまたしても、高々と宣言した。
「オレ様はレレッ! いずれ英雄になるリザードマンだッ!! よく覚えておけッ!!」
いつぞやの予感が当たってしまった。レレは少年誌の主人公みたいな宣誓をする。
「れ、レレ……! お願いだから今は――」
「ミラにちょっかいをかけたり、悪いことしたヤツは全員オレ様がぶっ飛ばしてやるッ!! テメェらわかったなッ!!」
止まらぬ暴走機関車レレ。よりによって貴族全員に喧嘩を売るような対応をしてしまう。
その光景を後ろで見ていた陛下は、後ろで愉快そうに笑いを堪えていた。確信犯である。絶対こうなるとわかってやったのだろう、この王様は。
◇
レレの紹介が終わると、今度は王様が個人的にレレを連れて貴族たちに彼女を紹介していた。
彼女はリザードマンの架け橋になり得る存在、故に色々な貴族と関わりを持たせておくと国の利になる。そういう政治的意図が見える。
レレをそういう政治の道具のように扱われるのは、私としては好かないのだけど。
だが、これはチャンスにもなり得る。
レレを貴族たちに強く印象づければ、彼女が大きな活躍をした時より広まりやすくなる。
英雄となるには、功績とそれを広げられる知名度が必要。彼女が英雄となるためには、この国の中枢を担う彼らに、レレのことを覚えてもらう必要がある。
……まぁ、あのとんでも挨拶で貴族たちはレレのことを絶対に忘れられないだろうけど。
「いいお披露目だったね。アルミラ」
「からかわないでくださいお父様……」
会場の隅で、お父様とドリンクを嗜みながらそんな談笑をする。
当然、公爵家当主であるお父様もパーティーには来ている。私とはずっと別行動だっただけで、とっくに会場にいたのだ。
「本当に心臓が何度止まりそうになったか分かりません。レレが国王陛下の期限を損ねないか不安で不安で……」
「ははっ、心配ないさ。レレ君を初めて見た時から国王様とは気が合うと思っていたんだ。ああいう砕けた感じの気さくな人がお好き方だからね」
「それをもっと早く言って欲しかったですっ」
持っていたグラスのジュースを一気に仰ぎ、そんな不満を垂れる。
それがわかっていれば、私の心臓の負担も軽くなっただろうに。
「ハハハッ、ごめんよアルミラ。――だが結果的には良かったではないか。レレ君は国王様に気にいられているみたいだし、レレ君を連れてきたアルミラの評価も高まっている。君を見る周囲の目も変わってくるはずさ。……順調に跡取りとして成長してくれて、私は喜ばしい限りだよ」
「ふふ、それは何よりです」
実は跡を継ぐ気なんてサラサラないとは言いづらい。愛想笑いで誤魔化しておこう。
「最近はマルシア商会の会長とも懇意になっているって聞いたよ」
「ええ、お父様があの時、珪石の鉱山の所有名義を私にしてくれたおかげです。おかげで事が早く進みました」
形跡の鉱山を発見してすぐ、その名義をお父様は私として登録してくれた。それもあって私はマルシア商会にすぐ鉱山とアイデアを売って、交渉することが出来た。
「それくらい構わないさ。……それより商会長の彼とは仲良くしておいた方がいい。彼は切れ者だよ。平民だった生まれからたった一代で伯爵家に上り詰めたその手腕は貴族も一目置いている。仲良くなっていればアルミラが跡を継いだ時大きな力になってくれる」
「ええ、今後ともセレス様とは親睦を深めたいと思っています。……ですけどお父様、それは決して将来的な損得としてではなく、私はただ彼女と仲良く――」
「どうしてですか殿下ッ!!」
私がお父様の言葉に訂正を入れようとした時、会場中に響き渡る苛烈で甲高い声。
そして、その日二度目の波乱が会場に巻き起ころうとしていた。




