第十一話
その日。
とある森の近くにある街に、突如として巨大な魔物が襲来した。
その姿は犬、或いは狼のそれであったが、その身体は大きく、家々を次々と破壊、逃げ遅れた住民達を、その爪で引き裂き、牙で噛み砕いた。それに合わせるかのように、その魔物はますます大きく、強くなった。もはや魔力も生命力も溢れんばかりだ。
そして。
生き残った数人の人間に、ラッシュは告げた、力が溢れ、魔力も溢れた今ならば、ある程度ならば言葉を紡ぎ出す言葉だって出来る。
「この地を去れ、人間」
ラッシュは告げる。
「この森を犯す事は、決して許さん」
その言葉に、人間達は悲鳴を上げて逃げ出した。
ラッシュは大きく咆哮する。
そうだ。
今の自分にとっての主君は、彼女だ。
そして……
あの小屋は、新たな城だ。
その後、あの森には新たな魔王がいる、という噂が流れた。
それを聞いた人間達は、森に近づく事を止めていた。それでも冒険者達が森には訪れていた。だが、その多くが新たな魔王の姿を見ることも無く、殺されていた。
リルは、その日も小屋の中に座っていた。相変わらず闇に包まれた視界は変わらないし、この森の外に出る事は出来ない。いつか両親が迎えに来てくれるかも知れないのだ。それに何より、今の自分には、共に生きる相手がいる、彼を置いて、一人ではここを離れられない。
小さい生き物の気配がする。
「ラッシュ」
リルは、その名前を呼ぶ、こちらに駆け寄って来る小さい動物の気配。
リルは、そっとラッシュを抱きしめた、何だか身体が濡れていたけれど、その温もりは変わらない。
ラッシュは抱きしめられながら、身体を少女に預ける。
彼女の目は、残念ながら自分でも治せない。
だが、構うものか。
これからは自分が彼女の目となろう。
彼女の牙となろう。
爪となろう。
彼女を傷つけるものは、全て……
全て、自分が滅する。
自分の……
新たな主君を。