Fクラス異能者は謎を解く
新作です!
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空は青い。鳥は空を飛んでいる。
自然は緩やかに変化を続け、科学は急速に進歩する。
万物が流転していく理の中で、一番変化したのは人間だった。
「じゃあ花散里。人類が異能を使えるようになったのは何故か答えてみろ」
壇上で電子黒板を指し示している薫染先生が一番前の席に座っている花散里さんを指名していた。花散里さんは面倒臭そうに立ち上がると、教科書のページを捲りながら答え始める。
「今から五十年前に隕石が飛来して、その隕石が持っていた電気の力で一部の人間の遺伝子が書き換わったから?」
「そうだ。二〇五〇年に飛来した隕石、通称『異能』は太平洋沿岸に落ちた。津波とかの被害もさることながら、人類にとって最大の変化は生まれてくる子供が異能を持つようになったこと」
今の世界では常識だ。
異能と名付けられた隕石が落ちた時に妊娠していた母体が、何らかの干渉を受けたことで異能を使える子供が生まれることとなった。それも新生児の十人に一人くらいの割合。その子供が親になって子供を産んで――と繰り返す内に異能者の数はどんどんと増えていき、今では人口の四人に一人は異能者らしい。
「お前たちは『国立異能第一学園』に入校した生徒だ。異能を正しく理解していかなければならない」
僕たちが通っている学校は『国立異能第一学園』という日本が異能を持つ子供たちのために作った学校。世界各国で異能を持つ子供たちの育成に力を入れているが、日本も他国に負けない力の入れようだった。
入学からの一ヶ月間、薫染先生から耳にタコができるほど僕たちも学園の一員だと聞かされている。そんなことはわかっているけど、現状を見るにそう思えない生徒がいるのも事実。
「ま、俺たちはFランクの使えない異能ですけどね」
男子の声が響くと教室は嘲笑に包まれる。
三学年が通っている国立異能第一学園では異能の優秀さでランク分けされていて、僕の所属しているクラスは一年F組。国から異能者と認定されても、使い道のないゴミ異能を授かった者が寄せ集められた形だけの特別扱いなのだ。
ランクによって教室の設備も違い、Fクラスは公立の高校よりも酷い。空調はついていないし、机もガタガタ揺れている。
「Fランクといえども一般人にはない力を持っているんだ。それを分かった上で行動しなければ――。おい、揣摩。揣摩理解。話を聞いているのか」
教室の一番後ろの窓際の席で外を眺めながら授業を聞いていた僕を呼ぶ声が聞こえる。すぐに薫染先生からの呼び掛けだと気付いて顔を向けたときにはもう遅く、僕の姿をしっかりと捉えていた。
「聞いていましたよ」
「嘘を言うな。ずっと外ばっかり見て。お前たちはFランクだが異能は使い方次第で変わるんだ。俺の持っている異能は『チョークを動かせる能力』で、今の時代じゃ使い物にならない。だが、俺の趣味は絵を描くことだから思いのままに描くことができる。デメリットで『鼻血が出る』けどな」
僕を怒っている途中だったが、自分の話に切り替えてクラスの笑いを誘っていた。
異能は人それぞれ違う。
異能にはメリットとデメリットがあり、強い異能ほど強いデメリットが付いてくる。薫染先生のように『チョークを動かせる能力』程度だから『鼻血が出る』程度で治まっているが、『火を出す異能』の持ち主などはキャパシティを超えると『高熱が出る』らしい。
僕の異能はデメリットが先立ってしまうから本当に使えないけど。
「F組は十二人しかいないが全員が異能を持ってる。異能測定のランクを気にするなとは言わないが、それぞれにできることがあるはずだから自信を持っていけ」
その一言が合図になったかのように授業終了の合図が鳴り響く。
歴史の授業だったはずが薫染先生からの励ましの言葉で終わってしまった。
「歴史の授業はここまで。まだ学園生活は始まったばかりだから気にするな。お前たちが異能を使って貢献したポイントによっては半期ごとに上の組に編入できるかもしれないんだからな」
異能学園独自のシステムとして、異能で社会に貢献したことが認められた場合、一定の成果を持って上のクラスに編入できるものがある。ポイントはスマホに入れられている生徒手帳アプリで確認できるため、生徒たちの必須ツールだ。
Aクラスともなれば就職は安定し高収入が約束される。低いランクだと異能学園を出ても一般人と同じような扱いになってしまう。異能を使えない人からすれば「異能を使えるのに一般人と同じなの?」と舐められてしまうらしい。
「俺たちの異能でどうやって貢献すりゃいいってんだよ」
「別にランクが上がらなきゃ生きていけないわけじゃない。先生だってFランクのまま卒業したからな。ただ、悪いことには使うなよ? 生徒が悪事を働いた場合は当然ペナルティが発生する。最悪退学もあり得るからな」
優秀な学び舎である異能学園を退学になったというレッテルは生涯付きまとうことになる。そのレッテルは異能を使って悪事を働いた証拠となってしまうのだ。
教育機関として異能者が正しい道を歩むように指導する責任がある。意欲向上を期待してのランク上げ制度だった。
「チッ。結局落ちこぼれは落ちこぼれのままでいろってことかよ」
ツーブロックに刈り上げて悪態を付く男子は比重測。『軽いものを重くする』能力を持っている。一見すると使えそうな能力だが、デメリットとして『自分の身体が軽くなる』みたいだ。風船のように軽くなってしまうため扱いに困っていると本人が言っていた。
「異能は使い方が重要ってことだ。それじゃ昼休みだから先生は行くぞ」
教室の扉を開けて去っていく薫染先生。
教師が居なくなれば、生徒たちは席を立って昼食の準備を始める。
僕はいつの間にかバッグに入っていたお弁当箱を取り出して昼食にありつこうとした時、一人の男子が駆け寄ってきた。
「揣摩、ちょっといいか?」
「なに? 懐隠くん。僕は今からお昼ご飯食べるんだけど」
「ちょっとだけでいいから話を聞いてくれ。すぐに済むからさ」
話しかけてきたのは懐隠大。優しそうなビジュアルで、背が高いモデル体型。Fランクだが上のランクの生徒からも人気のあるイケメンだ。異能が進んだ世の中でも見た目の需要は大きく、懐隠くんなら異能なしでも生きていける気がする。
異能は『ポケットの中に入れたものを隠す能力』。デメリットは『失せ物が多くなる』こと。
「食べながらでいいかな、もぐもぐ」
「別にいいよ、っていうか既に食べているじゃないか」
苦笑いを浮かべる懐隠を無視してお弁当を食べ進める。相変わらず僕好みの味付けだ。
「それで相談なんだけど僕の財布が行方不明でね」
「いつから?」
「今日の朝からなんだよ。家から出るときはちゃんとあって、学校に着いたら無くなってた」
「落としたとかじゃないの?」
タコさんウインナーが入ってる。
「その可能性はないよ。学校に来るまでの間、財布を出さなかったんだから」
「どこにしまってたの?」
「バッグの中さ」
「ふーん」
少ししょっぱい唐揚げを摘みながら僕は考える。
「懐隠くんのバッグを見せてもらってもいい?」
「そう言われると思って持ってきているさ」
懐隠くんが持ってきたバッグは学校指定のもの。僕が使っている奴と全く同じ。懐隠くんの机に目を向けると、中身が山のように積み重なっていた。僕に見て貰う前に必死に探したのだろう。
「異能を使ってないのに財布を無くしちゃうなんてやっちゃったよ……。移動教室でペンを無くすしさあ……」
分かりやすく落ち込む懐隠くんをよそ目にバッグの中を観察する。確かに財布は入っていない。
「懐隠くんが財布をしまっていたのはどこ?」
「ここ」
バッグの内部にあるジッパーで閉められる収納部分に財布を入れていたようだ。
ふむ。
答えは簡単みたいだ。
「懐隠くんはこの部分に財布をしまってから登校したんだよね?」
「間違いないよ。ジッパーを閉めた記憶もあるから」
「その部分を懐隠くんの異能がポケットとして認識したから、君の財布は無くなったんだ。実際には財布は無くなっていないし、懐隠くんの能力で隠されているだけ。デメリットの『失せ物が多くなる』ってやつも、常に異能を使っている状態だからペンを無くしたんだと思う。――どうかな?」
窓に映っていた僕の目が徐々に変色して黄金色に変わっていく。これは僕が異能を使っている時のトリガーとも言える現象。正直恥ずかしいが、デメリットの一種なので付き合っていくしかない。
黄金色の瞳は僅かな輝きを持っているから、初めて見た殴打くんは驚いていた。僕の異能を知っていても、どのように発動するかは知らなかったからだ。
懐隠くんに黄金の光が風に運ばれるように流れていく。すべての黄金が彼の身体に入り込むと魂が抜け落ちたように、目が虚ろになっていった。僕の異能が効果を発揮している証拠だ。
「そうだね。揣摩が言う通り僕は異能で財布を隠してしまったみたいだ。試しに解除してみるよ」
懐隠くんが収納部分に手を当てると急に膨らみが大きくなる。今まで隠されていた財布が急に出現したのだ。
「財布を収納部分に入れたことで僕の異能がポケットだと判断しちゃったみたいだ。財布は見つかったよ、ありがとう揣摩」
「どういたしまして」
輝きを失った黄金色の光は少しずつ黒目と混じり合って元の色に戻っていく。それに比例するように懐隠くんの目にも光が戻っていった。
「それじゃ、昼メシの最中にごめんな?」
「気にしないで。ご飯はいつでも美味しいよ」
「Fランクでも揣摩みたいに異能を使いこなしている奴が羨ましいよ」
「そうかな? そうかも?」
「上のクラスは目指さないのか?」
「さあて、どうだろうね」
「何か起これば揣摩は上のクラスに行っちゃうかもしれない。ってか絶対に行くだろ」
財布が見つかった喜びからか、懐隠くんは笑いながら自分の席に戻っていった。机上に山積みになった荷物をせっせとバッグに詰め込んでいる。
「上のクラスかぁ」
僕は入学前の測定で自分の異能をアピールできなかった。異能があること自体は把握されていても、皆のように人前で披露することができない。幼馴染はAランクに行ったと言うのに何とも情けない限りだ。
「流石に今のままAクラスに行きたいって言っても夢物語だし、隠しておくことに越したことはないか。あいつにも言ってないし」
甘い卵焼きを突きながら独りごちる。
僕の名前は揣摩理解。髪を目の辺りまで伸ばした普通の男子高校生。身長も高くなければ体格もいいわけじゃない。唯一のお洒落として、幼馴染から貰ったペンダントを付けているくらいで目立つ要素は一つもない。
異能は『推理が正しいと相手が真実を話す』能力。デメリットは『正しくないと発動しない』こと。
異能の力じゃなくて、僕自身の力がないと使いこなせない異能はFランクに相応しい。
僕の理想は楽に暮らしていくこと。美味しいものを食べて、好きに遊んで生きていければ一番幸せだ。今のままでも衣食住に困っていないし、卒業後の就職には困らない。
それでも異能を使いこなして楽をするにはある程度の評価が必要なのだ。Aランクともなれば世間の評価も厚く、並大抵のことでは人生が崩れない。よりよい未来を描くために、卒業までにはAランクを目指していきたいのだ。




