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幼馴染とワタクシ

償いは過去に起こした罪に対する事だけではない。未来に犯す罪に対しての償いだってあると思う。だからこれは償い。過去のそして未来の償いなのだ。






「ねぇ、マナ。孤児院に戻ったらどうかしら?貴方は子供が好きだし孤児院も人手不足でしょう?貴方はこの屋敷で働くよりも、孤児院で子供達を育てる方があってると思うの」


「私の事考えてくださってありがとうございます!!でも、私此処で頑張りたいんです!!立派な人間になって、それから孤児院に帰るって決めてるんです!!」


「でもね、マナ。適材適所という言葉があって、」


「フィーリアナ様が私の事、心配してくれるのはすっごくうれしいです!でも、私は孤児院育ちでもしっかり生きれるんだって事をみんなに教えたいんです」


「その信念はとても立派だと思うわ。でもね、人には向き不向きというものが必ず存在するのよ」


「大丈夫です!どんな事だって一生懸命頑張れば必ず良い結果が出るんです!だから私頑張りますね!」



そう言って走っていくマナを見送りながら小さく溜息をついたフィーリアナに苦笑しながら、柱の陰から出て心なしか疲れているフィーリアナに声をかける。



「姫。お疲れのようだね」


「え、あぁ・・・・いらしたんですの。相変わらず、勝手に我が家に入りますのね」


「おや、きちんと門から入ったよ。ここのメイドさんや執事たちは快く迎え入れてくれたんだけどね」


「当然ですわ。いくら遊び人と言ってもガルディア家の方ですもの。失礼な事は出来ません」


「気楽な3男坊だけどね。それにしても姫はますます綺麗になっていくね。社交界でもモテルんじゃないのかな。それとも高嶺の花として名を響かせてるのか、俺なんかが気安く声をかけてはいけない人になったのかな。我が幼馴染殿は」



俺の言葉に嫌そうに顔を歪めて、髪に触れようとした俺の手を持っていた扇で軽く叩いて一歩下がる。ますます疲れたその表情は、それでも彼女の美しさを損なわすことはなく憂いに満ちた表情も絵になっている。全く、本当に我が幼馴染殿は将来どんな華を咲かせるんだろうね。気になるよ。



「・・・・・・貴方の好きなマナはあちらに行きましたわよ。おいかけたらどうですか」


「うん?あぁ、でも、今日は君に用があって、ね」


「・・・・・・・・・・ワタクシにですか」



何かを探るように細められた瞳。まったく、何処が令嬢なんだか。どう育てばこんな子になるんだろうね。弟のカミュアもだけど、本当に不思議な家だ。------だからこそ、その動きに注目が集まる。



「最近、レオリアントとよく会ってるようだね」


「・・・王子と、ワタクシがですか?・・・・・・・・何かの勘違いでは?確かに王子はこの屋敷に来る事がありますけどワタクシに会いに来た事などありません。それこそ、貴方と同じ用事でしょう」


「(どうやら姫の方は無自覚のようだね)いや、最近レオリアントの様子が変わってそれに姫が関わってると噂が流れてるんだよ。君はあまり表に出ないから知らないだろうけどね」


「何のご冗談でしょう。ワタクシが王子を変えたと?そんな事ありえません。もしも本当に変わったというのならば愛する人が出来たからなのでは?恋は人を変えるといいますし」


「”恋”ねぇ。まぁ、それは正解かもね。・・・・・・(相手は”誰”なんだか、)」


「レギュリア。----要件は何です。ワタクシも忙しい身です、手短にすませてください」


「・・・・やれやれ。君は本当に女王という称号が良く似合うよ。有無を言わせない力強さ。味方であれば誰もが安心するだろう。でも、もしも敵だったら?敵に回す事になったら?そんな確率が1%でもあるのならばそれを確実に潰す。少なくとも俺は、ね」



レオリアントがフィーリアナを正妃にする事を真剣に考え出した。今までは周りが言っていただけだったから動きはなかった。でもレオリアントが望んだのなら別だ。フィーリアナを正妃にする動きは今まで以上に活発になる。この国の民であるフィーリアナは王命には逆らえない。王が命じれば王子と結婚するしかなくなる。でも、もしもフィーリアナが嫌がれば?



「・・・・・・・ワタクシはこの国の民です」


「そうだね。王が命じれば姫はそれを受け入れるだろう。姫は頭がいいから断る訳がない。でもね、姫。他の人はそう思っても俺は違う。俺は姫が産まれた時から姫を知ってるんだよ。そして姫の影響を受けて育ったカミュアを見てる。-----姫は1つだけ断る方法を知っている。そしてカミュアは姫の為なら何でもするだろうね」



フィーリアナは幼い頃から異質だった。誰も疑問に思わない事で悩み誰も気にしない事で傷ついていた。きっと気付いたのは俺だけだっただろう。それほどまでにフィーリアナは全てを隠していた。誰にも見せずに気付かせずに”フィーリアナ・クシュターナ”という貴族令嬢で在り続けた。気付いたきっかけは偶然。空っぽの瞳を見た時に意味も解らず理解した。『この子の心はここにはないんだ』って。そう思ったんだ。そしてこの子はきっと生きる事を努力しないと生きられない子だって。



「姫は本当に可哀想な子だね」


「貴方は、いつだったワタクシを憐れんでいますわね」


「ふふ、そうだろうね。ねぇ、姫。俺は姫がこの世界で一番可哀想だと思ってるよ。だから姫が誰かを嫌っても否定しても俺は思う。”お前の方が可哀想だろう”って」


「貴方はワタクシにだけ厳しいのも変わりませんわね」


「優しさは姫にとって毒だろう?これでも俺は姫の事、大事にしてるんだよ」


「まぁ、いざとなったら簡単にワタクシを切り捨てるくせによく言いますわね」



姫の言葉に何も返さず笑みを浮かべる姫と同じように俺も微笑む。答えなどいらない。俺も姫もわざわざ口に出さなくても答えは知っているんだからね。



「・・・・・1つ断言して差し上げます。いいえ、これは予言と言ってもよいでしょう」


「へぇ。なにかな」


「王子がワタクシに恋をし愛を囁きワタクシがその横に並んだとしても、それは一瞬で終わりを告げます。お伽噺にすらならない程、短く誰の心にも残らない幻のような時間。そしてワタクシは誰からも相手にされない女になるのでしょうね」


「姫が?そんな事ありえないだろう。姫は誰からだって求められる存在だ」


「ワタクシの言葉は綺麗事です。ワタクシにとって正論であり他人にとっては曲論。綺麗に飾って上辺だけの中身のない言葉。そんな物に永遠に騙され続ける人間なんていませんわ。そして気付いた人はワタクシの言葉を否定しワタクシ自身も嫌うでしょう」


「でもねぇ、姫。姫の言葉が偽りでも姫のやってきた事は事実だよ。姫は確かにこの国で誰かを救っている。その結果はけして変わらない事実だ」


「善は悪には勝てないわ」



姫の言葉に言葉が止まる。驚いて姫の顔を見るけど変わらず笑みを浮かべたまま。いつもと同じ笑顔の仮面をかぶったままだ。この仮面でどれだけのモノを隠しているんだろう、ねぇ、姫。



「-----なにを考えてるんだい」


「ふふ、何も考えてませんわ。ワタクシに何が出来ると言うのです」


「姫がその気になれば何でも出来るだろうね」


「そうかしら?-------------ワタクシの願いが叶った事など1度もないというのに?」


「ひ、め?」



悲鳴のように、吐き捨てるように吐きだされたその言葉に動揺する。暗く澱んだ瞳に深い闇を見る。そして気付いた。俺が思っているよりも姫の闇は深く重く、それを誰にも見せずに生きている事に。ここまでとは思っていなかった。こんなにも重いなんて誰が想像できた。どうしてそうなった。



「愛だの恋だのどうでもいいですわ。そんなものが救いになると本気で思っているんですの?くだらない。一生懸命頑張れば救われるんですの?何のために頑張るんですの?どうでもいい。全部どうでもいいですわ。ワタクシがそんなもの、いつ求めたっていうんです?------吐き気がします、そんな風に生きている人間を見ると」



姫は憎むような蔑むような視線で俺をにらみ、空気が俺を刺すように張り詰めている。けれど姫が手に持っていた扇をパチンと鳴らすと、その空気は一掃され元の空間に戻る。硬直した俺に一声かけてその場から去る姫をただ、見送ることしか出来ない。怖い、初めて姫が怖いと思った。なんだ、あれは。あんな闇を持った人間が存在していいのか。何が姫を其処まで追いつめたっていうんだ。優しい世界。姫の周りはそうであったはずなのに。



「あーあ。姉上を怒らせちゃったね」


「・・・・・・・・・・カミュア、」


「踏み込み過ぎ。自業自得。因果応報。ざまーみやがれ、って感じ?」



何処からか現れたのかカミュアがケラケラと笑いながら俺に話しかける。近づかず遠からず。柱に寄りかかりながら微妙な距離を保って俺に話しかけるカミュア。



「姉上を幼い頃から知ってるからって何?自分だけは特別だと思ってた?バカだねー、そんな訳ないじゃん。お前如きが姉上の何を知ってるって言うんだか。自惚れてんじゃねーよ」


「フィーリアナは、・・・・・彼女は”何だ”。なにが、そこまで、彼女をおいつめたっていうんだ」


「----そんなのこの世界全てだろ」


「な、に・・・・」


「姉上はこの世界に産まれた事もフィーリアナ・クシュターナとして生まれた事もこの世界で生きる事もフィーリアナ・クシュターナとして活きる事も全部、ぜーんぶに絶望してんだよ」


「・・・・・・・・・・」


「別に俺は、姉上が幸せならそれでいい。だからアンタも王子も騎士団長も他の奴らも姉上を本当に幸せにしてくれるなら、喜んで手を貸すよ。でも、そんなのあり得ないだろ。誰も姉上を救ってくれないだろ。だったら、少しでも姉上が生きやすいように、楽しめるような世界にすればいい。そのために誰が傷つこうがどうでもいいね」


「それは、それはこの国にとって害になるのか」



もしそうなら、黙っていられない。この国を脅かす不安要素になるのなら俺は、それを見逃せない。だって、俺は、



「へぇ、さすが王子様の”懐刀”。忠実なる下僕だね」


「・・驚きはしないよ。お前なら知ってると思っていたしね」


「うん?自由な3男坊を装って情報収集してる事?どうでもいいよ。俺にとって使える情報じゃないし。姉上だってきっとそう思ってるだろうし。じゃなきゃアンタに少しでも素を見せないよ。王子に、国に知られても困らないって事だからね」


「------死ぬぞ」


「ん?」


「このままじゃフィーリアナは確実に死を選ぶぞ。全部捨てて自ら死んで何もなかったことにするぞ。お前は、お前はそれでいいのか。大事な姉が死を選ぶのをただ、見ているつもりか」



そう言った俺にカミュアは初めて表情を変え、完璧なる無表情になる。怒りも悲しみも何もない無。まだ幼い子供なのに。それでもフィーリアナと同じように暗い闇の中にいる人間。それでも、そんな表情は一瞬で、また笑みを浮かべる。そして言った。



「馬鹿だねー。姉上にとっては”生きる事”も”死ぬ事”も同じだよ。生きながら死に続けて死んで生きてたと認識するだけ。あの人は生きてもないし死んでもない。だから姉上にとって死ぬ事は何の意味もない事だ」


「それはフィーリアナの考えだろ。俺は、お前の気持ちを聞いてるんだ!!!」


「-----じゃあ、生きててほしいと請えばいいっていう訳。俺が請えば姉上は叶えてくれるかもね。何の目的も意味もなくてただ、存在してるだけを生きてるっていうなら姉上は叶えてくれるよ。縋られた手を握り返してくれるだろうね。でも、その横で俺は笑えない。幸せだなんて言えない。苦しみも悲しも口に出来やしない。アンタはそれが出来るって言うのか」


「そ、れは、・・・・・」


「ほんと、馬鹿だな。アンタも他の奴らも。姉上は深く関わっちゃいけない人間だったのに。そうだ、俺も姉上に倣って1つ予言をしてあげるよ」


「予言、だと・・・・・」


「そう予言。そして訂正。アンタは断る方法が1つだけあるといった。確かに姉上が死ねば誰にも被害はでないよ。でもアンタは姉上を解ってないね。姉上はそんな優しい事はしないよ。自分だけが死んで終わらせる訳がないでしょう?」


「っ!!」


「自分が創り上げたモノも自分に関わるモノも全部、全部壊して、壊しつくして何もかも消し去って死ぬよ、姉上は。理不尽で正義も悪意もなくてただ、純粋に自分だけが死ぬのが許せないから残虐に暴虐な結末を選ぶんだ。気付いた時には遅い。もう誰にも止められない。じわり、じわりと崩壊するのを見ているだけ。苦しみも痛みも悲しみも怒りも届かない。姉上にとっては所詮その程度としか思わないから」



あり得ない、そう言いたいのにその言葉が出てこない。出来るはずがない、そう思いたいのに俺の頭はそんな未来を簡単に予想してしまう。フィーリアナなら簡単にそれが出来ると何処かで確信している自分がいる。可哀想、苦しんでる、傷ついてる、悲しんでる。どの言葉も彼女には届かないだろう。あぁ、そうだ。彼女にとっては『だから?』というだけ。昨日まで優しく抱きしめていた子供が死んでも何も思わない。そんな未来なんて生み出しちゃいけない。天秤はどちらにでも傾くんだ。そして一度傾いたら2度と戻りはしない。



「----忠告だよ、アンタは一応幼い頃からの知り合いだからね。姉上はギリギリの所に立っている。いつだって一歩踏み出せるんだ。そして踏み出した姉上はもう終わらせる事しかしない。だから姉上に関わるな。きっかけは誰にも解らないんだ。俺だって解らない。引き金は全ての人間が握っている」



それを引いたら全部おしまい。そう言い切ったカミュア。おそらくもう、覚悟を決めてるんだ。カミュアは最期までフィーリアナと共にいると。カミュアはフィーリアナのために、俺は国の為に生きてる。守らなければいけない。この国もこの国で生きる人間も。そのためには、そのためならば、俺は、この手でフィーリアナを殺す事だって受け入れる。その覚悟を持たないといけない。遊んでいる暇などもはや、ないんだ。









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