クラフターの戦い方
色々と仕度を済ませた俺達は火竜の姿に戻ったエンリの背中に乗って、空を飛んでいた。
「仕度はこの鞍の準備だったのですね」
木と繊維質な葉っぱで俺は鞍とシートベルトを作って、エンリの背中に乗せたのだ。
おかげで不安定なはずの背中でも、ある程度安心して乗っていられる。
せまくなるのでルッツはハンマーに戻って貰って、鞄にしまってある。
「うん、他にも色々あるけど、使わないにこしたことはないかな」
「主様はなかなかあくどいことを考えるのです」
「最後の手段だよ」
「万能工具の私でも予想外なのです」
ルッツが鞄の中から余計なことを言うが、俺も出来れば使いたく無い手段だ。
山の上だから、まだ影響が残りにくいだけマシなんだろうけど、それでも地形に被害が出かねない。
奥の手を使う前に決着をつけてしまいたいな。
「ご主人様。集落が見えました」
ドラゴンの姿に戻ってもエンリは人の言葉を話せるようになった。
リビルドで人にされた影響が残ったのと、俺がエンリを服従させてしまったせいらしい。
「よくやったエンリ。コロン、村人と軍人の区別はつくか?」
「えっと、あれ? おかしいです……。帝国軍人の人しかいません」
「ということは、どこかの建物に押し込められているのか」
村にはいくつか大きな建物がある。
小さな一軒家に比べれば大きい二階建ての一軒家は村長の村だろうか。
やたらと横に広い平屋の建物は倉庫か。
広場にはタルの積まれた荷車や、牛や豚が集められているのを見る限り、どうやら逃げ出した家畜は回収しきったらしい。
「倉庫か村長宅かって所だけど、倉庫の方だろうな」
「新田様の目には見えているのですか?」
「いや、奴隷にする人達を居心地の良さそうな村長宅に入れるとは思えないからな。倉庫に詰め込んだ方が合理的だ。それに、帝国軍の荷車にはたっぷりタルが積まれている。恐らく掠奪した食料だろう。そう考えれば、空になった倉庫に人はいくらでも押し込められる」
「たった一目でそれほどの判断をなされるなんて、すごいです新田様」
「恐らく、エンリがいない間に山を抜けようって魂胆だろう」
となると、急がないと不味いか。
兵士が家畜を集めたり、荷物の確認をしている所を見ると、恐らくそろそろ出発だ。
やるなら一番油断している今しか無い。
「エンリ、手はず通り頼めるか?」
「ご主人様のためなら、なんでもするよー」
頼もしい言葉を貰った俺はコロンと一緒に村の端でエンリから降りると、村の方へと走りだした。
同時にエンリが俺達の上を飛び、咆哮を轟かせる。
その音に遅れて兵士達の叫び声が聞こえた。
「始まったか。コロン、倉庫の裏手に回り込むぞ」
「で、でも、隠れる場所が無いですよ? 村の中は木がまばらに生えているだけですし、帝国軍に見つかったら」
コロンの言う通り、森を切り開いて出来た村の中に遮蔽物はほとんどない。
道のど真ん中を走れば、あっという間に脱走者と間違われて襲われるだろう。
地上を進んでいる限り、見つからずに済むことはない。
「大丈夫。こうなることも想定内だ。ルッツ」
「はい。主様!」
俺の声に応えて、ルッツがシャベルに姿を変える。
そのシャベルで土を掘ると土の塊がキューブとなって、一メートルぐらいの深さのある穴が地面に空いた。
その穴の中に俺はコロンの手を引きながら飛び込んだ。
「地下を掘り進めていく。これなら気付かれない。ルッツ」
「はい。今度はツルハシでいきますよー」
ツルハシになったルッツを振るうと、地面の壁がサクサク消えていき、俺の袋の中にキューブとなって入っていく。
百メートル以上はある距離をスコップとツルハシだけでトンネルを掘って、兵士達の目をかいくぐり倉庫に穴を開ける。
工作魔法でサクサク地面を掘れる魔法が無ければ、こんなことは絶対に思いつかなかった。
そして、何十回目かの掘削で土の壁が消え、石の壁が現れた。
「倉庫の地下室の壁か。コロン、村人への説明と誘導は任せるぞ。俺はしんがりをつとめる」
「……はいっ!」
石の壁をポンと壊すと、壁の中にいた人達が一斉にこちらを向いた。
「コロンッ!?」
「しっ! みなさん静かにしてください。今から掘ったトンネルで逃げます。こっちです。静かにそっと出て下さい」
ふぅ、思ったよりあっさりと上手く行ったな。
穴の外から聞こえるエンリの声も元気そうだし、帝国軍人達の浮き足だった声を聞く限り、エンリが優勢なようだ。
救出作戦は問題無く行っている。
だが、上手く行きすぎた。
「撤退! この村を放棄して退却する!」
「奴隷どもが逃げたぞ!」
帝国軍が撤退を選択したせいで、持てる物は持って逃げようとしたのだろう。もぬけの殻となった倉庫を見たのか、大声をあげている。
「地下にトンネルだと!?」
「ちっ」
まいったな。思った以上に早く気付かれた。
トンネルの途中まで来て、兵士達の声が聞こえる。こっちは大人数だし、動きは敵の方が早い。普通なら追いつかれるだろう。
「逃がすか! 奴隷ども! 竜の盾にしてやる!」
なるほど。それで奴隷の倉庫を開けたのか。奴隷を竜に捧げて注意を反らしているうちに逃げようなんて、つくづくゲスな奴らだ。
なら、こっちも遠慮無くやらせてもらう!
「ルッツ!」
「はい。主様」
ハンマーに戻ったルッツでキューブ化した土を叩くと、トンネルに壁が出来て塞がった。
これで地下の追っ手は封じた。
なら、次は出口側をどうにかしないとまずいな。
穴の周りを囲まれたら俺一人ならともかく、この大人数に逃げ道は無い。
「新田様! 帝国軍が穴に気付きました! どうすれば!?」
思ったより早く気付かれたか。
奴隷達を何が何でも自分達の盾にしようなんて、よっぽど帝国軍人はエンリのことが怖いらしい。
なら、その恐怖を大いに使わせて貰う。
「エンリ! 来い!」
「はーい!」
ドシンと地面が揺れる音がして、村人の叫び声が聞こえる。
エンリが出口に来てくれたみたいだ。
そのおかげで、帝国軍人達の声も収まった。
どうやらエンリがにらみ合いで時間を稼いでくれたみたいだな。
その間に俺も出口に出ると、帝国軍人が俺達の前にずらっと並んでいた。
前には盾を構えた槍隊、その奥には弓矢を担いだ弓隊か。
単なるにらみ合いではなく、エンリを倒すために隊列を整えていたということか。
「エンリ少し下がってて」
エンリの前に一歩俺が踏み出すと、軍人達がざわめいた。
どうやら俺がドラゴンを操っている主だと思って、動揺しているようだ。
「貴様がドラゴンを操り、我々にけしかけたのか?」
「別に操ってない。それよりも、ドラゴンのことは何とかしてやるから、村人と家畜を解放して、さっさと国に帰ってくれないかな?」
「戦利品を手放せだと笑わせる。この国の民も土地も既に我々の物だ! これからより多くの同胞が奴隷を引き連れてくるしな!」
一応、話し合いの機会はあげたからな。
そうやって、力があるヤツが弱いヤツに一方的に理不尽を押しつけるやり方を、俺は否定する。
そのブラック企業体質を俺の新しい世界にまで持ち込むな。
「そっか。なら、仕方無いな」
そんな世界なら、俺がぶっ壊して、全て立て直してやる。
「ちゃんと話し合いしようとしたからな?」
「何を言って――」
軍人が何かを問う前に、俺は袋から大量の透明なキューブを取り出した。
そして、そのキューブをハンマーで叩き、中に閉じ込めていた物を解き放つ。
「消えろ」
キューブが弾けた途端に、俺の目の前に濁流が現れ、軍人達の胸元までつかるような波が襲った。
軍人達は立つことも出来ず、濁流の勢いに耐えきれなかった家や木と一緒に山の谷間へと流されていく。
いわゆる鉄砲水ってやつだ。水の流れというのはバカに出来たものではなく、足が浸かる程度でも、勢いがあれば立っていられない。
「ご主人様なにしたの!? ご主人様、人間でしょ? 水の無い所でこんな威力の魔法どうやったの?」
力を持つドラゴンだからこそ、エンリは俺の解き放った水に驚いたようだ。
「ここに来る前に鞍を作るだけじゃなくて、川の水を大量にキューブ化しておいたんだ。山の上だし、きっと良く流れるだろうなと思って。後はルッツが解き放つ際に力を加えると勢いよく飛んで行くって言ったしな」
そんな俺の考え通り、帝国軍人達は水に飲まれて一人残さずいなくなった。
流れた先でどうなったかは知らない。
生きていたら奇跡と言えるんじゃないだろうか。
でも、同情する気は無い。他人に力を振るって理不尽を与えるのなら、自分が理不尽を振るわれても文句は言えないはずだ。
「ところでご主人様、ちょっと聞いて良い?」
「ん?」
「あたい言われた通りに動物さん達に山の上に逃げろって伝えてあげたけど、お家流しちゃったら、村の人達どうするの?」
「あ……」
しまったー……。やっちまったー……。リビルドすればイイやと思ってたけど、思いっきり流しちゃった……。
エンリに言われて自分の失敗に気付いた俺は、諦めて村人にむき直すと頭を下げた。
それにしても、女ばかりをさらったのか、やけに女性率高いなぁ。
男の人はもともとこの村に住んでいた人だけか? ってレベルだ。
「すぐに材料集めて家作るんで、少し待って下さい」
「魔法使い様お願いがあります」
「お願い?」
村長だろうか? 杖をついた老人が頭を下げてきた。
何だろう? どんな家が良いとかのリクエストかな?
「コロン殿に聞きました。新田様は王都を復興なされていると……。どうかワシらも連れて行っては貰えぬだろうか?」
「いや、なんでさ? コロンの村の人ならともかく、あんたはこの村の村長だろ? 壊した家なら直すぞ?」
「いえ、もうこの村は駄目です。じきに帝国人達がやってきて新しい町を作ると……。わしらはもう既に鉱山奴隷にされているのです。お願い致します魔法使い様」
必死に頭を下げられた。
村人も一斉に頭を下げている。どうやら嘘はついていないみたいだ。
百人くらいいるんだけど、そんなに集めてどうすればいいのやら。
「新田様、私からもお願いします」
「コロン、お前は村の友達見つけたんだし、戻らなくて良いのか?」
「もう村はありませんから……」
まいったなぁ……。こんなトラブルの塊みたいな人達をどうすりゃ良いんだか……。
あの廃墟都市に連れて行って、働かせるのか? 雇った人でもなければ、奴隷でも無いこの人達を?
俺は俺のために生きたいのであって、別に王様になりたい訳じゃないからなぁ。
どうやって断ろうかと悩んでいると、ルッツが声をかけてきた。
「主様、いつものあれ行きましょう」
「いつものあれ?」
「ほらー、いつものアピールですよ」
「あー、なるほど」
そうか。どん引きさせて、あの廃墟に行きたくないと思わせれば良いんだ。
考えたなルッツ。
「分かった。ただし、厳しい条件がある!」
「条件ですか?」
「俺の拠点に食料はない! まずはこの村にある食料を全て俺に渡せ。そして、お前らには日が出ている間は畑を耕し、家畜の世話をしてもらう。贅沢は許さん! みんなで分け合って計画的に食事をとること!」
よし、村人達は困惑しているぞ。このまま押し切ってやる。
「住居は俺が修復した家しか居住させん。レンガの家以外は、材料集めて作るのが面倒だからな! 農作業以外では廃墟に散らばった残骸集めを命じる。俺からは金をださん。ただ働きだ! そして、ただ働きをして集めた素材で、お前らが働く場所を作ってやる! どうだそれでも来る気になったか!?」
「え……? 働く場所を作ってくれるのですか?」
「当たり前だ! 服屋に飯屋に酒屋、生活に必要な物を自前で用意しろ! それでもいいのなら来い!」
「「お世話になります。魔法使い様!」」
「えぇー!?」
村人全員が即答した。
いや、何でだ!? 俺だったら絶対に嫌だぞ!? 働きたくねぇよ!?
この人達は仕事ジャンキーなのか!?
「コロン、これどうなってるの?」
「鉱山奴隷は最低限の食事しか与えられず、一日中鉱山の中で働かされるので、すぐに命を落としてしまいます。ですが、新田様の言ったお仕事は普段やっていることですし、帝国人に奪われたはずの食料も自分達で管理出来るのなら、ずっと楽に生活出来ます」
「え? もしかして、普通に好条件だったの?」
「新田様、本当にありがとうございました!」
笑顔で抱きついてくるコロンの胸が、やけに強く俺に押しつけられた。
「こんな素晴らしい心の持ち主である新田様なら国を復興させる王様になれます」
本当にどうしてこうなった? 俺は理想のノンビリ生活を作りたいだけだったのに、いつのまにか国作りに発展しそうになっていた。




