続第二景・鵺
「鵺が出たぞ!」
その男の存在が京の都を恐怖に染める。
「殺せ! 鵺をこの世界から追放しろ!」
恐怖が憎悪を生み、そして対立が生まれる。
しかしその姿は神出鬼没。
鵺を捕らえられる者は誰一人いなかった。
「遅くなってしまった……」
その頃、惟光(熊谷友介)は家路を急いでいた。
彼の仕える病弱な姫のために薬を調達していて、遅くなったのだ。
「早く姫様に届けねば!」
普段は決して通らない路。しかし帰るには一番の近道になる。
惟光は逸る気持ちで、目の前に広がる不気味な竹林に足を踏み入れた。
「へぇ、こんな所を人間が通るなんてね?」
するはずのない声に振り向く。
気づけば見渡す限り怨霊に囲まれていた。
惟光の背筋をゾクッと嫌な寒気が走る。
白虎が背中に差した大刀を静かに抜いた。
「お命、頂戴」
「うわああああ!!」
惟光はほんのわずかな隙を狙い、必死に走り出す。
「逃がすかよッ!」
白虎の振り上げた大刀は、惟光の抱える薬を弾き飛ばした。
「なんだ、これ?」
「お止めください! その薬だけは!」
悲鳴にも似た叫び声が暗闇の竹林に響いた。
白虎は少しも気にする様子もなく、非情にその刃を振り下ろす。
「うわあああ!」
――ガキーン!!
死んだかと思った。
思いの外、最期は呆気ないものだ、と……。
でも違った。
惟光を守るように目の前に広がる背中は、見た事もない異国の着物で包まれていた。
「ぬ、鵺……ッ!?」
思わず後ずさる。
鵺は人間を苦しめる敵だと、鵺が全ての元凶を連れてくると、幼少から言われて育った。
その鵺が人間を守る訳ない。
「……失せろ」
鋭く刺さる、低い声。
一気に危機感が押し寄せ、身体が早く逃げろと悲鳴をあげる。
もつれる足で、薬に手を伸ばした。
「何してる!? さっさと行け!!」
「はッ、はい!!」
惟光は振り向く事なく、ただひたすらに走った。
全ては姫様のために……。
「よそ見してんじゃねーよ」
白虎と対峙している背中から、青龍が刀を突き刺す。
「、ウッ……!!」
パタパタと血が滴り落ちる。
こんな失態は初めてだった。
「皮肉なものだなぁ。お前が守ろうとしてる都の人間どもに、お前は忌み嫌われている」
鵺と呼ばれるその男は自嘲気味に笑って、口元の血を拭った。
こんな状況でも余裕を見せる鵺に苛立つ青龍は、蹴飛ばして刀を抜いた。
「、カハッ!!」
そのまま地面にドサリと倒れ込む。
しかしすぐに怪我など微塵も感じさせない足取りで立ち上がった。
仮面のせいで、表情も読み取れない。
「アイツ等が見てるのはお前なんかじゃない。お前の奇怪な容姿に怯えているのさ」
「それでも……救える命があるなら、ッ、それでいい」
「それじゃあ俺たちが困るのさ。邪魔なんだよ! お前は……俺たちにとっても、人間にとっても! な?」
青龍は抜いた刀を一振りし、付いた血をはらうと、低く構えた。
「消えて貰おうか?」
言葉とは裏腹に不敵な笑み。
その太刀筋からは命の取り合いを楽しむ狂気以外感じられない。
「お前らの好きにさせる気は毛頭ない」
懐に手を伸ばした鵺は、煙に紛れ一瞬にして姿を眩ました。
「逃げたか……」
高みの見物を決め込んでいた朱雀が、その姿を追おうとする。
「捨て置け!」
「……でも」
「今のアイツを斬った所で、面白くも何ともない」
「青龍」
惟光の後を追っていた玄武も戻ってきた。
「あの男、六条院に入った所で見失いました」
「どういう事だ?」
「強い結界が張り巡らされています」
「小癪な……」
青龍は苦虫を噛み潰したような顔で刀を鞘に戻した。
「まぁいい。奴は手負いだ。暴れるぞ」
青龍は、その狂気を隠す事なく、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。




