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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第三幕-1

 アモンからの要請によって、親衛隊は首都デルンとの関係に一定の距離を置くことになった。つまりそれは、彼等の生活が再び教練と座学の日々に戻ったということでもある。


「こっちの柄付手榴弾は爆発での衝撃と爆風、こっちの丸型手榴弾は爆発の衝撃より破片で致命傷を与えるものだ。まぁ、どちらも危険な代物には変わらん」


 アモンの要請から4日が経ったある日、カイムは兼ねてより予定していた手榴弾の実験と演習を拠点である荒鷲の巣から南東にある実験場にて決行した。

 大陸北部へと繋がる道に比較的近い実験場には、訓練生全員敷設した塹壕が張り巡らされていた。その塹壕の前に整列していた全員は、手榴弾をお手玉の様に扱うマヌエラに若干怯えながら彼女の説明を聞いていた。

 カイムはマヌエラからは柄付手榴弾のみの実験を行うという報告を受けていた。だが、いつの間にか彼女は丸型という手榴弾としてよく見る形の物まで開発を間に合わせていたのだった。

 手榴弾の概略図自体は親衛隊設立前にカイムはマヌエラに渡していた。とはいえど、流石に柄付の完成後数日足らずで丸型手榴弾まで完成させ訓練用に1人2個ずつ製造されると、カイムは今までの帝国でマヌエラ達の技術力が何故有効利用されなかったのか国民や貴族の常識を疑う程の疑問を感じるのだった。

 そんな考えをするカイムは、横で全員に実物で着火の手順を説明するマヌエラを不思議そうに眺めた。


「柄付の方は、この柄の下にある安全ネジを回し外す。この紐を引くと3から4秒後に爆発する。10m範囲にいると確実に即死するからちゃんと投げろ。丸型は、この安全金具を引き抜いて着火クリップを外すと4から5秒で起爆する。5m内に居れば爆発と破片で即死。15m内に居れば確実に重症を負うから気を付けろ」


 手榴弾の恐ろしい威力とその危険さを前にしても、マヌエラはさも普通の事のようにかつ自慢げに話していた。マヌエラの楽しそうな表情と反するその物騒な内容から、訓練用の模造品で訓練を重ねた親衛隊訓練生の表情にも怯えが出ていたのだった。


「私を含めた獣人には耳栓を配っているが、それらは飽くまで試作品だ。何かしら異常があったら報告するように。後…鼓膜くらいなら自然と治るし、治せるから」


 マヌエラの放った最後の一言は獣人の隊員全体に恐怖を与え、青い顔をする全員がヘルメットの耳がある辺りを思わず抑え込んだのだった。

 不穏な空気の流れる投擲訓練の最初の訓練生は勿論ギラであり、投擲位置に立つと彼女は慣れた素早い手つきで柄の下の安全装置を外し紐を指に巻き付けた。それを腕を大きく勢い良く振るのと同時に、投げながらその紐を引くと手榴弾は回転しながら弧を描き広い実験場の奥に有る的の近くに落ちた。その数秒後には、その周辺に空間を大きく揺らすような爆発が黒煙を上げ、大地を抉り取ったのだった。

 その爆発は30m程先にある塹壕に隠れた親衛隊全員の体を少し震わせる程であり、それを受けた全員が真剣かつ不安の表情をしていた。

 その中でカイムがゆっくりと塹壕から外へと顔を覗かせ、遥か先で粉々になった標的を頬に汗を垂らしながらまじまじと見つめるのだった。


「成功したな。まぁ、私の作った物に失敗は無いからな」


「成功…ですね…」


 驚くカイムの隣で自慢気に語るマヌエラに、彼は彼女の才能の化け物と感じて呟きながら塹壕を這い出た。改めて爆発跡を観察するカイムは、続々と後に続く親衛隊訓練生の中の獣人達に視線を向けると、その視線の意味に気付いた全員が"大丈夫だ"と言うように頷いたのだった。


「実験は成功だ。耳栓もしっかり機能している。それでは、これより手榴弾の投擲訓練を開始する!」


 身体能力が高い魔族は当然ながら感覚器官も発達している。そのために爆音耳が遠くなっているかもしれないと考えたカイムの少し大きめの号令に従い、訓練生は1人ずつ投擲位置に立ち訓練を始めた。

 その投擲によって、静かで開けた森の実験場には一定の間隔を空けて猛烈な爆発音が響き渡るのだった。


「マヌエラ殿!マヌエラ殿!ご無事ですか!」


 親衛隊訓練生全員が柄付手榴弾の訓練が終わり、丸型手榴弾の訓練1投目が爆発した時、実験場の北へ続く道から男の声が響いた。その声は全員に聞き覚えのない声であり、カイム達は塹壕の中で身構えた。

 最後尾で警戒していたブリギッテは、その声を聞くとすぐに手慣れた手付きで小銃に弾を込めながらその声の先へと塹壕から銃口を向けた。遂に全員に1丁支給出来るほど量産された小銃だったが、その威力のために全員は持たずに警戒のため数人に携帯させていたのだった。その小銃を携帯する訓練生全員がブリギッテに続き銃を構えると、親衛隊は一気に臨戦態勢を整え始めた。

 突然響いた男の声は荒鷲の巣に向かって行ったが、親衛隊員達にはそれとは別に多くの馬の蹄の音が自分達の方向へ向かって来るのが聞こえた。

 近づく何者かを警戒するように小銃を構える全員の姿を見るカイムも、自分の肩に下げていた物のスリングを掴むと、勢いよく前にスイングさせるとそのグリップを握った。

 それはレナートゥスが小銃量産の片手間で完成させたサブマシンガンの試作品だった。その試作品は、鍛冶ギルドの木工技士にライフルの木造ストック部分の加工と接着剤によるラミネート加工を依頼し候補生が運搬する事で、他の銃器を試作する余裕が出来たお陰で完成していた物だった。更には、レナートゥスが初めてプレス工法を導入したことで簡便に生産出来たのだった。

 そんな緊張感漂う親衛隊の側では、マヌエラが一人溜め息をつきながら隣でサブマシンガンの縦長の弾倉を差し込もうとするカイムの手を抑え、訓練生達を掻き分けながらマヌエラが塹壕から這い出た。


「マっ、マヌエラ殿!」


「マヌエラさん、戻ってください!」


「危険ですよ!」


 訓練生数人は塹壕の先を歩いてゆくマヌエラを戻るよう促したが、彼女は無視して道へ続く通りに向けて手を振った。

 塹壕から銃器を構えながらカイムが覗くと、マヌエラの前には馬も鎧もすべて黒い集団8人が並んでいた。彼等は種族こそ違っていたが、全員が同じ組織に属しているのか同じ装備をしているのだった。

 その黒い騎士達は塹壕の向こう側に広がる無数の爆発後に唖然としつつ、馬の足元の塹壕にいる親衛隊に驚愕の視線を向けた。


「おいおい。皆、とりあえず落ち着いてくれたまえ。彼等は私の仲間と上司だよ。そして、とりあえず君達はクラウゼヴィッツの元に私達を連れて行ってもらおうか」


 そう言うと、マヌエラは殺気立つ親衛隊と驚き警戒しきっている黒い騎士達へ落ち着くよう促した。そんな親衛隊と黒い騎士達の間に立つマヌエラは、黒い騎士達に慣れた口調で指示を出しつつ、塹壕の中の親衛隊全員に付いてくるよう促したのだった。

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