篝火編 最終話
著者:吉野玄冬 様(ココナラ
企画:mirai(mirama)
「それじゃ今日のところは、ここで休ませてもらうことにする」
セイジは冷淡に告げると、部屋を出ようと歩き出す。
「そうするといい。もし説得に時間が掛かるようであれば、数日滞在しても構わない。人類を救う為であれば、その程度は些細な事だ」
ゾフィールの言葉を背に聞きながら開いた扉の前で、思い出したように振り返って言う。
「そうだ、こいつもあんたにやるよ。あいつがいた場所で手に入れた物だ。調べ甲斐があるんじゃないか?」
懐から取り出した物を投げ渡す。
それは幾何学的な形状をした、生体探知型の爆弾。
現在は無力化されているが、いつでも解放することが出来る。
「ほう」
ゾフィールは興味深そうに手に取ると、まじまじと眺めていた。
「じゃあな」
部屋を出たセイジは、発信機の信号でアカネの位置を確認した後、早足でそちらに向かう。
扉が開かれると、高級ホテルのような広々とした部屋の中で、彼女はポツンとソファに座って心細そうにしていた。
「セイジっ」
こちらを確認して彼女はパーッと表情を輝かせて寄ってきた。
セイジは機器を操作すると、あの爆弾を解放する指令を出した。
途端に派手な爆発音が建物内を震わせる。アラームがけたたましく鳴り響いた。
「きゃっ、な、何……?」
怯えた様子で周囲を見回すアカネの手を引いた。
「アカネ、逃げるぞ」
「う、うんっ」
自分で起こしたことなのだから当然だが、冷静なセイジに安堵したのか、アカネは狼狽えずに付いてきてくれる。
この事態を見越して記録していた道のりを辿り、無事に宇宙船まで戻ることに成功した。建物内の混乱に上手く乗ずることが出来た。
ハッチは閉じられていたが、船に搭載している武装で破壊して脱出する。
宇宙に飛び出し、グングンと加速して離れていく。
ゾフィールを殺した為にそれどころではないのか、追手が来ることはなかった。
セイジが一息吐いたところで、アカネが話しかけてくる。
「何があったの?」
「交渉が決裂してしまってな。悪いが、逃げることになった」
「そうなんだ~」
アカネは能天気な様子だった。
それなりの見識があれば、セイジがゾフィールを殺したことも推測できそうなものだが、その精神はまだまだ未成熟なのだろう。
そんな彼女を見て、初めて出会った時に表示された、二つの問いかけを思い出す。
『セカイ、ホロボシマスカ?』
『セカイ、スクイマスカ?』
彼女は暗闇の中の篝火のように、この世界を導くことが出来る存在なのかもしれない。
ゾフィールは更なる文明の発展という意味合いで、世界を救うことに固執した。
この広い銀河の中にはきっと、世界を滅ぼすことに固執する人間もいるだろう。
けれど、答えをその二つに絞る必要はどこにもないし、誰かに決められる謂れもない。
答えは無限にあって、だからこそ、アカネ自身がどう在りたいかを選んでいけば良い。
「次はどんなところに行くの?」
「さてな。特に予定もないし、俺が定めた範囲の中なら、アカネが決めていいぞ」
「ほんと!? やった!」
アカネが一人で喜びはしゃぐ姿を見て、セイジはふと微笑を浮かべていた。
初めは彼女の存在を煩わしいと思ったが、今は……悪くない。そう思えた。
二人を乗せた宇宙船は銀河の果てへと飛んでいく。
その辿り着く先は、まだ誰も知らない。




