第六幕-3
「随分無礼な奴でしたね閣下。あのような者、抹殺しても宜しかったのでは?」
「うえっ、一体何時からそこに?」
「女の子に"うえっ"て言うのはどうかと思います。閣下が居なくなったから、後を追いかけたんですよ」
「無断での単独行動か…軍法会議物だな。本来なら反省文だけでは済ませられないぞ」
商業組合の一行が去り、応接室に仮初の平和が再び訪れた。重い空気を払おと溜息をつこうとしたカイムとアマデウスだったが、突然カイムの座るソファーの後ろにギラが現れ組長への感想を呟き、2人は目を見張った。アマデウスにいたっては驚きの声を漏らし、それを受けた彼女は眉をしかめ目を細めて反論をしたのだった。
そんなギラのこの頃の行動には、カイムも反省文では罰が足りないと思い始めていた。ギラの独断行動に"営倉でも作ってみようか"と考えながら叱責するカイムに、ギラが顔を伏せながら彼の前に立った。
「あのですね…本当に苦しいのは嫌ですけど、閣下の為になる苦しい事は何でもします!」
「ならどんな処罰が良いんだ?」
「夜に自室にお呼びしていただけれは…」
ギラの"本当に苦しい"という部分に疑問を抱いたカイムは、反省の色を若干見せる彼女へと問いかけた。だが、彼女から返ってきた言葉に彼は頭を抱えて深く息を吐くのだった。
「ギラ、正直に聞くが何で私が良いんだ?アロイスとか、もっと良い男ならいるだろ。君はあれか?助けて貰ったらどんな奴でも良いのか?」
「そんな事ありません!閣下じゃなきゃ駄目なんですよ!閣下は…」
「んっ、ゔぅん…」
ギラの態度に呆れるカイムは思わず思った事をそのまま口に出した。その言葉にはギラもすぐに反応し、彼の言葉を否定しようとした。だがギラの言葉も会話が長くなりそうになると思ったアマデウスが咳払いで割って入ると会話は止められた。
「商業組合の人達、これで済ましてくれるかな?」
「それは無いですよアマデウスさん。奴等はマヌエラさんの医薬品でぼろ儲けしてるんです。一応皇女からの委託を受けてるから誰も逆らえないです。だから、調子に乗ってる彼は暴力で訴えて来るでしょう。あまり良い色をしていませんでしたし」
「色?」
アマデウスの疑問にカイムは沈黙で返したが、その代わりにギラが不機嫌そうに彼へと返答した。彼女の断定的な言葉の中には"色"という不自然な部分が有り、カイムはその事に眉間にシワを寄せ疑問を投げ掛けた。
だが、ギラは一瞬気まずそうな顔をするとカイムの質問には対して黙ってしまった。言葉を選んでいると思えるギラの表情に、カイムは彼女の話したく無いという気持ちを理解し、鼻で軽く息を吐きつつ右手を煙を払うように振った。
「言いたくなければ言わなくていい。私達に害を為さないのなら何だっていいさ。とにかく連中はやって来るんだろ?なら対策を少しくらいしなくちゃな」
アマデウスもギラに懐疑の視線をむけていたが、カイムが話題を変えた事でギラの顔も普段通りに戻りアマデウスも彼女への懐疑を一旦置いた。
しかし、カイムは"対策"と言ってもこれといった策が有る訳でもなかった。現状の親衛隊は命令系統や集団戦闘はある程度出来るまでに育成されていた。しかし個人の技術はまだまだ低く、打って出ることも考えたカイムだったが流石に実戦もまだの親衛隊は戦えないと考えた。
「訓練生を室内巡回だけでなく室外巡回もさせるはいかがでしょうか?私達はまだ戦えません。今は守勢に徹するべきかと」
「でも、それじゃ外の人が危ないんじゃない?」
「なら、成績上位10人でのみ外周巡回しましょう。あくまで警戒で、何かあったら直ぐに撤退して報告する。これならまだ被害を抑えられます。本物のナイフの携帯許可も頂ければなおの事です」
腕を組みながら唸りつつ天井を仰ぐカイムに、ギラは自分の考えを意見具申した。その考えはカイムの脳裏にも若干走っており、それ以上のものはカイムやアマデウスにも思い浮かばなかった。
ギラの言うとおり、現状の親衛隊でほ訓練の一環として訓練生に夜間巡回を2人1組順番で行っていた。それに付随させて警備範囲は広げられるが、彼女の意見にアマデウスが異を呈した。彼の考えも正しく、夜間に巡回は良いがほぼ武装の無い訓練生はいずれ来る商業組合の手下の良い鴨になる可能性があった。
だが付け足されたギラの言葉に、カイムとアマデウスは結果的に納得するしかなかった。こうして訓練生の夜間での室内外の巡回が決定した。
「それはそれとして、ギラは無断での単独行動の罰として今夜の寝ずの番を命ずる!」
「寝ずの番…ですか…夜は少し冷えるので…」
「コーヒーくらいは差し入れしてやる」
「了解いたしました、総統閣下!」
対策が決まったカイムは、次いでとばかりにギラへの罰則をこの流れで決定した。その内容にはギラも少しだけ嫌そうな態度を取ったが、カイムの同情の含まれた言葉を受けると、彼女は笑みを浮かべ勇ましく敬礼した。




