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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
71/126

本番直前

 開演五分前のベルが鳴る。

 舞台裏に本番前独特の緊張感が走った。


「美月ちゃんはまだ!?」


 準備は整った。しかし、まだ主役が揃わない。


「りゅうちゃんもまだ楽屋から出てこないし……もう!」

「真由、落ち着いて」

「だって!」


 小澤が困ったように笑って、真由の頭を撫でる。


(どうして小澤くんはこんな時も冷静でいられるんだろう……?)


 真由は不思議に思ったが、いつもと変わらない小澤を見ていたら、少しだけ落ち着くことが出来た。


「よし。準備はいいな? 幕を開けるぞ!」

「九条先輩! まだ美月ちゃんが!」

「間に合ったみたいだな」

「え……?」


 ほんの少しだけ口角を上げて笑う、九条の視線の先を追う。


「熊谷! ……と、篠宮くんッ!?」


 そこにはずっと怪我で練習に出られなかった篠宮の姿。


(……なんで?)


「修行の成果は?」

「バッチリです」


 篠宮は、九条の問いに自信ありげにそう答えた。


「真由……?」


 真由は小澤に呼ばれる声がした気がした。

 しかし隣にいるはずの小澤を少しも見る事は出来なかった。

 真由の目は篠宮を捕らえて放さない。


(どうして……?)


「ちょっと通してあげて!」


 スッと着物を擦る音。

 次の瞬間、あれほどざわついていた舞台裏が一瞬にして静まり返った。


「美月ちゃん! すっごい綺麗!」


 紘乃の感嘆の声とシャッター音に、真由は我にかえる。


「康太にメイク頼んで正解だったな」

「顔に生傷あるなんて聞いてないッスよ。隠すの大変だったんスから」

「もしかして修行って、メイクの……?」

「九条先輩に頼まれてね。何も準備手伝えなくてごめんね、野々村さん」

「……ううん、それはいいんだけど」


(まただ……また、美月ちゃんのため)


 それが今考えるべき事じゃない事くらい分かっていた。

 それでも考えは止まらない。


(どうしよう……涙が出そう)


「……ッ、」


(ダメ! 篠宮くんが見てる!)


 不意に感じる体温。

 真由は優しく頭を撫でられるのを感じて、顔を上げる。

 いつの間にか、篠宮に見えないよう小澤が壁を作ってくれていた。


「お、ざわく……」

「もうそろそろ客席行った方がいいんじゃない?」

「……うん。ありが、と」


(ダメだ……いっつも小澤くんに助けられてばかり)


 真由は逃げるように、舞台裏を抜け出した。



 ***



 そしてついに舞台『月夜美つくよみ』が幕を開けた。


挿絵(By みてみん)

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