2話
スタッフの男に先導されながらエントランスから伸びる通路の一つを歩いていくと、非常口のマークがついた部屋に着く。
入ってきた扉と端にある非常階段、そして目の前ある大きな扉。
恐らくここがスポーン位置になるとは思うが、扉の奥は厳重に閉鎖されていて中の様子を見ることはできない。
「最初のスポーン位置に到着しました。目の前に見える扉の奥が今回のステージとなっており、一歩でも足を踏み入れるとゾンビが襲ってきます」
スタッフの男は二つ目の扉に指先を向けた後、すぐにその指を階段の方に向ける。
「着いて早々ですが、ここに待機する1組を除いて、他のペアは今から階段を使って各階にある別のスポーン位置に移動してもらいます。5階にあるスポーン位置に最後のペアが到着したら自動的に扉が開きますので、それがゲーム開始の合図だと捉えてください。そしてこのスポーン位置で待機してもらう最初のペアは宮野様と中津様です」
前の列から2人の男が出てくる。
最初にカイトに絡んできた宮野と、もう一人は陰謀を吹聴していた男だ。
宮野は集中しているのか黙々とジェクターを弄りながら扉の方を向いて、中津は他人の存在を感知すらしていないのか相変わらず何かをブツブツと呟いている。
この組はペアとは名ばかりで協力する気はないようだ。
その後も他の参加者たちはスタッフの男を先頭にそれぞれのスポーン位置に移動する。
2階は最年長の男こと縦島、小太りの男こと蓮見のペアが。
3階はカイトと少しだけ会話を交わした伊崎、そして吉木のペアが。
階を跨ぐごとに名前を呼ばれ、宮野たちのように扉の前に待機する。
4階に差し掛かる頃にはすでに集団はカイトを含めて四人になっていて、ひっそりとした空気が漂っていた。
「4階は坂井様、道元様のペアです」
そこでようやくスタッフの男の口からカイトの名前が呼ばれる。
ようやく出番だ。
おずおずと列を出ると、ペアであるもう一人の男――道元も姿を現す。
「ようやくオレの番か。それでペアは……君か! よろしくな!」
フレンドリーな態度を示すその先にいるのはナンパされていた女だ。
当然、女は困惑したように目を右往左往させる。
「いや、私じゃなくてそっちの男の子かと……」
「ん? お、そっちの兄ちゃんが坂井だったか! オレは道元。改めてよろしくな!」
差し出してきた手に、カイトは小さく「よろしく」とだけ伝える。
道元とペアになることは宮野と中津が呼ばれた時点で既に分かっていた。
彼は急に癇癪を起こして暴れ出さないという意味では三人の中で一番マシだが、彼は彼で別のベクトルで注意しなければならない。
例えばその頭の悪さからくる軽率な行動だ。
場合によっては共同で責任を取らされる可能性もある。
そんなことを考えていると、不意に横から嘲るような笑い声が聞こえてくる。
「ぷっ……」
声の主はまだ名前を呼ばれていなかったナンパ男だ。
片方の眉を吊り上げ、まるで値踏みするかのようにカイトを上から下まで見つめている。
「坂井くん、だっけ? 女の子に振られた上に、そんなヤバそうなやつと組まされるって可哀想だね」
敵意を持って言ったことなのか本心から言ったことなのかわからないが、心配して言ったわけではないことは確定だろう。
振られたというのは十中八九アイリのことだ。
どうやら一部始終を見られていたらしい。
「君も僕やあのイケメンくんみたいに顔が良かったらなぁ。まあ諦めることはないよ。この世は所詮は見た目だけど、身の程を知るにはまだ若すぎるからね。今のうちにたくさん夢見なよ」
「……余計なお世話だ」
「あ、怒った? ごめんごめん。思ったことは口に出るタイプでさ。別に悪気はないからそんな怒らないでよ。ほら、まだ整形の道だって残ってるし……。あ、僕は整形女は死んでもゴメンだけどね?」
思いつくままに過激な言葉を並べるナンパ男。
ここまできたらもはや敵意があるかないかは関係なく、彼がカイトにとって害をなす人物であることに疑いの余地はない。
「まったく……」
そこでカイトは一度ため息をつく。
こういう時、いつものカイトならもっと言い返していただろう。
だが心の中は至って冷静だった。
理由は単純。
中津や道元という異次元の存在のおかげでまだギリギリ正気を保つことができていたからだ。
「ネットなら炎上してるぞ。まあ俺も、整形厚化粧マネキン顔は男女に関わらず遠慮したいけどな」
「……びっくりした。君、僕より口悪いな」
ナンパ男は驚きつつも、「やるね」と言わんばかりに声を弾ませる。
「坂井君とは気が合いそうだ。そしてそんな君にお願いなんだけど、当分は僕らのいる上の階には上がって来ないでほしいんだ」
「上ってことは5階か。何でだ?」
「邪魔されたくないからだよ。男女が病院に隔離されたらやることは一つさ」
ナンパ男の性格、男女という言葉、何より後ろの女に聞こえないようにカイトの耳元で囁いたこと。
これだけ情報があれば何を言いたいのかは察せられる。
「……正気か。ゾンビもいるし、何よりカメラで観察されてるかもしれないんだぞ」
「その時は見せつけてやればいい。何でもしていいって言ってたし。男女の交わりもホラーゲームの醍醐味だろ? 童貞くんには少し刺激が強すぎるかもしれないけど、頼むよ」
「いや、頼むって言われても……」
カイトは肩をすくめる。
「二人が何しようが俺には関係ないだろ。そもそも最初に階を移動するなんて普通ならありえないし……まあ約束してほしいってんなら約束するよ。当分は5階にはあがらない」
「そう言ってくれると助かるよ。結局最後まで上に登らされて萎えてたけど、この状況ならむしろ都合が良さそうだ」
「そう。まあせいぜい楽しんでくれ」
ナンパ男はそれだけを言い残すと、スタッフの男とペアの女と共に最後の階段を上っていった。
意味ありげに笑みを浮かべてワクワク感が漂わせる男に対して、女の方はどこか不安そうで、階段の一段目を上がるタイミングでカイトに視線を送った。
それに何の意図があったのかはわからない。
偶然目があったのか、それとも助けを求めていたのか。
確かなのはダメ元でも「ペアを代わってくれ」と言えばよかったという後悔の念が籠ったカイトの視線と交差したということだけだ。
「変なやつだったな!」
同じ気持ちを共有できる相手。
だがその相手が道元だったのがわかって、カイトはすぐに出かかった言葉を飲み込む。
「最初に言っとくけど、馴れ合う気はないから」
「もちろんだ。いつゾンビが襲ってくるかわからない。最初から集中しよう」
道元はそう言いながらジェクターを振り回す。
まだ扉の開いていないスポーン位置でいるはずのないゾンビを警戒しているのだ。
「なんでこんなヤバいやつとペアにならなきゃいけないんだよ……」
「坂井くん、俺の背中は頼んだぞ。そして坂井くんの背中は俺に任せろ」
「無理だ。というか気持ち悪いから俺の背後には立つな」
誘っておいて同じ組に入れなかった先輩への恨み、或いは話しかけておいてペアを断ったアイリへの恨み。
そして自分への恨み。
こんなことになるなら先輩と同じ組ではないと分かった時にテストプレイは辞退しておくべきだった。
同時にナンパ男との会話で溜め込んでいた苛立ちが再燃する。
「何でだよ。みんなで協力してゾンビを殲滅しないといけないって時に。そんなんじゃヒーローになれないぞ」
道元の言い分に、カイトは舌打ちで答える。
「ヒーロー? 馬鹿じゃねぇの。ヒーローなんてのはテレビの中だけの話なんだよ」
「そんなことないだろ。現実にもヒーローはたくさんいるんだぞ。浪漫がないな、坂井くんは」
「知力がゼロのやつは黙ってろ。そもそも浪漫で人は救えねェんだよ」
ヒーロー、英雄。
カイトが嫌いな言葉だ。
子供には体のいい言葉を並べても、肝心の大人は平気で見て見ぬ振りをする。
いじめはダメだと教える大人が当然のようにテレビで楽しそうに誰かの悪口を言う。
大人の世界。腐った世界。正直者や清廉潔白な人がバカを見る世界。
カイトは知っている。
現実は残酷だ。
「テロが起こった時も、災害が起こった時も、ヒーローは現れなかったろ。奴らが救えるのは子供の童心だけ。それが現実だ」
「どうしん? どうしんって何だ」
「……仮にもしヒーローが必要な事態が起こったとしても俺は絶対に傍観者側に立つね」
カイトはそう言い放つと、道元を一瞥すらせず、1人で扉の前に立った。
順当にいけばナンパ男のペアが最後のスポーン位置についた頃。
1階や2階で待機しているペアとは違い、4階にいるカイトたちがこうして待機しておかなければならない時間は短い。
息を整えていると、思った通り扉に付いている赤のランプが緑に変わり、扉が開き始める。
「よし……」
扉が開き切ったのを確認したカイトはそのまま真っ直ぐ進まずに、体を90度方向転換させる。
先にあるのは階段のあるスペースだ。
普通ならありえない行動をとったカイトに、道元は「どこいくんだ?」と疑問をぶつける。
「どこって、五階に決まってるだろ」
「あれ、行かないって約束してなかったっけ」
「そんなの嘘に決まってんだろうが。女のことは正直どうでもいいけど、あいつの思い通りになんてさせてたまるかよ」
ナンパ男の話を聞いた時から行くつもりだった。
理由は単に男のことが気に入らないから。
既に上を覗いて非常階段が利用可能であることは確認済みで、あとは上の階に上がるだけ。
もちろんカイトは迷うことなく上がることを選択する。
一応、気づかれないように息を殺して歩くが、上階から音は聞こえてこないので、恐らく既に扉を通ってステージに侵入した後だろう。
上り終えると、さっきいた4階のスポーン位置と全く同じ部屋に着く。
登ってきた階段スペースと、ステージに続く開いた扉。
さらに扉の奥には左右に分かれた廊下があり、その脇にもいくつかの扉が見える。
「扉が全部閉まってるってことは、中には入らず廊下を先に進んで……いや、ゾンビが入ってこないように扉を閉めたって可能性も……」
ナンパ男たちの足取りを調べていた時。
『――きゃぁぁぁぁぁ!』
突然、近くで悲鳴が上がる。
「な、何だ……!?」
聞き覚えのある女の声で、まるで幽霊でも見たかのような絶叫。
面白半分で来たカイトも、流石にただ事ではないと気を引き締める。
「まさかあいつ、無理やり……」
考えうる限りの最悪を頭の中で浮かべつつ、再び足を動かす。
声がしたのは右にある廊下の一番手前にある扉から。
声はそれほど遠くなかったので、すぐに行けば全然間に合う距離だ。
脅しに使えるかもしれないとジェクターを構えながら、急いで手前の扉を開ける。
「おい、クソナンパ野郎。来てやったぞ……って」
カイトは中の様子を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
ベットの上で縮こまるペアの女。
彼女を見つけることは出来たが、彼女に今にも襲い掛かろうと両手を伸ばす存在――なんとそれはナンパ男ではなかった。
「ペアの女と……ゾンビ?」
灰色に変色した肌、剥き出しになった骨、濁った眼球。
鼻をつく腐臭と、動くたびに響く関節が軋む音。
死、そのものが歩いているような錯覚を起こすそれはこのゲームの主要ギミック――ゾンビだった。
これはゾンビサバイバルゲームのテストプレイ。
頭ではわかっているのに、自然とジェクターを持つ両手が震え出す。
ゾンビ役のアクターは基本的にAIロボットが務める。
小規模なものでもゾンビメイクを施した生身の人間だ。
だが目の前に飛び出してきたそれはAIロボットでも人間でもない。
映画に出てくる動く肉塊――ゾンビそのものだった。
「……ゥゥ……ガァァ……」
「う、打っていいんだよな? う、打つからな? おい、返事しろよ。何だよまったく」
動揺のあまり確認を取るカイト。
明らかに敵を利する行為だが、ゾンビはカイトのことを気にも留めず、まるで本能に従って肉にありつこうとする獣のようにペアの女へとにじり寄る。
やるか、やらないか。
ゾンビはカイトに躊躇う時間さえも与えてはくれなかった。
刻一刻と迫り来るゾンビに、遂にカイトは引き金を引く選択をした。
「……は?」
カイトは叫び声を飲み込み、目の前の光景に凍りついた。
放たれた弾丸は破裂音とともにゾンビの背中に叩き込まれる。
そこまではよかったが、問題はその後。
心臓部分に直撃した非殺傷のはずの弾丸は、何故か肉塊を槍のように貫き、辺りにドロリと黒ずんだ液体を四散させた。
生身の生物なら即死。
カイトの手から放たれた一撃はそれほどの威力があったのだ。
案の定、ゾンビ役は呻き声を上げながらその場に崩れ落ちる。
「な、何だよこれ……!?」
弾倉を慌てて確認するが、その答えは見つからない。
ただ死体のように動かなくなったゾンビ役と、その状況がカイト自身によって作り出されたという事実が残る。
自分のミスなのか、それとも誰かが細工したのか。
ゲームなのか、それとも現実なのか。
あらゆる可能性が通り過ぎては、また風のように消えていく。
疑問が渦巻く中、背後から再び呻き声のような音が聞こえてきた。
さっきと同じ、リアルすぎるゾンビだ。
しかも数は二体。
覚束無い足取りでゆっくりこちらに向かってきている。
「くそ……」
カイトはベットの後ろにある狭い隙間に潜り込んで即席の遮蔽物を作りつつ、そのゾンビ2体に銃口を向ける。
人を撃った経験などないし、死体に慣れているわけでもない。
だからここで冷静に行動を起こすことができたのはカイトがそれ以上の恐怖を知っていたからだ。
もし目の前のゾンビが本物だったとしたら。
あり得ないとはわかっていても、その可能性が頭を過ぎった。
一発目の発砲は右側のゾンビの首元に命中した。
鳩尾あたりを狙ったので、当たったのは運が良かった。
だがもう一体のゾンビを狙った二発目の発砲は失敗して、続いて撃った三発目を何とか胸に命中させた。
使った弾は計四発。
残弾数はゼロ。
ぎりぎりで2体目のゾンビも撃破した。
「終わった……のか……」
その場にへたり込むと、いつのまにかベッドから降りたペアの女が隣に座っていた。
目立った外傷はない。
だが雨に濡れる子犬のように弱々しい表情でカイトを見つめている。
「……坂井、くん」
「な、何があったんだよ」
「見たでしょ。ゾンビだよ、本物の……。これはそういうゲームだったの」
カイトは眉間に皺を寄せ、それから口を開ける。
「……そんなこと、あり得るのかよ」
「私も認めたくなかった。でもあの動き、あの見た目、どう考えてもロボットじゃない……。きっと私たちを一人残らず殺す気なんだ……」
改めて言われてもやはり信じられない。
本物のゾンビ。
あの光景を見ていなければ、もうその時点で笑いものだ。
目的は何なのか、なぜこの参加者だったのか、合理的な答えも見つからない。
何より引っかかっているのは、弾丸が当たれば頭ではなくても行動不能にできる脆弱さ、そして走れば余裕で逃げ切れそうな鈍足。
たとえゾンビが危害を加えてきたとしても、ヘマさえしなければ被害はゼロだ。
「怖い……怖いよ……」
不安を溢す女に、カイトは肩に手を置いて安心させる。
「だから大袈裟だって。正直、これがデスゲームならイージーモードだぞ。素人の俺ですらゾンビを倒せたのに」
「ゾンビ……?」
「違うのか?」
女は慌てたように首を左右に振る。
「違う、そうじゃないの。私が言ってるのは別のやつで……」
言葉を理解するよりも先に、女の声がピタリと止まる。
「あっ……」
直後、それは姿を現した。
灰色の肌や剥き出した骨は変わらない。
違うのは肩まで流れる長い髪と、目全体を覆う赤く滲んだ包帯。
何よりカイトの目を引いたのは左手の床を引きずるほどの長さを持つ凶刃だ。
まるで肉を骨ごと切り裂くために生まれたかのような五つの鋭い刃が手首の先で鈍い輝きを放っている。
ゾンビだが、ただのゾンビではない。
それはより確実に生物の命を刈り取るための進化を果たしていた。
「……やばい、あれはやばい」
「きゃぁぁぁぁ!!」
見つからないように息を殺して身を屈めようとした瞬間、隣から悲鳴が上がる。
その声は静寂を切り裂き、部屋に反響した。
心臓が一瞬止まった気がした。
単なる自殺行為。
いや、カイトを巻き込んでいることを考えるとそれはもはや殺人行為だ。
「……ギィ……ガゥ……」
呻き声が近づいてくる。
このままでは想像もできないような何かが起こる。
直感が女の口を塞ごうと手を持っていくが、その手は女に辿り着くことはなかった。
「ぁ……」
そこにもう女の姿はなかったからだ。
代わりに首から上が見当たらない身体と、地面に転がる六つに切り分けられた顔だったものだけが残されていた。
ゾンビだがただのゾンビではないあの異形の存在――鉤爪のゾンビによって切断されたのだ。
血が噴水のように吹き出し、人間の顔だったものはただの肉片と化している。
「…………」
カイトは口を閉ざす。
恐怖で声が潰れたのか、それともまだ希望を失っていなかったのか。
わからないが、頭の中はあの空気を丸ごと切り裂くような鋭い音と、横たわった人間の亡骸が焼きついていた。
鉤爪のゾンビは呻き声を上げながら顔を左右に揺らす。
余計な行動が目立つが、カイトの息遣いを聞いて着実に照準を合わせている。
次はお前の番だ。
そう宣言するように。
鉤爪で壁や床に耳障りな裂き傷を刻みながらようやくカイトを捉えると、迷わずその凶刃を振り上げた。
──殺される
刹那、その四文字が頭を掠めた。
「……ギィィ……グゥゥ……」
振り下ろそうとするちょうどそのタイミングで鳴り響くいたドンッという銃声。
その音に反応して鉤爪のゾンビが一瞬、動きを止めたかと思うと、すぐに銃声が響いた方に向きを変えてゆっくりと移動を始めた。
「っ……」
突然差した込んだ光明。
カイトは口を手で押さえ、極限まで気配を消す。
いつのまにか血溜まりが足元を浸していたが、そんなことは今のカイトにはどうでもいいことだった。
祈った。
奴が遠ざかるのをただ祈った。
「ふゥ……ふゥ……」
暫く呻き声と鉤爪を引き摺る音が響いていたが、それも小さくなり、やがては闇の中に消えていった。
カイトは震える手をもう片方の震える手で押さえつける。
最初はリアルを追求したイベントなのだろうと思っていた。
ゾンビはそのリアルの延長線なのだろうと。
そうであってほしいと願ってすらいた。
だが今はもうそんな能天気な発想はない。
これはゲームはゲームでも、死が付きまとうデスゲーム。
人という尊い命がいとも簡単に吹き飛ぶ場所。
現実世界から断絶した骸の世界――。
「うっ……」
カイトは肉片になった女が血溜まりに沈んでいる様子を眺めながら、言葉にならない言葉を叫んだ。




