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1話



 命乞いをする時間も、ここに来たことを後悔する時間も与えられない。

 生きるか死ぬかの瀬戸際で坂井(さかい)カイトは、本能からこの環境に順応しようとする一匹の動物だった。


 こんなところで死にたくない。一刻も早くこの地獄から脱出したい。


 そのために靴擦れによる足の痛みも忘れて、生にしがみつくように惨めったらしく、ただひたすら迫り来る脅威から足を動かした。

 途中で躓いてしまっても、すぐに起き上がって、また足を動かした。

 ただひたすらその繰り返し。


 力尽きるまで何度も。

 踊り狂うように何度も、何度も。

 あるかどうかもわからない出口を見つけるまで何度も――。




◇――――◇――――◇――――◇――――◇




 時刻が13時を回った瞬間、坂井(さかい)カイトは睨み合っていたスマホをポケットの中にしまう。


「そろそ開始の時間だな」


 ゾンビ役の演者(アクター)と人間役の参加者(プレイヤー)がサバイバルを繰り広げる様子をライブ配信で世界中に届ける、リアルゾンビサバイバルアクションストリーム、


 『ハント・ザ・デッド』


 サバイバルゲーム大会の成功を元に考案されたこの企画は生きた人間が自らの意思で行動(プレイ)する様子が見られるのはもちろん、演者や参加者をただ映すのではなく、

リアルなデジタルアバターに変換してから映すことで、既存のライブでは不可能なエフェクトをつけた演出を可能にし、さらに視聴者はそれをイベント会場を完全に再現した3Dのデジタル空間を通して自由な視点で見ることができる、没入型のライブ体験となっている。


「――お集まりいただいたた皆様、誠にありがとうございます。まもなく説明を開始致します」


 今回、カイトが参加するのはそのライブイベントではなく、一歩手前の最終調整(テストプレイ)


 ゾンビ役の演者(アクター)と、応募した中から抽選で選ばれた参加者(プレイヤー)が小規模の模擬戦(サバイバル)を行うという内容のテストを今日、明日、明後日、そして朝昼夕の計9回実施する予定で、ここに集まった参加者たちは2日目の昼の部、つまり5回目のテストプレイに当選したテスターたちだ。


 大層な防護服を着用して出入りしている人物たちは恐らく設営のスタッフなので、それを除けばここには10名の参加者がいる。


「ようやく開始か。流石に待ちくたびれたぜ」


 青髭の目立つ中年の男。


 第一印象は体育の教師をやっていそうな感じ。

 図体がデカく、強面だが、落ち着いていてどことなく頼りになりそう。


 見た目や特徴的な酒焼け声から恐らくはここに集まった参加者の中で最年長の人物だ。


「こういうのに女の子が来るって珍しいね。しかも1人で」


「そ、そうですかね……」


「僕も1人だしよかったら協力しようよ。可愛い子が近くにいるとやる気出るしさ。もちろんいいよね?」


 いかにも女性と話すことに慣れてそうなナンパ野郎と、そのナンパ野郎のターゲットにされている大学生ぐらいの見た目の女。

 女性人口が極端に少ないこの界隈でもこういう出会い厨が湧くのはよくある話だが、実際に目にするのは初めてだ。


 20代ぐらいの女は地味な割にパーツは整っていて、さらに出るところは出ている。

 出会い目的の男からしたら格好の餌だろう。

 眺めていた時に一瞬だけ目があったが、面倒くさいことを避けたいカイトはそれを無視した。


「何か雰囲気ないなぁ。スタッフもやる気なさそうだし。いくらテストプレイとはいえこういうの見ると萎えるよ。本番は有名人とかサバゲーのランカーも呼ぶらしいけど、テストでこれなら本番もたいしたことなさそうだね」


「まだ始まってもないのに決めつけるのはどうなんだ」


「忌憚のない意見だよ。サバゲー出身のこの僕のね。もちろんいい意味で期待を裏切ってくれたならそれに越したことはないよ」


 不満をこぼす男は小太りで、瞳の奥に見える眼光は冷たい。

 まるで性格を表したような見た目だが、実際に開始の時間が遅れたり、覇気の感じられない運営が指揮してたりと、言っていることは強ち間違いではない。


 逆に、苦言を呈す男は端正な顔立ちで、顔を強張らせていてもその奥には暖かさがあり、同時に知性のようなものも感じる。

 まさに主人公を絵に描いたような人間だが、両者を比べればどちらかというと嫌いなタイプは彼の方だ。


 完璧な人間ほど恐ろしいものはない――それが専らのカイトの信条だった。

 

「よく聞け、愚かな、人間たちよ。この世界は、やがて、終焉を迎える」


「終焉? それってまじ? やばくね? どうすりゃあいいんだよ、おっさん。俺はどうすれば世界を救えるんだ」


「……よく聞け、愚かな、人間たちよ。この世界は、やがて、終焉を迎える」


 謎の陰謀を唱える男と、それに乗っかるアホそうな男。


 この2人に関しては何を言っているのかも、何を考えているのかも、なぜこのテストプレイ参加したのかもさっぱりわからない。


 ただ、関わってはいけないタイプの人間だということは十分に伝わってきた。


「他は……」


 さらに他の参加者に目を向けようとしたところで、声をかけられる。


「――おい、そこの制服着てるお前」


 短く刈った髪に、コンプレッションウェアから覗く筋肉、さらに180センチは余裕で超えているであろう長身。

 黒縁のメガネをかけていても一目でスポーツマンだとわかるその男は、明らかに穏やかではない感情を宿した目で睨みつけてくる。


「候補者名簿に載ってた名前は確か……坂井(さかい)カイトだったな」

 

「……そうだけど、何だよ」


「俺は2番、お前は10番。この意味、わかるよな」


 わかるかわからないかで言えば、もちろんわからない。

 今日のテストプレイに関連することであるというのはわかるが、情報が少な過ぎる。


「さあ。今週のラッキーナンバーか何かか?」


「そんなわけないだろ。ここに集まった順番だ。お前は圧倒的ドベ。年下なのにも関わらず、だ。俺がいたコミュニティならありえないことだからな。若い奴は普通、先に来ておくもんだろ」


「あー、そういう……」


 まるで子供に注意するかのように冷静に詰めてくるメガネの男。

 対してカイトはうんざりしたように一度だけ「はっ」と鼻を鳴らす。


「お前が決めたルールなんて知るかよ。守りたいやつだけ守ればいいだろ」


「ちっ、本当に生意気なやつだな……。いいか、これだけは覚えとけ。ここはガキの遊び場じゃないだ。生半可な気持ちで来たなら今すぐ帰れ」


「覚えとくよ。帰らないけどな」


 言うだけ言って満足したのか、男は元いた場所へと歩き出した。

 コミュニティのことはわからないが、ああいった謎のナワバリ意識を持った奴はどの界隈でも見かけるものだ。

 自分が1プレイヤー、1ファンであることを忘れて勝手に自分のルールを作り、それに違反した者がいるなら容赦無く不満をぶつける。


 とにかく厄介極まりない連中だ。


 周りを見渡すと、スタッフの男を含めた周りの人間がカイトの方にチラチラと視線を向けている。

 さっきの会話のせいで悪い意味で注目を浴びてしまったのだろう。

 まあ、最初から馴れ合う気のなどなかったカイトにとってこの状況はそれほど気にするようなことではない。

 たとえムキになっていたとしても言いたいことを言った。

 カイトにとってそれは誰かに嫌われるよりも大事なことだ。


「――それでは時間になりましたので説明を開始します」


 その声で一斉に参加者たちが向き直る。


「ここに集まってもらった10名の皆様には今からテストプレイ会場であるここ廃病院で本番よりも小規模の模擬戦(サバイバル)を行ってもらいます」


 テストプレイの会場はスタッフの男が言った通り廃病院。

 屋上付きの五階建てで、カイトたちがいるのはそのエントランス部分だ。


 人の手によってある程度綺麗にされてはいるが、隠し切れなかった煤や苔の汚れが時の流れをまじまじと感じさせる。

 事前に調べた情報では心霊スポットとしても有名だった場所のようだ。


「ゲームの仕組みは単純で、フィールドに落ちている武器や回復薬といった物資(アイテム)を上手く使いながら出口を目指す、要はホラーゲームのリアル版です。無事に出口まで辿り着くか、院内の全てのゾンビを倒せばクリア。しかしクリアする前にゾンビに攻撃されてライフポイントが尽きればゲームオーバーとなります」


「バグの報告とかはしなくていいってことか」


「はい。本番さながらにとにかく生きて出口まで辿り着くということを頭に入れておけば、逃げ回っても、立ち向かっても、何をしても構いません。我々が欲しいのは純粋にプレイした結果のサンプルなので」


 言葉を挟んだのは中年の男。


 確かにテストプレイといえばバグの報告をする機能テストやゲームの感想、または改善点を開発チームに伝えるフィードバックの提供を思い浮かべる。


 実際にカイトも説明を聞くまではどんな感想を書こうか考えていた。


「他に質問は……ないようなのでさっそくステージの方に移動を始めたいと思いますが、その前に少しだけ準備をしてもらいます」


 スタッフの男はそう言いながらカウンターの上に置かれた銀色のケースを軽く叩く。


「このアタッシュケースの中にはプレイヤーの動きや外部からの刺激を感知するモーションスーツ、それからメインの武器として使う『ジェクター』と呼ばれる特製の銃一つと、その銃に装填できる特製の弾が四つ入っています。これらはゲームに必要なものなので、説明が終わり次第、各自取りに来てください」


 モーションスーツは装着者の動きを追跡し、ライブ映像に反映させる用途と、敵からの攻撃を感知し、ヒットポイントの増減を算出させる用途の二つがある。

 見た目はジャケットのような感じで、服の上に着ても下に着ても問題なさそう。


 武器は砲身が大きいのが特徴の近未来的なデザインで、どことなく厨二心をくすぐられる。

 色は黒一色のモーションスーツとは対照に白を基調としている。

 どちらもサバイバルゲームには欠かせないアイテムだ。


「VRゴーグルはないの?」


「プレイに支障が出ないと判断したものは今回、用意していません」


 小太りの男が言っているVRゴーグルは、弾の弾道やゾンビのアバターといった視聴者の視点を見る道具のことだ。

 これに関しては小太りの男以外からも落胆の声が上がっており、それなりに期待されていたコンテンツだったようだ。


「注意点としてモーションスーツのファスナーを閉める時は“カチッ”という音が鳴るまで上げてください。中途半端に閉めると不具合の元になりますので。また、空になったアタッシュケースは貴重品の保管庫として使用してください。会場内で紛失されたものについて我々は責任を負いません。ただし、スマホなどの撮影機は強制でケースの中に閉まってもらいます。もし会場内を無断で撮影した場合は相応のペナルティがあるので気をつけてください」


「……大企業のペナルティ。想像しただけで怖いね」


「今から5分後に再び声をかけます。早くに準備を終えた方がいたら出来ればで構いませんので、2人一組のペアを作っておいてください。これは今回のお試しのルールですが、五つあるスポーン位置に振り分けるためのペア組なので、特に協力を推奨するようなものではありません。もし五分経ってもペアが決まっていない場合はこちらで無作為に決めさせてもらいます」


 ナンパ男の言葉に内心頷きつつ、カウンターの方に目を向ける。


 スタッフの男の説明によれば、今から参加者がしなければならないのはアタッシュケースを取りに行って、中のものを携帯すること。


 1人で来ているので、周りに気軽に相談できる相手はいないが、スタッフの男の実演込みの説明を見て扱い方は既に頭に入っている。


 説明が終わり、カイトに絡んできた男と小太りの男が早速動き出す。

 少し経って最年長の男が。さらにのすぐ後にナンパ男とそのペアの女も動き出した。

 以降は周りの様子を伺って殆ど動きはない。

 行くとしたら今だろう。


 カイトはナンパ男がアタッシュケースを持ち上げたちょうどそのタイミングで動き出す。


「どれでもいいのか……いや、名前が振ってるな」


 残った6つのケースの内の一番端にあるケースを適当に手に取り、すぐに名前を確認する。


「これは……俺のじゃない。伊崎(いざき)アイリ……誰だ」


「――それ、私の」


 ケースを戻そうとした時、不意に声をかけられる。

 カイトと同じ高校生ぐらいの見た目をした女の子。

 目元までかかる前髪と大きめの黒目がミステリアスな印象を与えるが、穏やかでどこか心地のいい声と、安心感を覚える柔和な笑みが親しみやすさを演出し、むしろ誰からも好印象を持たれるような素敵な女性を作り上げている。


 カイトはその女の子に魅入ってしまったせいで一瞬、何が起こったのかわからなくなるが、すぐに彼女が伊崎アイリ本人だと気づいて、急いで持っていたケースを突き出した。


「わ、悪い。名前の部分が見えづらくて確認してたんだ」


「うん、わかってるよ。坂井カイトくんのは……こっちのケースだね。はい、どうぞ」


「ありがとう……。でもどうして俺の名前を?」


「さっき宮野(みやの)って人に絡まれてたでしょ。あの人、みんなにああやって絡んでるの。だから気にしなくていいよ」


 気さくに話しかけてくれる。

 しかも心配まで。

 見た目だけではなく、性格まで素敵な女の子のようだ。

 思わず頬が緩みそうになる。


「あんなの別に気にしてないよ。気弱じゃないし。そもそも言ってることもなかなか理不尽だったし」


「多分、噂を信じてるんだよ。テストプレイで良い結果を残せたら、一般枠で本番に出演できるっていう」


「ああ……」


 「ハント・ザ・デッド」には運営が声をかけて招集される特別枠の他に、一般枠というのものがある。

 この一般枠はまだ選出者も選出方法も未定で、風の噂ではテストプレイで好成績を収めれば声をかけられると言われいるが、実際のところはまだ何もわかっていない。


「それって公式が一切発表していない眉唾のやつでしょ。あんなの本気で信じてる人いるんだ」


「結構いるみたいだよ。特にサバゲー出身者は。あの界隈は自分達こそが『ハント・ザ・デッド』にメインで出演するべきだって思ってるからね」


 特別枠は既に多数の有名人の出演が決まっていて、その中にはプロのサバゲープレイヤーも含まれているが、中にはもちろん選ばれなかったプレイヤーもいる。


 そのあぶれ人間が次に目をつけたのが一部で出ていた「テストプレイで好成績を収めれば一般枠で呼ばれる」という根も葉もない噂というわけだ。


 宮野がその一般枠に縋るしかないサバゲープレイヤーだと仮定したら、本番のような緊張を纏っていた理由にも納得がいく。


「何か辛気臭い話になっちゃったね。カイトくんは高校生?」


「そう。この近くの野川(のがわ)って高校のニ年」


「ちょっと待って、私も野川。二年五組。え、すごい。私たち、同級生でしかも同じ高校だったんだ」


「伊崎も?」


 本当にすごい偶然だ。

 マニアックな人間しか来ない場所で、こんなに顔も性格もいい同年代の女の子と出会えるなんて。


「私も名前で呼んでよ。同級生なんだし。それで、見たところカイトくんは一人で来たんだよね」


「先輩と一緒に応募したんだけど、組は別々になって。その先輩は一つ前の朝の部なんだ」


「それは残念だったね。じゃあもしカイトくんがピンチになったら私が助けてあげるよ。こうして私たちが出会ったのも何かの縁だしね」


「嬉しいけど、男としてはちょっとカッコ悪いな」


「あはは、じゃあもし私がピンチになったら助けてね?」


 カイトは一度、俯いてから再びアイリの方に顔を向ける。


「……なあ、よかったら一緒にどう」


「どうって?」


「ほら、2人一組を作れって話があったじゃん」


「あー……」


 ストレートなペアの誘い。

 だがアイリはすぐには答えず、代わりに眉を八の字にする。


「それは……ごめん。実は知り合いと来てて。もうその人と組むって話に……」


「知り合い? そ、そうだったんだ。じゃあ、仕方ないな」


「本当にごめん。カイトくんが嫌ってことじゃないんだけど」


「別に大丈夫だよ。俺も同じ状況なら断ってるし。他のペアを探すよ」


「本当にごめんね……」


「あはは……」


 アイリの返事に何でもないような表情で応える。

 そんな大人や対応を見せるカイトだが、もちろん心の中は張り裂けそうなほど動揺していた。

 これでも勇気を振り絞って提案した方で、断られた時はこの世の終わりかと思うほど頭が真っ白になった。

 とは言え、知り合いがいたのならどうしようもない。

 今日知り合った奴と、普段から懇意にしている知り合い、どちらを優先するかは考えるまでもなく決まっている。

 もし同じ状況ならカイトも同じ行動を取っただろう。

 

 カイトは気まずを振り払うかのように周りを確認する。

 アイリがダメだと分かったなら、次は別の候補を探す番だ。

 アイリとカイトが話していた時間は制限時間の半分。

 その間にペアと思われる二人組が誕生していて、まずは最年長の男と、小太りの男。

 意外な組み合わせだが、本人たちは納得しているのか余裕の表情を浮かべている。


 次にナンパ野郎とナンパされていた女。

 この二人に関しては納得の組み合わせだが、ナンパ男と違って女の方は落ち着かないのか、終始肌を摩っている。


 今のところはこの2組。

 ペアを探すとしたら、この4人以外からだ。


「短い時間だったけど、話せてよかったよ。じゃあ俺はこれで……」


 無言で別れるのも変なので、最後に声をかけようとした。


「――ユウト、自分のケースは見つかった?」


「――おう。この通り。アイリは?」


「――私もばっちりだよ。すぐに準備しよ」


 だがその言葉は最後まで紡がれることはなかった。


 目の前の光景に思わず目を丸くする。

 アイリのペア――それは年齢が近そうなあの主人公顔男だった。

 そう、女ではなく、男だったのだ。

 確かに知り合いという言葉は同性に対して使われることが多いだけで、必ずしも同性を表すものではない。

 カイトが同性だと思い込んでいた、いや、思いたかっただけで、異性の可能性は十分にあった。


 テストプレイという名のホラーゲームの体験イベントに男女が二人。

 その関係は考えるまでもなく友達以上。

 つまりは恋人だ。


「は?」


 アイリは男と仲睦まじげに会話している。

 カイトとの会話では見せなかった女の顔をしながら――。


 その時、カイトの中で何かが弾けて崩れた。


「ゾンビが、全てを、飲み込み、人類は、破滅を、迎える」


「だからどうすればいいんだよ。どうすれば俺はヒーローになれるんだ!」


「ゾンビが、全てを飲み込み、人類は、破滅を、迎える」


「…………」


 残ったのは陰謀を垂れ流す謎の男とそれに乗っかるアホそうな男、そしてカイトに絡んできた宮野の三人。


 カイトは一度目を擦り再び現実であることを理解すると、ペアのことは忘れて準備を始める。


 まずはモーションスーツだ。

 周りに倣って服の上から羽織り、ファスナーを「カチッ」と音が鳴るまであげる。


 もう一つの「ジェクター」は既に弾が装填されているので、手に持つだけで用意は完了。


 最後はスマホをケースの中に入れて準備は終わりだが、確認としてスマホの通知を見ると、メッセージが届いているのが見える。

 送り主は朝の部にテスターとして参加しているカイトの先輩だ。


「……何だこれ」


 カイトは内容を見て眉間に皺を寄せる。


「『健闘を祈る』……どういうことだ?」


 何の脈絡もない言葉。

 普通に読めば「応援してる」という意味だが、上の文章との繋がりはなく、何を伝えたかったのかがよくわからない。


「――時間になりました。ペアが決まっていないのは四名ですね……では宮野(みやの)様と中津(なかつ)様、それから坂井(さかい)様と道元(みちもと)様のペアでお願いします」


 何事か聞き返そうとした時、同じタイミングでスタッフの男が手を掲げる。

 タイムアップのようだ。


 慌ててケースの中にスマホをしまい、前を向く。

 メッセージに気を取られてペアのことが何も進まなかったが、元々ぼっちになることを前提でテストプレイに参加したカイトにとってこの状況は想定外でも何でもない。


 むしろこれが正常。

 もしペアのことで問題が起これば、すぐに運営に報告すればいい。

 問題はない――はず。

 

「皆様、準備は出来ましたでしょうか」


 頷きながら、家から付けてきた首元のペンダントにそっと触れる。

 何か不穏な空気が流れている気もするが、カイトには行かないという選択肢はない。


「では移動を始めます」



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