第六番 A Whiter Shade of Pale
いつもニコニコして、ちゃんと届いているんだかいないんだか……俺の言葉を半分も飲み込まずに笑い飛ばしてしまうさやか先輩が。
この時ばかりは目をぱちくりさせて、俺を見つめていた。
このままさやか先輩の世界が、俺に染まってしまえばいいのに。
――~♪
スマホの着信音に、さやか先輩の肩がビクリと飛び跳ねた。
出なくても誰だか分かるその態度に、冷たい血が身体中を駆け巡る。
「出ないんですか?」
「え、でも……」
ニッコリと笑顔を貼り付ける。これくらいの嘘は身体に染みついている。
鳴り止まない着信音にさやか先輩は気まずい顔をしながら『ちょっとごめん』と背を向けて電話に出た。
「もしもし?」
『出るの遅ぇーよ』
「ごめーん」
『今お前どこにいんの?』
「えっと、雪花神社……」
『あ、ちょうどいいじゃん』
「何が~?」
『俺はさやにほっとかれてめちゃくちゃ暇な訳』
「それはごめんって」
『だからその罰に、今日ぐらい俺に付き合え』
――ブツッ、ツーツー
「え、ちょ、司!?」
話の途中で電話は切られてしまったらしい。
電話の相手の相変わらずな態度が目に浮かんで苦笑する。いや、俺自身今どんな顔しているか自分でも分からない。
心の中は歪んだ感情が淀み、渦巻いている。
「あの、駆くん……」
「じゃあ俺はこれで」
「え?」
「人混みで転ばないでくださいよ?」
「転ばないよー!」
先輩がいつもみたいに笑い飛ばしたのを確認して、背を向けて歩き出す。
「今日はありがとねー!」
背中に放たれたさやか先輩の言葉に、振り向かずに手を振った。
「駆……?」
自分でもどこをどう歩いたか覚えていない。声に顔を上げると目の前には熊谷がいた。
「随分長いコンビニだったね」
(あぁ、そうだった。俺はちょっとコンビニ行ってくるって出てきただけだったんだっけ)
「ひどい顔」
背の低い熊谷が、下から見上げて頭を撫でた。
この間わざわざ喧嘩売っといて、こんなの情けなさすぎる。
溌剌と笑うさやか先輩が好きだ。
でもどうしてだろう。俺は先輩の笑顔を奪ってばかりいる。
俺の頬を伝うあたたかいものを、熊谷が両手で包んで拭った。
「とりあえず帰りますか」
何も聞かずに二カッと笑った熊谷。その笑顔に少しだけ救われる。
黙って頷いた俺にもう一度小さく笑って熊谷は歩き出す。
どこか遠くの空で弾ける花火の音が聞こえた。




