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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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幕間

 カイムら3人は日も上がりかけの早朝に出発した。カイムは置き土産に数枚の書類とリザードマンの名前を残した。


「レナートゥス・シェンカー…ね。悪くは無いんじゃないかな」


「何だよ、も少し誉めても良いんじゃないか?マヌエラさんよ」


「姓だけだと寂しいからって何だね全く」


 カイムはリザードマン、レナートゥスだけでなくアルブレヒトにも名前を残していった。上機嫌で喜ぶレナートゥスの隣で不貞腐れたようにマヌエラはぼやいたが、彼女表情にも嫌悪感は無かった。


「しかし、名前ってのも便利かもしれないな。呼びやすくなった」


「まぁ、確かにな…他の者も採用すべき制度だろうな?」


 喜ぶレナートゥスは笑いながら言うと、マヌエラもその言葉に同意していた。

 そんな2人が会話をしながら研究所に戻ろうとした時に、北側から数頭の蹄鉄の音が聞こえてきた。2人が研究所の北側に回ると、馬に乗った全身鎧の騎士5人と、その騎士達に護られた1人の大男が近づいてきた。

 男は鎧こそ着ていなかったが、非常に上等な黒い服に深紅のマントと言った出で立ちであった。その格好に合わせて騎士達も黒い鎧を着けていた。マヌエラとレナートゥスの前に馬を停めると、大男は馬を降りた。


「おぉリザードマンの友人殿!久しいな。いやそうでもないか。まぁ構わないな」


「クラウゼヴィッツ殿!1ヶ月は久しぶりには入りませんよ!」


「君は本当に変温動物なのかね?こんな早朝で良く元気でいられるんだ?」


 レナートゥスとクラウゼヴィッツと呼ばれた男は早朝でありながら快活に笑いあい、握手をすると互いの肩を叩きあった。そんな2人に呆れかえるマヌエラの言葉を聞いたクラウゼヴィッツは、瞳を青く煌めかせて大げさに驚いた。


「これはこれはアルブレヒト殿!こんな早朝に起きていられるとは驚きですな」


「大げさ過ぎる。全く、表情がないからといっても少ししつこい気がするぞ。それに、公爵さまが領地を離れてこんな所に、少ない護衛で大丈夫かね?」


「我輩の部下たちは一騎当千の強者揃いですぞ!心配なぞ全く無いですな。何より医者の少ないこの時世に薬は重要。民の為なら自ら取りに行くは領主の役目ですよ」


 クラウゼヴィッツの冗談にマヌエラは耳に尻尾を大いに立たせた。そんな彼女は冗談の仕返しとばかりに皮肉を言うと、クラウゼヴィッツは胸を大きく叩いて自信に満ちた発言で返した。


「狭い屋敷から散歩半分なんだろ全く」


 皮肉の効かなかったクラウゼヴィッツに、マヌエラの彼の言葉を聞き流して呟いた。

 その言葉に、ヘルムで表情の解らない護衛の騎士達は肩を落としたり、お手上げと身ぶりで示し彼女に同意した。


「それはさておき、2人はこんな朝に何をしていたのですかな?おぉ、もしや2人で朝の散歩ですかなリザードマン殿やりましたな」


「おい!まだそうじゃない!それと、彼は今日からレナートゥス・シェンカーだ。わたしにも、アルブレヒトの前にマヌエラが付くように成ったからよろしく」


クラウゼヴィッツの言葉にレナートゥスは気まずそうに頬を掻いてはにかみ、マヌエラは更に毛を逆立たせた。

 そんなマヌエラの唐突な言葉に、クラウゼヴィッツは面食らったと示す身振りをした。


「改名に名付けですか!1度に2つとは凄い…」


「いや、私が付けた訳じゃないよ。名前なんて流石に習った事が無いよ」


 マヌエラの若干悔しさの混ざる言葉に、クラウゼヴィッツは不思議と言わんばかりに首を傾げた。


「それじゃぁ、一体誰が…」


「皇女様が召喚した勇者だよ」


「なんと!召喚に成功したのですか!」


 クラウゼヴィッツの疑問にマヌエラがすんなり答えた。その回答に彼は最初こそ驚くような身振りをした。だが、クラウゼヴィッツは直ぐに顎に手をあて考えるような仕草をした。


「しかし、名前を付けられる程の貴族を召喚ですか…噂になっているはずだろうに…何ででしょうな?」


「とりあえず会ってみるといですよ!あいつは面白いかも知れないですぜ」


 クラウゼヴィッツは軽い口調で語ったが、青い瞳の焔は言葉の重さを表していた。その焔に怯える事なく、レナートゥスは微笑を浮かべながら彼に合う事を勧めた。


「まぁ…こいつの言うとおりだな。とりあえず会ってみるといい。私が思うに…彼、カイム・リヒトホーフェンは案外この帝国を救うかも知れないぞ」


 マヌエラはレナートゥスの袖を引き、施設の扉へ向かった。その途中、彼女は芝居がかって振り返えると、クラウゼヴィッツに言い放った。


「ほっほぅ、帝国を救う…か」


 薬は少し待ってろと付け足し、扉の奥に消えていく2人をクラウゼヴィッツは暗い眼窩の奥の焔を一層煌めかせて見つめた。

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