おわり
『ねえ、見て!この子泣いてるわよ。泣いたらやめてもらえると思ってるなんて、おかしいったらありゃしない!』
いつからだろう。使用人達に遊ばれるようになったのは。
『あ、お父様。お帰りな、』
『おい、あの件はどうなった。後で執務室に書類を持ってこい』
いつからだろう。父に無視され始めたのは。
『お義姉様が、私をいじめたああああ!!』
いつからだろう。自分の大事な物を義妹が平気で取って私を悪者に仕立て始めたのは。
『あなたは長女なんだからそれくらい我慢しなさい!!!』
いつからだろう。新しい母親が私を悪だと決めつけ始めたのは。
『ねえ、あなた。とーっても、面白いわね!』
いつからだろう。隣の席の子が私をいじめ始めたのは。
『・・・つまらない女だな』
いつからだろう。婚約者が私のことを冷めた目で見始めたのは。
全部最初からだったかもしれない。
私が生まれた時から。
公爵家の駒だと知られた時から。
婚約者と初めて会った時から。
新しい家族と会った時から。
学園に入学した時から。
全部、全部最初からだったのだろうか。
『ふふっ、お嬢様は可愛らしいですね』
いつからだろう。彼の前で自然と笑えるようになったのは。
『お嬢様、お怪我は!なにもされていませんか!』
いつからだろう。彼に触れられると安心するようになったのは。
『アイリス、あなたは今までよく頑張りました』
いつからだろう。彼に自分の名を呼んでほしいと思うようになったのは。
『アイリス、ここを出ましょう』
いつからだろう。彼の隣が欲しくなったのは。
『アイリス、俺のことはいい!逃げろっ!!』
いつからだろう。彼のことを愛するようになったのは。
いつからだろう。いつから、なんだろう。
エディ。私、あなたがいないと駄目みたい。おかしいわね。あなたが来る前までは平気だったのに。
涙が頬を伝う。
それを優しく拭ってくれる優しい人はいない。
抱きしめてくれる心強い人はいない。
私に笑顔を向けてくれる愛しい人はない。
『アイリス』
私の名前を呼んでくれる、あの人はどこだろう。
「お待たせ、アイリス。ここを、出よう」
公爵家の娘が消えた。
それは社交界に瞬く間に広がった。
そして、その名はしばらくして忘れ去られた。
森が近い、小さな村。
そこにはお互いを大切に愛し合う夫婦がいた。
彼らには娘と息子が生まれ、近所の人にも愛されて健やかに育っている。
かつて社交界の華と呼ばれた公爵令嬢を救ったのは、彼女の執事だった。