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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第二幕-4

 通用扉から外に出ると、異様な景色が広がっていた。


「荒廃してるとは聞いてたけど…これ程だとまずいな…」


 城の防護壁の外側には無傷な建物が1つもなく、酷い区画では瓦礫の山といった状態であった。

そのため、住居を失った難民が壁の近くに掘っ立て小屋の集合したスラムを築いていた。扉の近くに住民らしき狼の顔をした男や、ゴブリンらしき小人などが座り込んだり倒れたりしている光景は、どれだけ控え目に言っても危機的であった。


「これは思いの外、不味いよ。アマデウス…思ってたより酷いぞこれは…何で言ってくれないんだ。これ程とは想像してないぞ…」


 驚くカイムの力無い小声の主張に、口を曲げるとアマデウスは言いよどんだ。


「確かに荒廃は酷いよ。けど、君の計画には中々可能性が有るよ…

時間は掛かるけどね。後は君の手腕にかかってるだけだよ」


 アマデウスの言い訳に反論しようとした時、ブリギッテが2人を不思議そうに眺めた。


「そういえば、カイムさんは何で町に出掛けようと思ったんですか?」


 ブリギッテの疑問に、カイムは自分の頭を撫でながら言葉を選んだ。


「カイムは町の視察とアルブレヒトさんに会いたいんだよ」


 言葉に悩むカイムを助けるように、アマデウスがブリギッテの問いかけに答えた。出掛ける話をカイムがアマデウスに持ち掛けた時、彼は理由の説明を求め事情を理解していた為、返答する事ができた。

 アマデウスの答えを聞いたブリギッテは、カイムへ確認を取ろうと視線を向けた。その視線を受ける彼はアマデウスの横で大きく何度も頷いた。


「アルブレヒトさんって…確か町の外れの森にいる錬金術師さんでしたっけ?」


 カイムから事情を説明されていたアマデウスは、彼の考えにはアルブレヒトという町で有名な人物の助力が必要であり、その人物がいれば帝国復興の可能性が高まると主張した。

 アマデウスから有名と言われていたアルブレヒトの名前にブリギッテは小首を傾げ太めの眉が疑問を表した。その反応に、カイムは怪しむ視線をアマデウスへ向けた。


「騎士はあまり城外に出ないから…」


 絞り出す様な言い訳の言葉をアマデウスが呟くと、カイムはジト目を彼に向けるのを止めた。

 アマデウス曰く、アルブレヒトは貴族と遠縁の錬金術師である。かなりの頭脳の持ち主であるが、その実験による周辺の被害から首都郊外の森に追放されたらしいとの事だった。

 ただ、郊外だった為に奇跡的に侵攻の被害にも合わず今では城に薬品等を送っているという話であった。


「何だかよくわからないですけど、出発しませんか?」


 扉の前で話すカイムとアマデウスに、ブリギッテが声を掛けた。


「あぁ…徒歩、なのね?はいはい、解ったよ」


 乗り物を用意する事もないブリギッテの態度や回りに馬小屋等が無いことから、カイムは移動が徒歩で有ることを理解すると3人は郊外へ向けてスラムを歩き始めた。

 スラムは一見大小様々なテントや小屋が乱雑に設置されていると思われたが、きちんとメインストリートや路上等が考えられており、街の外周へはほぼ一直線に見えた。

 そのスラムも最初こそ活気があったが、歩いて1時間もする頃には打って変わって酷く寂れていた。

 そんな道の途中でブリギッテは止まるとらおもむろに腰の剣を引き抜き前を向いたまま摺り足で2人との距離を詰めた。


「ここから先は私から離れないで下さい。女でも騎士となれば野盗も手を出して来ないでしょうから」


 幼さの残るブリギッテの声に緊張を感じたカイムは、過剰に怯え密着してくるアマデウスを押しつつ彼女との距離を詰めた。そんなカイムの視線に目と鼻の先に立つブリギッテのうなじが入って来た。

 密着する程ブリギッテとカイムの距離が縮まると、彼は彼女を背後から見下ろす様な体勢になった。

 その体勢で、ブリギッテが姉のファルターメイヤーよりかなり巨乳である事を再確認した。さらに、その胸元が服を内側から押し上げてている事実や、何より彼女から女性独特の甘い香りが鼻を通ると、カイムに久しい男としての感情が沸いた。


「姉もそこそこあったのに…今更だがロリ巨乳って現実だと反則だよな…」


「カイムさん、何か言いました?」


 目の前に日常生活では絶対に知り合えない美少女が居るという状況で思わず呟いたカイムの感想に、怯えるアマデウスでよく聞こえなかったブリギッテは彼に聞き返した。


「いや!"そんなに物騒なんだな"ってね」


 誤魔化しながら、カイムは男としての感覚を理性で必死に止めた。

 警戒する3人が歩く寂れたスラムには、働き盛りの大人の姿は無く痩せ細り最早服とは言えないぼろ布を紐で縛った格好の子供ばかりであった。歳も高くて18低くて6が良いところであろう。そんな彼等は道端に座り込み3人を窺うように見つめていた。

 そんな子供達の状況に、剣がなければ物乞いの集団に何をされるかわからない事はカイムにも想像できた。


「ここら辺からは働けない子供や気性の荒い奴らばかりで治安が悪いんだよ。僕だって普段ここまで来ないから。あっ、でもカイムは強いんだっけ。なら安心だ」


 少し前まで怯えていたアマデウスは、スラムの環境に慣れたのか間の抜けた言葉を発した。そのせいで、カイムの張り詰めた感覚は急激に抜けていった。

 そんな3人な警戒心が中途半端に薄らぎ、荒れたスラムを半分ほどまで来たとき、転がるようにしてぼろ布の塊が転がってきた。

 若干気が緩んでいたブリギッテもすかさず反応したが、構える剣には不思議とぎこちなさがあった。


「なっ、何者ですか!私は、姉さんほど剣は上手くないから…殺しちゃうかもしれませんよ!」


騎士としてあるまじき発言の混ざる警告にも驚きながら、カイムとアマデウスはぼろ布へ強い警戒心を向けた。そのため、塊が動いた時に2人には驚いていたが、よく見ると目の前に倒れてきた物が布の塊ではなく布を羽織った人であると直ぐに理解した。

 脅し文句にしては格好は付かないが、ブリギッテの殺すという部分が効いたのか、布を羽織った何者かの動きはゆっくりと止まった。


「私、ただお願いをしに来ただけです」


 切っ先を向けられたぼろ布からは、か細い声がした。その何者かがゆっくりと立ち上がると、ぼろ布の隙間からは幼げな少女が顔を除かせた。


「貴族様、私を買って下さい。」

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