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確かに、俺はまだ子供でなにか悪くてなにが良いのかの判断は分からない。
母上や父上、周りの大人に怒られ褒められして少しずつ理解して大きくなってきた。
「いっぱい叱られたけど、いっぱい褒められもした。」
俺が母上の腕の中で呟けば、背中をぽんぽんと赤ん坊をあやす様にゆっくりと叩かれた。
「褒める事は当たり前の事なんだけどな。それが大人になると中々に難しくなってくる。お前達を育てていると、当たり前の事をどれだけ忘れていたのかと思い知らされたよ。」
苦笑混じりの声で母上は続けた。
「子供は鏡でもある。私が笑えば笑ってくれるし、悲しければ私の代わりに泣いてくれた。でも、初めてジューダスを叱った時だっかなぁ。余程怖かったのか、火がついたように泣いて中々泣き止んでくれなかった。私も初めての子育てで疲れていて、精神的にとても苦しい時期だったから。今思えばなんであんな怒り方をしたんだと後悔しかないんだが、この子のおかげで親としての加減というものを学んだな。だからロフィード、お前は実はとても恵まれている。」
横で聞いていた兄が、キョトンとした顔をして母上に言った。
「そんな事があったっけ?俺、全然覚えてない。」
「そりゃ、2、3歳だったし疲れて眠るまで泣いて熱出したからなぁ。覚えてないのも無理はないが、それをやって叱られたからやっちゃダメって事は覚えたんだろうな。二度としなかった賢い子だよ。」
兄の頭をぐちゃぐちゃに撫でながら、母上は笑って言った。
「その時、兄上は何して叱られたんだ?」
俺の問に母上は、昔を思い出すように目を細めて空を見ながら話し出した。
「玩具をな、侍女に向かって投げてたんだ。硬い木でできたいろんな形をした積んで遊ぶやつ。」
「あぁ、積み木?」
「そうだ。ちょうど公務が片付いて珍しく昼寝の前に会える時間が出来たから部屋に行った時に、扉をあけた瞬間飛んできてな。避けられたから良かったが、驚いて乳母に声を掛けたら『何度も危ないのでやめて下さいと申し上げているのですが……』って申し訳なさそうに言ってて、よくよく話を聞いてたら投げた木が壁に当たって跳ね返って危うくジューダスの顔に当たりそうになって慌てたと話していて思わず、小さい子供ということを忘れて怒鳴ってしまったんだ。」