第六話 思惑
「どういうおつもりですか」
深夜、静かな部屋の中に、厳しい声が響く。
執務机に着き、書類を捌くアルトゥールに、ローデリックが問いかけた。
「あのような者を伯爵邸に引き入れるなどと…坊もあの者が何を生業としているのか分かっておられるでしょうに」
「だからだ、ローデリック」
書類から顔を上げぬまま、アルトゥールが応じる。
「あの服装、怪我、明らかに裏側の人間だろう。上手く使えれば、我がシュヴァルツ家の現状を打破する手駒となるかもしれない。獅子身中の虫となる可能性も無くはないが、僕があの者を上手く御せれば良いだけのことだ。全ては僕の力量次第、何も心配することは無い」
「…左様で。差し出口を申しました」
「良い。気にするな」
「ありがとう存じます」
ふと、何かを思いついたように、アルトゥールが顔を上げた。
「しかしあの者は、初めは子猫のように威嚇していたが、やけに早く警戒を解いたな」
「ええ、アルトゥール様に名付けられてから、態度が軟化したように思われますね。名が付いたのが余程嬉しかったのでは?」
先程のルアンの様子を思い出して、アルトゥールはうっすらと笑う。
名付けられて喜ぶとは、本当に猫のようでは無いか。
「そうか・・・思っていたより面白い拾い物であったかもしれないな」
アルトゥールはその優秀な脳内で考えを巡らせる。様々な計略は、夜の闇に溶けていった。