朝顔のため息
「暁相手に脅迫とは、いい根性してますね」
目の前に見える古びた屋敷を睨みつけるようにして見上げ、時雨はぽつりとそう呟いた。
長い羽織を身に纏った時雨を先頭に、隊士たちは手紙の相手が指定した現場へ急行した。中心街から離れたこの辺りは、高齢の家主たちが多い地域だったのだが、ここ数年はその家主たちの逝去により空き家が目立っている。
その空き家に住み着く無法者たちが増えてきたと報告があったので、なんとかせねばと思っていた矢先に女中を誘拐したとの手紙だ。
(この一件が解決したら、空き家の件にも早急に対処しなくては)
頭の中で、そんなことを考えつつ、時雨は眼前にある古い屋敷をじっと見つめた。
「見たところ周囲に見張り役はいないようです。中にどれくらいの人がいるかは分かりませんが、雪菜さんの身の安全を考えるなら、すぐに突入したほうが良さそうですね」
時雨の側に控えている琥太郎が、時雨にそう提言した。
「そうしましょう。では、手筈通り全員配置について」
時雨が小声で合図をすると、ほかの隊士たちはこくりと頷き、目で返事を返した。
時雨の手には白い袋。じゃらじゃらと音がするその袋の中には、犯人の要求通りいくらかの金が入っている。もちろん、これは犯人を捕まえるための小道具として用意したものだ。
時雨は「あとは任せた」と言わんばかりに、側にいた琥太郎の肩をぽんと叩く。それにしっかりと頷いてみせた琥太郎の横目に、時雨はゆっくりと屋敷へと近づいていった。
玄関であろう引き戸の前に立ち、こんこんと軽く扉を叩いてみる。しかし、しばらくしても中からは誰も出てこない。手紙にあった指定場所は、ここで間違いないはずだが。
時雨は首を傾げながらも、そっと扉を開いてみた。中を覗いてみると、奥の方からほんのりと明かりが漏れているのが見える。
時雨は後ろを振り向くと、周囲に身を隠している隊士たちに合図を送り、音を立てぬよう忍足で中へ入ることにした。




