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それでも、生きていた  作者: sinnemina
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第4−6話

お婆さん「すまないけど、今日限りで出て行ってくれないかい?」


突然の退去勧告だった。七日目の朝を迎え、本来なら食事の時間となるが、お婆さんが話があるといい、出迎えたらこんな展開になってしまった。




お婆さん「あんたは悪くないんだけどさ、噂が立っちまってね。こちらも客商売だからさ。わかるだろ? とにかく今日の分のお金は返金するから昼までには出とってくれよ。」


そう言い、お婆さんは足元にセミ銀貨を四枚置いていき立ち去った。僕から返事等は一切していないのだが…。


これは決定事項で覆せないのだろうな。ハァと溜め息をつき、床に落ちてるお金を拾うと荷造りを始めた。幸いな事に荷が少ないのと荷造りには慣れてきたので二十分もかからずに終わった。


それにしても、噂か…。他の宿泊者に顔でも見られたのか? それとも外で洗顔してる最中に通行人に見られたのかな? で、僕の顔を見て、ピン!ときた訳だ。検問所で聞いた手配書とかいう物でもバラ撒いてるのかな? だとしたら中々の効果だ! 当事者だが関心してしまうよ。


だが、手配書には何て書いてあるのだろう?容疑者だったら即座に憲兵が来てもいいはずだからな。重要参考人とかボヤかした感じで書いてあるのか? その手配書を見てみたいな。




「僕の手配書って、どんな事が書いてあるんですか?」って聞いたら答えてくれるかな? フッ…。想像したら鼻で笑ってしまった、くだらない事を考えてしまった。




ともかく荷造りを終え、宿屋から出ると入口でお婆さんが近所のオバちゃんと話していた。このまま何も言わずに出て行こうと思っていたが、見かけてしまったので、僕はお婆さんに、これから出て行く事とお世話になった旨の感謝を告げ、宿屋を去った。


僕が歩き始めて、お婆さん達の距離が数m離れた所で、後ろから話し声が聞こえてきた。




お婆さん「やっと出て行ってくれた、初めて見た時から私は怪しいと思ったんだよ。」




オバちゃん「そうよね、私も見ただけで寒気が走ったわ!」




(聞こえてますよ!)って言うべきか…。いや、聞こえる様に言ってるのかもな。




お婆さん「あいつはマナーも悪いし、陰気臭いしで客からの評判も悪かったよ。その上、私が注意したら睨んできた事もあったよ。」




オバちゃん「まあ! それは怖かったわね〜。」




陰気臭いのは否定出来ないが、マナーが悪いってのは食器を返却しなかった事か? 言い訳を挟むが、宿屋のルールを知らなかったのもあるし、それに一回だけだぞ。


睨んだってのも、僕はそんなつもり無かったし普通に対応してたと思ったんだが…。話を盛ってないか!? 




もう接点が無いとわかっていても、自分の事を悪く言われるのは気分が悪いものだな。




そして僕は悪口を背中で受けながら、宿屋を後にした。



宛もなく街を歩いていると、お腹が空いてきた。そういえば朝ご飯を食べ損ねたな、無理を言ってでも朝食を出してもらうべきだったな。いや、お婆さんのあの態度ではそれも厳しいか。にしても寝床が無くなったな、これからどこに行ったらいいんだろう?




そうだ! 食べ物で思い出したが、サイさんのとこでは果物も扱ってたな。リンゴとかだったら最悪、皮を剥かなくてもそのまま食べれるし。でも、果物が入荷してなかったり売り切れてる可能性もあるな。まあ、サイさんとこに行けばわかるか。


僕は行先をサイさんの八百屋に向けて歩きだした。




八百屋が見えてくると、店先でサイさんが接客しているのがわかる。お腹が空いているのもあるが、久々にサイさんに会えたのが嬉しくなって早足で向かう。するとサイさんが僕に気づいたのか、ハッとした顔をする。そしてサイさんがこちらに走って来ると、勢いよく僕を殴りつけた。




サイさんの体重を乗せた拳が僕の左頬に当たると衝撃で1m程、吹っ飛んでしまった。左頬が無くなったのかと錯覚する威力で、殴られた直後は自分の顔を何度か触り、顔がある事に安堵した。ショックで呆けた顔をしているとサイさんに胸ぐらを掴まれ起こされた。




サイ「てめえ、何しに来やがった!?」




アキラ「ど…どうして?」


サイさんの凄みに震えながらも僕は答えた。




サイ「どうしてだと!? それはこっちが聞きてえよ! お前の事もダチだと思ってたのに…。何でファルザを殺した?」




アキラ「ち…違う! 殺してなんかない。」




サイ「違うだあ!? 俺だって最初はそう思ったよ。お前がそんな事する訳無いってな!」




アキラ「だったら、どうして…?」




サイ「お前、事件が起きてから今まで何してた?」




アキラ「…ッ。」


サイさんの発言に言葉が詰まる。




サイ「事件の後、三日間勾留されたそうだな。だがその後は何だ? 南下して他区へ行こうとした? そして検問を通れなかったから宿屋に滞在だと?」





サイ「俺達に何も言わずにか?」





そうだった、忘れていた。…………いや、嘘だ。本当は気付いていた。報告をしなければならない人達がたくさんいる事ぐらいは。だけど、目を背けてた。ファルザさん達の死を認めたくない気持ちもあったが、それよりも何よりも罪の意識があった。ファルザさん達を見殺しにし、犯人を隠蔽した僕には合わせる顔がない。まともに相手の顔を見れるはずが無いんだ。





サイ「そして、手配書が出回ったタイミングでノコノコ出てくれば嫌でも疑うだろ! 根回しでも頼みに来たのかってな。」





そうか、サイさんも客商売だもんな。手配書が来るなり、客との会話から噂を聞く事もあるよな。僕の動向も把握してるはずだ。




状況とは裏腹に、冷静に分析している自分がいた。





サイさんが一瞬、悲しそうな顔をして


サイ「いっそ旅立ってくれてたら、まだ信じ切る事が出来たんだ、なのに…何で来たんだよ…。」




アキラ「ぼ……僕は、ただ」




痛っ! 脇腹にチクッとした痛みが来る。足元を見ると小石が転がっていた。石が飛んできた方向に顔を向けると、人形を抱えた少女が立っていた、サヤちゃんだ。





サヤ「お前なんか、死んじゃえ。」


ドータちゃんと仲良しだったサヤちゃんが僕を憎むのも当然か…。




娘のそんな様子を見ていられなくなったのかサイさんは僕を振りほどくと、サヤちゃんを取り押さえる様に抱きしめた。




サヤ「パパ! 離して! あいつが悪いやつなんだよ!」




サイ「止めろ、止めてくれ!」


サイさんの頬に一筋の涙が流れる。




サイ「早く行ってくれ! もう二度と顔見せるな。」




僕は立ち上がると、サイさん達に背を向け走り去った。





サイさんの店が見えなくなるまで走ると、徐々に速度を緩めて、また宛もなく歩きだした。疲れたのでその場で休もうとしたが、今しがた走って来た僕は目立っていて、街の人の好奇な視線を感じたので、その場から離れる事にした。




動悸が激しい、胸が苦しい。この苦しさは走ったせいなのか、それとも心が痛いのか。……ただの息切れだな。もう色々な事が起きて感覚が麻痺しかけてるのもあるが、そもそもの原因が僕なんだ。加害者の僕が被害者ヅラしていい訳が無い。心を痛める資格なんてある訳が無い! 許される訳が無いのだから…。





俯きながら歩いていると、美味しそうな匂いが鼻先に漂う。タマネギを炒めている香ばしい香りだ。こんな状況だが、ご飯にありつけなかったのもあったので、匂いの元を辿って行く。すると、彩りのある花壇とモダンな食堂が見えてきた。ルーガさんのお店だ。




(お腹減ったな。もう、周囲の目とかどうでもいいや。)ヤケ気味に思いながら扉を開けると、鐘の音が店内に響く。




ルーガ「いらっ!………………しゃい。」


元気だった声が、僕を見た途端みるみる萎んでいく。店内は今しがた客がはけたばかりなのだろう。客は一人もいなかったが、ルーガさんはテーブル席の食べ終えた食器を片付けている最中であった。


僕はカウンター席に座ると、ルーガさんが水を注いだコップを出してくれた。




ルーガ「……注文は?」


有り難いことに、僕の噂を知っていても作ってくれるようだ。




アキラ「三色プレートをお願いします…。」


僕はセミ銀貨一枚を差し出すと、以前来店した時と同じ注文をした。




ルーガ「…あいよ。」


ルーガさんはセミ銀貨を受け取ると、すぐに調理を開始した。


肉が焼ける音と美味しそうな匂いが充満している中、僕はただカウンターに目を伏せ待っていた。




ルーガ「はい、お待ち。」


ものの十五分程で完成し、出された料理は皿の上で脂が跳ねる音と湯気を出していて、見た目だけで満足しそうな出来映えだ。




ナイフとフォークで、一口分切り分け、口に運ぶと出来立てならではの熱が口に広がる。


久しぶりの感覚だったので、出来立てを食べたのはいつ以来かな?と考えると……マーザさんが生きてた時、以来だな。と納得してしまう。




顔を上げると、調理を終えたルーガさんが洗い物をしているが、マーザさんの面影が重なってしまい、胸が締め付けられる。




見るのが辛くなってきたので横に視線をずらすとファルザさんとドータちゃんの思い出が鮮明に蘇った。……そうだった、以前来た時も僕は同じ席に座っていたんだ。


思い出のファルザさんとドータちゃんは笑顔で楽しそうに食べている。




そして、すぐにボヤけて消えてしまった。




もう会えない。 もう、皆はいないから。 皆は死んだんだ。僕のせいで! ……僕が奪ってしまったんだ。





アキラ「っく、……ひっく……うう…。」


涙が止まらない。あの事件が起きてからは、一度も泣かったのに、今は泣くのを止める事が出来なかった。




ルーガ「!! ちょっと、アンタどうしたんだい!?」


僕の異変に気付いたルーガさんが、慌てた様子で僕に駆け寄る。




アキラ「う、うう…。」


答える事が出来ずに、僕はただ泣きじゃくっている。








二十分ぐらいだろうか…、涙が出なくなり、少し荒いが息も整ってきた。


僕の様子を察したのか、ルーガさんが問いかけてくる。




ルーガ「落ち着いてきたかい? 一体どうしたってんだ?」




(もう耐えられない、全てを吐き出したい、楽になりたい…。)そんな思いがよぎり、ルーガさんに全てを話そうとした。




アキラ「ぁ…………。」


呼吸音がヒューヒューと口から出てくる。




言葉に出来ない。




いや、話す言葉や文が思いつかないとか、そういった比喩の意味ではない。




何か話そうとしても、空気が漏れ出る音しか出せない。






僕は声を出せなくなってしまった。



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