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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
血の月
124/126

緊張の先

(ここが九条先輩の部屋……)


 紘乃は彼氏の部屋を前に、これまで感じた事のない緊張と動揺で動けずにいた。


「ひろの?」

「…………」

「どうしたの? 早く入って?」

「あ、はい」


 紘乃だってこんな日が来ないとも思っていなかった訳ではないのだ。しかしこうも急に訪れると目の前の状況に頭が全然追いつかない。


「緊張してる?」


 ふわりと後ろから抱き締められて、紘乃は素直に小さく頷いた。

 抱き締めたまま、九条が耳元でクスクス笑う。その度に九条の吐息が耳に触れて、全神経がそこに集中する。

 甘い、甘い、時間が過ぎていく。

 その甘さに心臓が震え、眩暈がした。


「僕はね、素直に嬉しいよ」


 九条の声がいつもより弾んでいる気がする。

 それだけで紘乃には九条の言葉が嘘ではないとすぐに分かった。こんな時間がいつまでも続けば。そんな事ばかり願っている。


「でも、」


 九条が言葉を詰まらせ、抱きしめる力を一層強めた。


「少し怖い」


(本当の僕の姿を見たら、君は……どう思うだろう)


「先輩……?」

 

 その言葉の真意を聞こうと身じろいだ時、『コンコン』とドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 いつもの冷静な声に戻って、九条が紘乃から離れる。


「大和、連れて来たよ」


 声と同時にドアが開き、二つの影が姿を現した。

 

「なぎささん……と、夕樹ちゃん?」


 渚の肩から夕樹が怪訝な顔を覗かせている。如何にも自分が何故ここにいるのか分からないと言った顔だ。


「栞さんは?」

「奥にいるよ」


 九条と渚は短い言葉だけを交わして。


(しおり……? 誰?)


 また聞き慣れない女性の名前に、紘乃の中に黒い感情が渦巻く。

 九条はそんな気持ちに気づきもせずに、夕樹の前に立った。


「行こう、夕樹」

「行くって、どこに?」

「会わせたい人がいるんだ」

「……?」

「渚、後は頼んだよ」

「はいはい」


 面倒臭そうに返事をした渚と、頭にはてなマークいっぱいの紘乃を残して、九条は夕樹と共に部屋を出て行った。 

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