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「さてと、それじゃあ、あたしはこの辺で。もう大丈夫よね。あの男、帰ってこなさそうだし」
わたしとしては、彼にもう一度会って、詳しい話を聞きたいのだが。ちらり、とアルベルトを見ると、彼もこちらを見ていたようで、ばちりと目があってしまった。気まずくて、慌てて目をそらす。
「じゃあ、フィオディーナさん、お元気で。機会があれば、また仮パーティー、組みましょ。あたし、なかなかよさげなパーティーを見つけられなくて」
「き、機会があれば……」
多分、その機会はないと思うけれど。依頼を受けたのは一応形だけだし。というかそもそもすでにパーティーを組んでいるのに、別の仮パーティーを組むことは出来るのか……? わたしには分からない。
ただ、テリーベルの声音からして、本気でもう一度組みたい、と言っているようには見えなかった。現に、わたしの曖昧な返事を聞いても表情を崩すことがない。
「……俺たちも戻るか」
去り行くテリーベルの背中を眺めながら、アルベルトがぼそりと言った。わたしは思わず、え、とこぼす。
わたしはもう一度、ネッシェを探して詳しい話を聞こうと思っていたのだが。だからこそ、アルベルトをちらりと見たのだし、それを彼も分かってくれたと思ったのに。
「フィー? どうした?」
「どうした、って……」
きょとん、と不思議そうな顔をされると、言い返しにくくなる。それでも、「ネッシェさんを探しに行きたい」と言えば、不思議そうな表情を崩さないまま、「何故?」と問うてきた。
「エンティパイアはフィーを捨てた国だろう? 今更、気に掛けることがあるのか? 帰れない、って言っていたじゃないか」
「それは……」
確かに、アルベルトが言ったことは事実だ。わたしはあの国へ帰れないし、帰らない。だから、仮に滅んだところで、わたしの人生に影響があるかと聞かれれば、まったく関係ない、と答えられる。
それでも、関係ないから、と切り捨てられるほど、わたしはあの国を、嫌いには慣れなかった。滅んでしまって、ざまみろと、いい気味だと、高らかに笑えたらどんなによかっただろうか。わたし自身にも非があったことを自覚しているから、きっと素直に喜べないのだと思う。
国土追放はやりすぎだ、と思う反面、わたしが、今の『わたし』ではなかったけれど、トゥーリカに八つ当たりをして、いじめていたのは事実なのだから。
「大体、今から追いかけても見つかるとは思えないしな。さっきだって、すぐ追いかけたのに見失ってすぐ戻ってきたじゃないか」
「う……」
そう言われると、反論できない。アルベルトの言葉は、どれも事実なのだから。
――暗に、時間の無駄だと言われている気がする。
これ以上、言い返せるだけの材料がない。エステローヒを引き合いに出したって、ランスベルヒに住んでいるのだから関係ない、と言い出しそうだ。わたしが生まれ育った国にさえこれだけドライなのだから、数日滞在しているだけの街に、情を書けそうにもない。
……ここ、二人で遊びに行った場所なのに。
不満を口にすることが出来ないまま、わたしは帰路につくアルベルトの後を追った。
まあ、黒い術石があるかどうかは、ウィルエールに聞けばいいか。きっと彼ならわたし以上の知識があるだろうし、聞けば答えてくれるだろうから。