33話【独特な師弟】
最低限の荷物をまとめて、オレ様は馬車ってヤツに乗った。
馬が引いた箱に乗って移動するらしい。人族の移動方法は変わってんな。
しかし納得出来ねぇ。なんでオレ様がミラとは違う馬車に乗るんだ。オレ様はミラと一緒がいいのに。
「おい半獣男! ミラの馬車には乗れねェのか!?」
同じ馬車に乗った半獣男に聞いてみた。
「お嬢と乗れるのはお嬢の父君だけだ」
「んだよケチ癖ぇな! 一緒に乗せてくれたっていいだろ!」
「……お前は今後リザードマンの代表として国に招かれる。位置づけとしてはお嬢の付き人だ。節度を持った行動をしろ。お前の行動次第でははお嬢の品位を落とす」
「ヒンイを落とすってなんだ?」
「お嬢が下に見られるということだ」
「なんだと!? ミラを見下すヤツが居んのか!? オレ様がぶっ飛ばしてやる!!」
「そうならん為にお前がしっかりしろ。女」
「なるほどそうなのか! わかった! しっかりしてやる!」
大体わかった。とりあえずミラを悪く言うヤツはぶっ飛ばせばいいんだな!
「おい、女」
「女って呼ぶのやめろ! オレ様はレレだ!!」
「なら俺を半獣男と呼ぶのもやめろ」
「わかった! 名前なんだ!?」
「ガウルだ」
「そうか! ならガルだ! よろしくガル!」
「……なんでもいいか」
ガルは溜息を吐いてからまた口を開いた。
「お前は英雄になると言ったな」
「ああ言ったぞ!」
「その気持ちは変わらんのか。あの狩りでの出来事を体験しても」
「……」
その言葉に、一瞬声が出せなくなる。
だが、動揺したりなんてしねぇ。真っ直ぐガルの目を見る。
「あの時、下手すればお嬢は死んでいた。俺はお前を許したつもりはない。お嬢が何と言おうとな。俺はお前を戦士とは認めない。――お前は英雄には成れん」
殺意にも似た怒りを視線で感じる。ビリビリと馬車が揺れているように錯覚した。
「ッ……、……」
その言葉に抑えきれない感情が内から湧いてくる。
だが、表には決して出さなかった。
「……怒らんのか」
「怒っているぞ。だが怒らないッ」
「何故だ」
「お前が正しいからだ。……悔しいが、オレ様は弱い。お前にも勝てない」
「……」
「だがな、オレ様は英雄になる。これだけは譲らねェ。ミラとの約束だ。死んでも叶える。……そんで二度と――ミラを傷つけさせない」
もうあんな思いは二度としたくねェ。
オレ様はミラの為に、英雄になると誓った。
族長の言葉の意味、今ならわかる。
自分本位な理由じゃ、英雄にはなれねェ。オレ様は心構えって奴を改めなきゃいけなかったんだ。
「オレ様はミラを隣で守るために、英雄になるんだッ。だからあんなことは二度とない。オレ様の人生を賭けて誓ってやるッ!」
「……、……そうか。ならいい」
ガルは殺意にも似た眼光を収めた。
オレ様はちゃんと我慢できた。怒らなかった。感情に任せて虚勢を張ったり言い訳をしなかった。
成長していると、自分で実感した。
へへっ! 後でミラに教えて褒めてもらおう!
「レレ」
「あん? なんだ?」
「国に着いたら、剣術を教えてやる」
「ッ!? い、いいのか!?」
その申し出に思わす前のめりになる。
集落を出て狩りができなくなり、どう強くなればいいのか悩んでいた。
その時に、ガルの方からそう言ってくれた。言ってくれなきゃオレ様が頼んでいたかもしれねェ。
けどなんでだ。コイツはオレ様のこと好きじゃねェだろ。
「な、なんだよ。なんで急に親切にしやがる……、なんか裏があんのか……?」
「そんなものはない。お前がお嬢の隣にいる以上、最低限強くならなくてはいけない。今のままだと話にならん。だから俺が鍛え直してやる」
「ッ……! シュルル! なんだガル、やっぱりお前もミラが大好きなのか? オレ様と同じだな! 仲良くしてやる!!」
「……何故お前に仲良くされなければいけない。それと呼び方は改めろ。今後俺はお前の師匠となる。師匠であるなら親でも友人でも師匠と呼ぶものだ。わかったな」
「わかったぞガル!」
「…………」
馬車に揺られるレレとガウル。そこでは、独特な師弟関係が築かれていた。




