第12話
二人は病院に戻る事にした。
フタバは何故かエンブレイズの手を握っている。それはエンブレイズが逃げないように捕まえているのか、はたまた別の理由があるのかは分からない。
二人は病院に行くまでの間、口を開くことはなかった。
二人は病院に戻り、静かに病室に戻る。受付でこっくりこっくりとうたた寝をしている看護師の目を盗んで階段に向かう。そして静かに、でも早足で階段を駆け上る。病室には誰にも気づかれること無く到着できた。
ドアを閉めたあと二人はほぼ同時に大きく息を吐いた。そこでフタバがフフフッと笑った。それを引き金にして二人は大きな声で笑い出した。
でもすぐに二人は自分たちが深夜の病院にいることを思い出し、すぐに口を閉じた。
エンブレイズは既に乾いている服を脱いでシャワーを浴びる。エンブレイズは歩けるようになってから病室にあるシャワーを浴びる許可をもらっている。
エンブレイズがシャワーを浴び終わってシャワールームを出るとフタバは来客用のソファーに座っていた。
時刻は既に日付が変わってから二時間程経っている。
そして二人は特に言葉を交わすこともなく、フタバはソファーで、エンブレイズはベッドで静かに眠った。
そして朝、二人は少し遅めの時間に目を覚ます。
二人とも朝食を済ませてからフタバに彼女の両親を呼び出してもらう。
理由はフタバが二人にも話を聞く権利があると言ったからだ。
そして約三十分程してフタバの両親が病室に入ってくる。そしてもう一人申し訳なさそうに病室を覗く影をエンブレイズは見つけた。
「そちらは?」
「私の妹のイツハ。貴方と同い年よ」
フタバに紹介されたイツハという女性は、肩につかない程の長さの黒い髪で前髪は少し長く左目が隠れている。隠れていない右側は薄い眉毛にぱっちりとした大きな黒い目、ピンク色のぷるんとした可愛らしい唇。
身長はあまり高くなく、女性にしては高く百六十五センチほどあるフタバよりも十センチ程低い。
服装は以前フタバが着ていて、教えてくれた黒と赤のユカタという物を着ている。
イツハと紹介された女の子はペコリと頭を下げた。
四人がエンブレイズのベッドを囲むように集まった。
そしてエンブレイズは大きく息を吐いてからゆっくりと話し始めた。
自分の身分、自分の身に起きたこと、すべてを一切包み隠さずに話した。話しながら思い出してしまって辛くなっても、途中で何度も呼吸を整えて。
そして全部を話し終わった時には太陽が既に沈み始めていた。
エンブレイズの頬には乾いた涙の跡がついている。
「話してくれてありがとう。…それで、これからどうするの?」
フタバが沈黙を破るようにエンブレイズに優しく聞いた。
「国に…戻る。そして俺の力を返してもらって兄上の暴走を止める」
「でもエンブレイズ君はその…炎が使えなくなってるんでしょ? エンブレイズ君をあんなふうにした人相手に勝てるの?」
ハナコの言う通りだった。今のエンブレイズがホムラの前に立ったところで前回と同じ結果になるのは火を見るよりも明らかだった。いや、あの時よりも弱くなっている分死ぬ可能性だってある。
国に戻ったところで何もできないと思ってしまった。
「……とりあえず怪我を治して。私に少し考えがある」
「…………わかった」
エンブレイズはフタバの言葉に小さく頷いた。
エンブレイズは一つだけフタバ達に聞きたかったことを思い出し、病室を出て行こうとする四人を呼び止めた。
「何で…みんな俺に優しくしてくれるんだ? なんで協力してくれるんだ」
少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは何とタロウだった。
「そりゃー…困ってる人がいたら助けてあげなさいってばーちゃんに教わったからな」
「私も同じかしら」
ハナコが続けた。
「私は………私も同じかな」
フタバは何故か少し言い直した。エンブレイズは少し気になったが、別に追及するほどの事でもないので特に何も言わなかった。
「とりあえず全力で怪我治してね。もう抜け出さないでね」
いたずらっぽくウインクしたフタバに、エンブレイズは不覚にもドキッとしてしまった。
皆が部屋から出て行ったあと、エンブレイズは眠る事にした。全力で怪我を治すと決めたから体を休ませる。
エンブレイズは仰向けになって布団をかけて、目を閉じてから思った。そう言えばイツハさんは一言も喋らなかったな、と。




