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炎罪  作者: お終い
第1章
12/33

第11話

 エンブレイズの入院生活が二ヶ月目に突入した。もうエンブレイズは車いすを使わなくても動けるようになっていた。


 その日は雲一つなく、太陽が沈み暗くなった闇夜を丸い月が照らしている。

 病院内の他の患者が寝静まったあと、エンブレイズは自分の病室の窓から外に出る。そこは地上二階だった為、比較的楽に地上に降りることが出来た。


 なるべく足音を立てないように病院を離れる。周囲を警戒しながら、素早く慎重に進んでいく。


 この国に来てから、病院内しか見たこと無いエンブレイズは、この国独特の文化や家などを観光して回りたかったがそんな時間はない。


 病院内しか見たこと無くともこの国の地理は十分すぎる程調べた。そして海の状況も。海に出て国のある大陸に戻るには今しかない。



 エンブレイズは慎重に進んでいき、無事に海岸までたどり着く。辺りに誰もいないのを確認してからその海岸に一隻だけ止めてある船に乗り込む。この船はフタバの父親が漁に出る時に使っている船だ。

 フタバの父親も何度かエンブレイズのお見舞いに来てくれている。その子供が泣き出しそうな見た目とは裏腹にとても優しく温厚な人だった。フタバの話ではエンブレイズを海から引き揚げてくれたのもこの人だと言う。


 そんな優しい人たちへ恩を仇で返すような形になってしまい、申し訳ない気持ちになる。誰にも聞こえない程小さな声でエンブレイズは「ごめんなさい」と謝った。


「誰に謝ってるの?」


 突然船の中から声が聞こえ、エンブレイズの緊張感が一気に高まった。

 暗闇の中、カツカツという足音と共にエンブレイズの前に一人の女性が現れた。


「どこ行くの? こんな夜中に。しかも人の船に乗って」


「フタバ…なんでここに…?」


 フタバ・ムラマサだった。

 エンブレイズはずっと周囲に人の気配がないか探っていた。そして気配を感じない事を確認して船に乗ったのだ。でも船にはフタバが乗っていた。エンブレイズはフタバの事を普通の女の子だと思っていた。だが、ここまで完璧に気配を消せるのでは明らかに普通の女の子ではない。


「なんでって……女の勘、かな」


 どう考えてもそれだけでは説明がつかない。だが、エンブレイズはそれ以上は追及できなかった。


「国に……戻るの?」


 突然真面目な口調になりフタバは話し出す。


「なっ…!」


 フタバが知っていることに驚き言葉を失う。勿論エンブレイズはすべてを隠していたし、新聞にも載っていなかった。

 そしてエンブレイズは一つの答えが思い浮かぶ。だがその答えには理由がない。


「何で知ってるのかって? 当然知ってるよ、みんな知ってる。だって新聞に載ってたもん」


 フタバのその言葉はエンブレイズに確信を与えた。


「そのページだけ抜き取ってたってことか」


「……うん」


 やはりエンブレイズの考え通りだった。今までエンブレイズはフタバに渡された新聞を何の疑問もなく受け取っていた。なぜならフタバが新聞のページをを抜き取るような理由がなかったから。


「エンブレイズって王様だったんだね」


「…あぁ」


「……犯罪者…だったんだね」


「………」


 フタバの言葉がエンブレイズの胸に突き刺さる。分かってはいたことだけど、自分は『犯罪者』として見られていた。それも国を混乱させた大犯罪者。


「私ね、エンブレイズが家族を殺すような人間に見えない」


 フタバの突然の言葉に、エンブレイズは驚いて言葉が出ない。


「もしさ、エンブレイズが家族を殺すような犯罪者だったら私なんてとっくに殺されてると思うの。怪我で満足に動けなくても、人間一人殺す方法なんていくらでもあるでしょう?」


 確かにその通りだが、フタバがそんな事言うとは思っていなかった。


「それにね、なによりね、エンブレイズっていつも優しい目をしてるの。出会ってたった二ヶ月程度だけどね、エンブレイズは他人を傷つける立場の人間じゃなくてみんなを守る立場の人間だと思うんだ」


 エンブレイズにとってフタバのその言葉は何よりも救われるものだった。自分を信じてもらえることがこんなにも嬉しいことだとエンブレイズは初めて知った。


「私の母さんのアルマの手鏡はね、人の心を映すの。その人が今一番強く思ってる事が鏡の中に映像として写し出されるの」


 フタバの言うアルマと言うのが何なのかエンブレイズには分からない。


「それでエンブレイズを映した時に手鏡に映し出された映像は、突然倒れる年配の男女、燃えるお城と女性の生首、炎を纏った若い男性がエンブレイズをいじめてる様子だった。どう見てもエンブレイズが犯罪者には見えなかった」


 隠していた事がすべてばれている。いや、すべてではなく断片的といったところか。


「全部、話してくれる?」


 フタバはそのすべてを吸い込んでしまいそうな真っ黒な瞳でエンブレイズを真っ直ぐに見つめる。


 エンブレイズは迷っていた。

 話すべきかどうか。恐らくフタバが話してくれと言っているのはただの親切心であって、それ以上でもそれ以下でもない。この二ヶ月、フタバ達はエンブレイズに本当に優しくしてくれた。何度もお見舞いに来てくれて、病院に入院だってさせてくれている。恐らく入院するのにだってお金はかかる。なのにみんなエンブレイズには何も言わずに優しくしてくれている。エンブレイズが犯罪者だと分かってても優しくしてくれている。


 ………これ以上彼女たちに甘えてはいけない気がした。


「……もう…帰れよ」


 エンブレイズはあえてフタバに冷たい言葉を放った。

 そうすればフタバが諦めると思ったから。これ以上誰かを巻き込みたくなかった。そして何より、誰かを失うのが怖かった。


 エンブレイズはフタバの顔を見れなかった。彼女から視線を逸らす。


 すると突然エンブレイズの右足に何かが撒きつく。そして右足がいきなり引っ張られ、転んで頭を船にぶつける。そのまま右足を引っ張られて宙に浮く。


「え? え?」


 エンブレイズは突然の事態に状況が全くが呑み込めない。


「ふん!!」


 そしてフタバが力強い声を出すと、エンブレイズは海面に向かって勢いよく叩きつけられた。

 ザパーンという音と共に高い水しぶきが立つ。


 そしてゆっくりと海から引き上げられる。宙づりになったままフタバの目の前にまで引き上げられる。

 暗いので良く見えないが、フタバの右手でロープのようなものを持っている。


「話して…くれる?」


 さっきと全く変わらない口調でエンブレイズに問いかける。


「いやだ……」


 バコン!!


 今度はエンブレイズ激しい音と共にエンブレイズは船体に叩きつけられた。

 そして先ほどと同じように宙づりにされる。


「話して…くれる?」


「………わかった」


 恐らくフタバはどんな手を使ってもエンブレイズに話させるだろう。

 エンブレイズは観念してすべてを彼女に話すことに決めた。

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