表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
95/325

第八幕-4

 かなりの広さを誇るガルツ帝国シュトラッサー城の議事堂にて、各地から来た多くの有権者はその議事堂の中で溢れかえりそうになりながらも自分の席に座って議会が始まるのを待っていた。そんな演説台を基準に扇状に席が配置された議事堂を4等分した右端の席を割り当てられていた南方貴族達には、妙に張り詰めた冷たい空気が充ちていた。


「南の連中…本気なのか?本気で…」


「馬鹿かブルーノ、少しは落ち着け」


 そんな南方貴族達の不穏な空気に当てられ落ち着きのなくなったブルーノは、うなじを撫でながら議事堂の周りを見回しながら呟いた。そんな彼の頭を後ろの席に座るクレッチマーがわし掴みにすると、文句を付けながら議事堂の正面を向かせたのだった。とはいえ、ブルーノの心境は他の北方有権者全員と同じであり、特に国防軍人なら彼の心境は尚のこと理解ができたのだった。

 教皇ゲーテの予言は、既にヨルク達によって北方有権者全体に伝えられていた。そんな国防軍は不確定要素排除のために、ゲーテへともう一度未来を見るように要請した。長時間先の未来予知はやろうとして出来るものではなかったが、それでも何とか未来予知をしたゲーテは、やはり暗殺をされるのが皇女であると確認したのだった。

 そのゲーテからの情報提供でヨルク達が皇女を暗殺しようとする集団で思い付くのは、議事堂左側でたむろするの南方貴族しかなかった。そうである以上、国防軍人全員はブルーノのように落ち着きがあっても南方の動向が気になってしょうがなかった。その不安は軍人全員が支給されたばかりの拳銃を収める腰のホルスターを軽く撫でる程の状態であり、ヨルクからすると何時議事堂が戦場になるかと危険視をしていたのだった。

 とはいえ、ヨルクも自分が焦った所で意味が無いことを十分理解していた。そんなただ腕を組みじっとしている彼に、横の席に座るローレはそっとヨルクの肩をつついた。そんなローレの行動に、ヨルクは目を閉じてただ肩を上下させいたがやや俯いてそっと目を開けた。


「連中、暗殺を企ててる割りに静かですね」


「確かにな…こういう時こそ、やたら騒ぎそうな奴ばかりなのにな」


 同じ魔族同士で戦うということに不安を発露させるローレは、僅かに震える右手を左手を撫でながらヨルクへと話しかけた。その言葉からヨルクの後ろ側の席に座るクレッチマーも会話に参加してきたのだった。そんな彼の一言はヨルクにも大いに納得できるものだった。口先だけはよく回るテンペルホーフに大貴族ザクセン=ラウエンブルクがいる南方貴族は、その無駄に尊大な態度や大袈裟な態度から大きな行動に出る時は必ずやたらと騒ぐ事を北方貴族達は知っていた。それ故に、至って冷静な彼等を見ると、ヨルク達はひたすらに疑念を感じるのだった。


「ただの暗殺とは異なるということだ。油断をするな」


 どのみち後手にしか回れないことを悟っていたヨルクは辺りの軍人達に呟くと、彼等は周りにそれを伝言していき彼等はひたすらに静かな南方貴族達を見張り始めたのだった。

 そんな国防軍人達の張り詰めた空気に水を差すように議事堂の扉が開き、皇女ホーエンシュタウフェンがファルターメイヤーを引き連れて入ってきた。


「総員、起立!」


 入場して来たホーエンシュタウフェンや、その後に続くカイムの姿に対して、北方有権者達は起立し敬礼や礼をしようとした。だが、ヨルクは通路の途中で止まり、議事堂左側に驚愕の視線を向けるホーエンシュタウフェン達を見たのだった。


「おい!ヨルク、あれ見ろ」


 そんなホーエンシュタウフェン達の姿を不思議がるヨルクの後ろからクレッチマーが彼に聞こえる程度の小声で話しかけつつ指し示すようにその視線を左に向けた。その景色を見ると、ヨルクは目頭を疲れたように摘まみ低い声で唸ったのだった。


「どうにも…私はまだ寝ているようだ。南方貴族が起立して礼をしているように見える…」


 肩をすくめて冗談を言ったヨルクだったが、言葉とは裏腹にその口調は全く冗談を言っているようなものではなく、状況の不自然さを物語っていた。先代皇帝亡き今、南方貴族がホーエンシュタウフェンに敬意を払うのは驚きの事態であった。散々敵対していた分、唐突に彼等の手のひらを返すような態度は国防軍人や政治家、他の地域の有権者全員からの注目を浴びた。

 そんな南方貴族達の行動に、カイム達親衛隊も国防軍達同様に彼等を警戒し、全員がホルスターの拳銃を確認するほどだった。そんな彼等の心配を知ってか知らずか、ホーエンシュタウフェンはその南方貴族達の敬意を払う行動に通路から軽く答礼して皇女の席へと向かった。それに促されるように他の地域の有権者も起立したことで、カイムは初めて議会らしい光景を見たのだった。

 そんな光景にの中で北方有権者以外流石に万歳とまでは言わなかったが、ホーエンシュタウフェンの脳裏にはカイムの言った統一の象徴と言う言葉が過った。様々な種族が一つの魔族として一つの国家の元にの集い生きるというその光景と、その中央に自分一人が立つということへ臆しかけた彼女だったが、少し後ろを振り向いてカイムを見ると、彼はガッツポーズ片手に笑いかけて見せたのだった。その姿に不安を振り払い、ホーエンシュタウフェンは一人演説台へと向かった。


「まず最初に、最終日たる今日までの突然の休止をお詫びします」


 最初に放たれたホーエンシュタウフェンの謝罪から、南方貴族の野次が飛びさっそく議会が荒れると構えたカイムやヨルク達だったが、議会にはいつまで経っても野次は飛ばず、嫌な静けさだけが流れた。少なからずこの謝罪で議会が荒れると考えて話す筋を立てていたホーエンシュタウフェンは、さっそく予想と反した議会の状況に話を続けて良いのか悩み少し困惑して黙った。


「皇女殿下の御心の回復、お喜び申し上げます」


 そんな議会の沈黙を破るようザクセンが立ち上がりホーエンシュタウフェンに対して礼をすると優雅な身振りと口調で語りかけるのだった。尊大なザクセンが皇女を心配し声を掛けるという行為は、帝国議会の参加者達全員を更なる疑念で満たした。今までの議会で南方に便乗してホーエンシュタウフェンを批判した西方貴族の老人達は、公爵ザクセン=ラウエンブルクの突然の態度に混乱し、同様の東方有権者もひたすらにお互いで話し合いざわついたのだった。


「ありがとう、ザクセン=ラウエンブルク卿。もう問題はありません。2日分ほどの議題を省略しまして、最終日の議題へ移りたいと…」


「待たれよ皇女!議題に移る前にもう一度、南方はそこに座るリヒトホーフェン殿と話したいと考える。さて、直ぐに済みます。宜しいでしょうか?」


 そんなザクセンの行動に警戒したホーエンシュタウフェンが感謝の言葉を述べながらも直ぐに議題へ移り議会の主導権を取ろうとすると、それを遮り彼が勇ましく声を上げた。その発言は多くの出席者に疑問抱かせ、声の勇ましさだけで気圧されたホーエンシュタウフェンはさっそく主導権を奪われたのだった。

 先の教皇ゲーテの告白の当日、飛び出して行ったホーエンシュタウフェンの換わりに司会進行を代役したカイムには、連日様々な質問が数多く飛んだ。それも彼の手下であるテンペルホーフが無数の質問の中で一番数を飛ばしていたにも拘らず、もう一度話したいというザクセンの発言には、議会の全員が彼の言葉の真意や裏側を探ろうとしたのだった。

 そんなザクセンの腹の中を探ろうとする一人であるホーエンシュタウフェンは、演説台の端に両手を突き俯いて目を閉じると、数秒無言で思考を巡らせると後ろの席に座るカイムを手招きした。


「内容は3つまでです」


「随分ケチ臭い…」


 静かにザクセンへと条件を呈したホーエンシュタウフェンに、テンペルホーフが野次を飛ばそうとした。たが、彼の頭部にザクセンの拳が飛ぶと、彼は頭を抱えて静かになった。

 そのやり取りを見ながら、カイムはザクセンの意図を怪しみながらも演説台に向かった。


「閣下…そろそろ奴等は…」


 そんな不穏な議会をギラの怪しむ声に、カイムもそろそろ南方が動くのかと考えた。だが、不敵に笑うザクセンの態度に胸騒ぎを覚えたカイムは、不思議とまだではないかと思えたのだった。ましてや、彼等の皇女暗殺は単なる暴動紛いの物とは違うのではないかと感覚的に思えた。


「いや、まだ解らん。とにかく周辺を警戒するんだ」


 後手である以上、今は警戒するしかないと考えたカイムはアロイスへ目配せした。彼は腰から下げる長方形の箱型無線機を手に取り、側面のボタンを押すと小声で話始めた。そんな彼を片目に、カイムはギラを斜め後ろに引き連れて演説台へと歩んだ。無い威厳を出来る限り引っ張り出し、肩肘を張った彼は、自分の格好の付かなさに恥ずかしくなった。そんな彼の背中へ、有権者達に見えない角度でギラが軽く手を添えたのだった。


「閣下なら、出来ます」


「勝手過ぎるよ…」


 ギラの頬を赤らめさせた激励の言葉に顔こそ真面目だが、彼は気の抜けた口調で軽口を返したのだった。


「お久しぶりです、ザクセン=ラウエンブルク卿。とは言っても2日程しか経ってませんがね」


 カイムは演説台に立つと、ザクセンに対して気取った態度で軽い挨拶をした。その言葉は、少しの敬意と友好を込めたものだったが、その少しの敬意に南方有権者は納得いかないようで、テンペルホーフに至っては立ち上がりまた野次を飛ばそうとした。そんな彼をザクセンの腰巾着であるシンデルマイサーが必死に止めるざわついた南方有権者の席で、ザクセンは何となし笑うと片手で彼等に静まるよう促した。


「確かに、そうだな。私も君とは二人きりで話してみたかったのだがな…どうも君の周りの連中は、随分閉鎖的でな。いくら取り繕っても否の一点張りだったのだ。いくら敵対心が有るとはいえ、柔軟な対応が取れないのは不味いのではないか?」


 ザクセンの言葉は、他の南方有権者と異なってかなり融和的は態度であった。その周辺との異様な温度差に、カイムは今話す男の権力の強さや異色さを改めて理解したのだった。その掴みどころがないその態度に一瞬臆しかけたカイムは、後ろから感じるギラの視線に鼓舞されると一度深く深呼吸をした。


「確かに、親衛隊含めた帝国国防軍は閉鎖的です。有権者の中に政治家は三分の一しか居ない。ですが公爵、私達は軍属です。守秘義務を持ち階級と任務に生きる軍人です。私は帝国の決定権である皇女の救国の意思を体現するだけです。その上で閉鎖的になるのは必要な事。政治家には解りかねる事情かと」


 仲間である北方有権者達を遠回しに役立たずと貶すザクセンに、カイムは敢えて敵愾心を混ぜて言い返した。彼はザクセンの北方有権者を貶めて自分達を良く魅せようというやり方には少し不快感を感じた。そんなにカイムの反論の言葉で、演説台から左側に座るブルーノ等鷹派な軍人達は必死に怒りを抑え冷静に振る舞っていた。


「成る程。君は飽くまで軍人と…帝都の復興を指揮するのが皇女ではなく一介の軍人というのも可笑しな話だ」


 カイムの発言を茶化すように返したザクセンの皮肉の言葉に眉をしかめたホーエンシュタウフェンは、カイムの横からマイクを奪い取ると自分の方へと向けた。


「1つ目です。2つ目は?」


 怒りと不満を滲ませて急かす言葉かけるホーエンシュタウフェンに、ザクセンは駄々をこねる子供へ呆れるように肩を竦めながら、やれやれと言った具合に頭を振った。


「御部屋で引き込もってから随分慌ただしい方になった…さて、ニつ目か」


 小声でホーエンシュタウフェンをその態度を批判すると、ザクセンは勿体を付けて言葉を選び始めた。


「軍人に聞くのは野暮だと思うがね…君は専制政治についてどう思う?」


 ザクセンの口から出た言葉は、思わずカイムを黙らせた。専制政治、つまり現帝国の政治体制についてどう思うと言う言葉は、迂闊に答えれば彼の足元をすくわれかねなかった。そんな難しい質問に唸りながら腕を組み、天井を仰ぐと、カイムは意を決した。


「専制政治は…ある面で見れば罪のある物です。その罪とは、人民が政治の失敗を他人のせいに出来る点に尽きます。この議会のように、貴女方有権者の決定の責任を全て皇女に押し付けられる」


 カイムは敢えて南方有権者に手を向け挑発するような身振りで語ってみせると、彼等はその挑発に乗って立ち上がろうとした。貴族である彼等の態度を馬鹿にするようなカイムの発言でも動じないザクセンは、沸き立つ南方貴族達を机を叩く大き過ぎる音と、カイムにさえ届く殺意のような何かで一瞬で止めて見せた。静まる議事堂で、ザクセンは満面の笑みを浮かべてカイムに話を続けるよう身振りで促した。


「しかし、専制政治は絶対悪ではない。確かに、政治的失敗の押し付けは何百人の名君の善政と比べれば圧倒的に大きい。ですが、専制政治も飽くまで政治の在り方の1つにすぎません。ならば、それを上手く社会運営に使うのかが1番重要なのです」


 何も喋らないながらに猛烈な圧を掛けてくる態度のザクセンへそう語りかけると、カイムは議会の出席者全員を見回しながら演説台を手の甲で軽く叩いた。


「この議会は専制政治の暴走を抑える為に在るわけですが、議会政治や大衆民主主義に基づく政党政治も絶対正義というわけでは在りません。議会政治も政党政治も、そこに参加する全ての者が国家の状況を完璧に理解し、周辺状況を完全に理解しない限りは本当の正しさが存在出来ません。何より、烏合の集と成っているなら優れた誰かが専制政治をした方がいい」


「今がそれと?」


 カイムの静かながらに説得力のある主張に、ザクセン真剣な表情で質問を呈した。


「虚しいですが、帝国は未だに戦災を抱えて混乱している。国家自体が正常でないから、貴殿方が勝手な独断をしているのでしょう?ならば、何時崩壊してもおかしくなかった帝国を存続出来た皇女ホーエンシュタウフェンには専制の才能が有る。私はそう考えます」


 カイムの批判的な返答に、議会の参加者達の反応は様々だった。南方有権者は怒りに顔を赤らめ、西方は親南方派の老人達は南の顔を伺っていた。それに反して、若い西方有権者はカイムの発言に納得しており、アンハルト=デッサウに至っては怒る南方有権者を見て笑い始め、隣のゾエから脇を小突かれていた。北方の有権者、特に政治家達はそんな自分達の不甲斐なさに頭を抱えていた。

 自分の発言で議会に一石投じたことに、カイムはしたり顔で横のホーエンシュタウフェンを見た。だが、彼女は頬を赤く染め、彼と目が合っても顔を背けて何も言わなかった。そんな彼女の反応に、今まで言いたい放題だった有権者達を黙らせたことが嬉しいのかと、カイムは少しほは笑ましい気分になった。だがそんなカイムは背後から妙な冷たい空気を感じると、心に出来かけた隙を慌てて埋めたのだった。


「流石カイム総統です。素晴らしい」


 明るいギラの声を背に受けたカイムだったが、彼の心の危機意識が決して振り返ってはいけないと猛烈に叫んでいた。そんな不気味に優しい彼女の発言を聞きつつ、ホーエンシュタウフェンは再びマイクを取った。


「最後です、ザクセン=ラウエンブルク卿」


 赤らめていた表情を戻し冷たい口調で放たれたホーエンシュタウフェンの言葉を受け、南方有権者の中で一人嬉しそうに笑っていたザクセンがマイクに語りかけた。


「素晴らしい考えだ、カイム殿。この私を前にして面と向かって反論し、あろうことか批判まで出来るとはな!」


 満足げに語ると、ザクセンは咳払いをした。


「では、最後に。君の帝国再建後の方針を聞きたい」


「帝国に侵攻したヒト族国家に対して賠償請求を受け入れさせること」


 ザクセンの質問にカイムが間髪入れず即答すると、議事堂は一気にどよめいた。彼の返答は、今まで攻められるだけで何も出来なかった魔族にとっては夢にさえ観れないようなことであった。それを国家方針として打ち出したことは、ヒト族に復讐するためカイムを召喚したはずのホーエンシュタウフェンでさえ驚きの表情を浮かべた。


「馬鹿を言うな!そんな事が出来る訳無いだろう!」


 シンデルマイサーの制止を振り切り、とうとうテンペルホーフが大声で野次を飛ばした。それに続くように南方有権者が批判の野次を飛ばし、議会は収集が付かなくなった。


「やはり…君は皇女には惜しい男だ…」


 カイムはザクセンが呟く言葉を聞き逃さず、その上で真意を確かめようとした。だが、彼が問おうとした時、端に控えていたブリギッテが勢い良く拳銃片手に駆けてくるとホーエンシュタウフェンの肩を掴み演説台の後ろへ伏せさせた。


「なら…みんな伏せて!」


 そう叫んだブリギッテはニ階席へと銃口を向け、その引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ