篝火編 第九話
著者:吉野玄冬 様(ココナラ
企画:mirai(mirama)
「…………」
セイジは何も言わずにただ一歩、前に足を踏み出した。
「や、やだっ、来ないで!」
当然、アカネは逃げようとするが、ずんずんと距離を詰めていく。
彼女は後ずさるだけだったので、容易くその腕を掴んで捕らえることが出来た。
「いやっ、このままじゃセイジが、セイジが……!」
アカネは血相を変えて振り払おうとする。何がきっかけであの力が作動するか分からない、と怯えているのだろう。
けれど、セイジは躊躇いなく両手で彼女の肩を押さえつけると、その目を見つめて告げる。
「俺を消せるものなら消してみろ!」
「っ……!」
アカネの潤んだ目が見開かれるが、何も起きない。
確証があったわけではないが、どうやら大丈夫そうだ。
あの力が何をトリガーとするのかはまだ分からないものの、当時の状況を考えると、アカネの強い意思あるいは自分達への敵意や悪意が必要なのだろう。
そう分析したセイジは諭すような口調で伝える。
「確かに、お前が持つ力は危険なものかもしれない。だが、それは使いようによっては人を救う力にもなるだろう。危ういものも制御して役立ててきたのが人の叡智だ」
理性が発したのはそこまでだったが、感情が自然と次の言葉を口にしていた。
「一つ言えることがある。お前は俺を助けてくれた。その力がなければ、俺はあの場で死んでいただろう。だから、ありがとう、アカネ」
彼女は安堵したのか、両目から大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「うっ、うわあぁぁあぁぁんっ……! 怖かったよぉぉ……!」
アカネはこちらの胸元に縋りつくと、わんわんと幼子のように泣きじゃくった。
実際、彼女はまだ子供なのだ。朱世蝶なのか何なのか、現状どんな存在かは不明だが、この世界について知らないことだらけで、だからこそ知っていく必要がある。
そうして、これからどう生きていくのかを選べば良い。それは自分が関知することではない。
ひとまずは問題解決だ。ゾフィールからの依頼を果たす為に出発するとしよう。目的の座標までそう遠くない。
だが、今回の一件で確かめなければならないことが出来た。
事と次第によっては、何を選ぶか決める必要がありそうだ。