出会いの桜
「何よ、あの言い方!」
裏庭を離れた雪乃は、使用人室に続く回廊を足早に歩いていた。怒りと悔しさのせいか、床を踏みしめる足にも力がこもる。
「初対面のときから失礼な人だと思ってたけど、やっぱり失礼な人ね!色仕掛けで情報とか……私はくノ一じゃないっての!」
思い返すと、また先ほどの感情が込み上げてきて拳をぎゅっと握りしめた。
「やっぱりあの人が浅葱なわけないわ!ただちょっと顔が似てるだけで、所詮は夢の中の話なんだから!」
自分の言葉にうんうんと頷く雪乃は、「きっとそうよ」と無理矢理、己を納得させる。そう思うと、少しだけ心が落ち着いてきて早足だった足取りがゆっくりに戻っていった。
「それに仮に前世ではそういう仲だったとしても、別に今世で同じように一緒にいる必要なんてないもの!夢にまで出てくるから、運命の人みたいに思ってたけど、そんなのもう関係ないわ」
来世を誓い合った人との再会に、心が浮き足立っていたのは事実だが、どうやら自分は前世のことを美化しすぎていていたのかもしれない。
「決めた!これからは過去のことなんて、綺麗さっぱり忘れて、新しい恋を見つけるんだから。忘れたい過去は、また新しい思い出で塗り替えていけばいいのよ」
雪乃は自分に言い聞かせるように「前世は前世、今は今!」と宣言し、回廊を歩いていく。
(幸い、滅多に出会うような人でもないから、よく出没する場所さえ避ければ会うことも少ないだろうし)
何事も気持ちの切り替えが大事である。雪乃は両手をぐっと握りしめ、決意を新たに歩き出した。




