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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第六幕-1

 訓練が第二週に入り、親衛隊訓練生達へ本格的に戦闘訓練が導入された。戦闘訓練と聞いた彼らは、長剣や楯などの武術を学ぶ訓練と意気込んでいた。しかし、彼らに待っていた訓練は徒手空拳による格闘訓練であり、武器といっても25cm程の長さの木製ナイフだけであった。


「今回の格闘訓練からブリギッテにも参加指導してもらう」


 整列する訓練生達の前で指示を飛ばすカイムの横には、士官用の野戦服に身を包むブリギッテが立っていた。彼女は騎士であるため武術にも精通していると考えたカイムは、ブリギッテにも正式に訓練へ参加してもらう事にしたのだった。しかし、彼女はこの指導参加を渋っていた。それは指導の時に原因がわかった。


「ブリギッテさん、本当に騎士なの?」


「まさか…ティアナ相手に負けるとは…」


「私は剣も武術も駄目なんですよ…」


 ブリギッテの模擬格闘戦の相手になったのは、訓練生のティアナ・クレーマーであった。

 ゴブリン族であり短い茶髪に黄緑の肌、琥珀色の瞳を持つティアナはブリギッテより5cmは小柄であった。そんな彼女にブリギッテはまさかの一本背負いを喰らい、無傷とはいえ宙を舞って支給されたて野戦服を土で汚した。

 ティアナやツェーザルの驚く呟きや訓練生全員の視線を受けて、地面に蹲るブリギッテは赤くなる顔を両手で隠しつつ消え入りそうな声で言い訳を呟いたのだった。


「このように、時として武術を習った者を相手にしても勝てるときがある。勝機は何処に?」


「えっと…その…気迫ですか?」


「そうだ、ティアナ訓練生!いざ戦闘になれば高度な戦闘技術もあてには成らなくなる。それは陸戦、歩兵となればなおさらである。それはお互いの殺気や殺意を直接受けるからである。つまりは何をしてでも目の前の敵を叩き伏せる意志がいる」 


 恥ずかしさに蹲ったまま震えだしたブリギッテに、カイムはスラムで初めて彼女が剣を抜いた時を思い出した。彼女の剣が震えていたのは人を切るかも知れない恐怖ではなく単純に剣を扱いきれていなかったのかと理解すると、ブリギッテをフォローするためにティアナへと質問をした。突然のカイムの質問に焦りながらも疑問だらけで曖昧な回答をするティアナに、カイムは深く頷いて全員にブリギッテの敗退に対する誤魔化し混じりの指導を行った。


「そういう訳だ!とにかく訓練を始めるぞ!」


 若干緩んだ空気を締めるため、カイムは訓練生に訓練を再開するよう指示を出した。

 カイムが格闘技を習っていなかった事から、初期の格闘訓練はブリギッテの提案した2人1組での取っ組み合いに近い格闘訓練となった。一戦毎に相手を変えて、カウントされた負けた回数が10人を上回らなかった場合ペナルティがかけられるというものだった。


「ペナルティが研究所30周は重すぎなのでは?」


「規則だ。それに教官に意見するのかギラ訓練生!どういう…いや、叱るより説明した方が早いか…」


「お願いします、総統閣下」


「本来、生徒に対して授業目的をはっきり言うのは御法度だが…仕方ない。この格闘訓練に必要なのは何より負けたくない、死にたくないという意思を持たせる事。そしてその意思の成長が最優先だ」


「つまり…今は訓練だから、戦闘の敗北が"死"でなく"罰"という事ですか?」


「罰は怖いだろ?」


「閣下の為ならどんなことでも!」


 人数が奇数の為にカイムも訓練に参加したが、その相手はギラであった。彼女は無駄に抱き付く様な姿勢でカイムの反撃を抑え込み、女性に対して力を振るう事に嫌悪感を持ったカイムによって、2人の格闘訓練は完全に膠着状態となった。

 ギラがカイムに抱き付き彼が彼女の肩を抱く様にも見える状況で、カイムヘ詰め寄ったギラは彼に罰則の重さについて尋ねた。訓練中に話し掛けるギラに、カイムは叱り付ける言葉を言おうとした。だが、笑顔の彼女の瞳が至って真剣である事に気付き彼は言葉を飲み込んだ。成績の事もあり、カイムは叱る事をやめた。

 カイムの説明に納得したギラだっが、カイムの最後の一言に瞳を輝かせると首もとに抱きつこうと勢い良くカイムヘ体重をかけた。だが、細身で軽い彼女の体重移動をものともしなかったカイムは、そのままギラを地面へと軽く横たわらせる様に投げた。


「ギラの奴、良くやるよ…」


「総統がタジタジだよ…」


「意外と早く決着付きそうだな。いろんな決着が」


 多くの訓練生がカイムとギラの姿を訓練を止めて観ていたが、その目には総統が女子部屋の自称総統の妻に襲われている絵にしか見えなかった。ギラと仲の良い訓練生はその光景に苦笑いをしており、他の訓練生もあれこれと会話を始めていた。


「訓練生諸君!番号順に相手を変えろ!それと、ギラ訓練生は反省文と研究所2周だ。こういう事はもうやめろ!女子としての自覚を持て!」


 かくして始まった格闘訓練だったが、4日もすると自ずと戦い方の初歩が自然と掴めてきた為に取っ組み合いもサマになっていた。とはいえ、あくまでも取っ組み合いの域を出ないため、カイムは今後の格闘訓練に新たに指導教官の追加を考えた。しかし、協力者がいない以上は無い物ねだりとなるため、彼はどうにもならない事をどうにかしようと訓練生を見詰めながら考るだけだった。


「カイム大変だ!入り口の方に柄悪い奴等と怪しい奴が!」


 そんな考え事をするカイムの後ろからアマデウスの声がした。彼は普段は研究所内で炊事や訓練生の部屋の清掃を評価しているが、その彼が野外の訓練場に来るのは比較的珍しかった。そのため、慌てる彼の言葉に歓迎出来ない突然の来訪者を理解したカイムは、ブリギッテに全てを任せアマデウスと入り口へ向かったのだった。

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