表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
血の月
120/126

月を食う

「姉ちゃん、大丈夫?」


 前の席からひょっこり顔を出した夕樹が、心配そうに水を差し出す。


「うん、ありがと」


 美月はそれを笑顔で受け取りはしたが、飲まずにそのまま握りしめた。


「美月ちゃん、車弱いからね~」


 バスガイドばりのマイクパフォーマンスを見せる九条の横に座る紘乃も、座席の隙間から覗き込む。


「いつもの事だから、気にしないでくれ……」


 そう言って、美月は目を瞑った。


「夕樹ちゃんも来たんだね?」

「うん。姉ちゃんの付き添い」

 

 紘乃が話し掛けると、夕樹は少しツンとした態度で前に向き直して座る。いつも美月の過保護ぶりばかりが目立ってはいるが、夕樹も意外と懐いているのだと紘乃は微笑ましく感じた。



「かいきげっしょく~?」


 後方の席から、紗弥加の声が聞こえてくる。皆の視線がその声にに集中した。


「そうだよ! 今日は十八年に一度、この地域で皆既月食が観測出来るんだから!」


 そう、興奮気味に紗弥加と話している彼女は村井美香。相原がナンパしてきた天体観測部の部員だ。


「あれ? みんなはそれ目当てじゃないの?」


 生徒会が主催する皆既月食を観測する合宿に参加しないかと、相原に誘われてやって来た美香は、バスの中を見渡して小首を傾げた。


「え、あ、そうそうそう! みんな月食目当て! 美香と一緒に見られるなんて俺幸せ~」


 相原が慌てて肯定する。どさくさに紛れてサラリと揺れるストレートの髪を撫でながら、臭いセリフを吐く事も忘れない。

 美香は特に気にした様子もなく、『晴れるといいねー』なんて笑って窓から空を見上げた。


「で?」

「ん?」

「その月食があんたたちと関係あんの?」


 相原達の会話を静かに聞いていた美月が小声で隣の篠宮に聞く。 


「なんか嫌な感じ……。だんだん氣の流れが強くなってる、気がする」


 そして青白い顔でぽつりと呟いた。


「美月、『血の月』って知ってるか?」

「血の、月?」


 地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える皆既月食。その中でも、血のように赤く染まる月は『血の月』と呼ばれている。

 未だその謎は明かされていないが、血の月が現れると鬼の力が強まり本来の姿に還ると言う。


「本来の姿?」

「純血の、真の姿だよ」

「なるほどね。いつも通り人間界にいるのは危険。でもいつも以上に氣が必要。それで隔離された場所で月食を理由に女連れて天体観測合宿? 九条先輩、相変わらずの企画力だね」


 すらすらと今回の合宿の意図を言い当てる美月に、篠宮は改めて感心していた。


(お前のが相変わらずの推理力だよ。……でも)


「そこまで分かっててなんで来た? 俺の頼み聞かなかった時から嫌な予感してたんだろ?」


 篠宮の言う事は図星だったらしく、美月は目を逸らし、篠宮に借りた上着に顔を埋めた。


「朝日……」

「え?」

「この合宿来たら朝日学校通わせていいって言うから。それに夕樹も一緒に来ていいって言ってたし」

「そっか」


(いつも他人ひとの事ばっか)


 自分の事はお座なりなくせに、他人のために動く美月。そんな彼女を見ていると、篠宮は今まで感じた事のないような胸の痛みを感じていた。


「少し、寝るか?」

「……うん」


 普段ならあり得ないが、相当具合が悪いのだろう。篠宮の肩を借りて美月は再び目を閉じた。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ