34
そう言えば、ウィルエールと修理店で再会したとき、かなり修理待ちの術具が減っていたような……。ウィルエールが優秀な術士だからだと無意識に思っていたけれど、一日過ぎているのにも気が付かず、作業に没頭していただけなのかもしれない。
魔術の研究をしているときの彼に会ったことがあるけれど、そのときの集中っぷりを考えると……ない話じゃない。
あんまり不健康な働き方をしているのなら改めさせるべきか。でも、以前のわたしのことを知っている彼に言ったところであまり説得力はないだろうか。トゥーリカに勝つことを全てとしていたわたしのスケジュールを考えると……あんまり健康的とは……。徹夜することもあったわけだし、人のことをとやかく言えないというか……。
――むに。
少し考え込んでいると、右頬に違和感が。右の方を向くと、アルベルトがわたしの頬をつついていた。
「お、やっとこっち向いた」
「……何よ」
イタズラが成功した子供みたいな表情をしているアルベルト。みたいな、というか、まさにイタズラが成功したわけだけど。
「急に難しそうな顔して考え込みだすからさ。何か悩みごとか?」
「……別に、大したことじゃないわ」
「悩みごとがあるなら相談に乗るぜ?」
「だから、そんなんじゃないってば」
悩みごと、と言うだけのものでもない気がするし。今度ウィルエールに会ったときに確認だけしておこう。わたしに説得力がないのも、彼が魔術の研究好きで没頭しがちなのも事実だけれど、現状を把握しないでいい理由にはならない。それはそれ、これはこれ、よね。
この後、宿に帰る前に一度冒険者ギルドの方に寄ってみるのもいいかもしれない。まだ働いているようなら声をかけなきゃ。
そんなことを考えながら、パンの最後の一口を食べきり、立ち上がろうとしたとき。
「――あ、フィー。待って」
アルベルトに軽く手を引かれる。そしてそのまま、彼がわたしの口の横を撫でた。
「パンくず、ついてたぜ」
「~~~~ッ!?」
わたしは思わず触られたところを手で押さえる。ほとんど唇みたいなところを触られたことも、子供みたいに口の端にパンくずをつけていたことに気が付かなかったことも、恥ずかしすぎて顔が熱くなる。
「そんなに美味しかったなら紹介したかいがあったな」
にこにこと言うアルベルトに、わたしは何と返したらいいのか分からずに、口をぱくぱくとさせることしかできなかった。
こ、恋人同士でもないのに、こんなことをするなんて……! は、はしたないわ!




