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「マルシって……商人なんですのよね?」
「そうだよ! 主に食品を扱ってて……何か欲しいものがあるの?」
「いえ、そうでなく。エンティパイアでは物流のための転移術士は雇っていなかったように思って……」
他国とのかかわりあいを持たないエンティパイアで雇われている転移術士は帝中都にある帝国城に雇われている数人のみ。王子が見分を広めるために留学するときに使ったり、よほど切迫して他国の助けが必要なときのみに使う。後者の利用はここ数百年なかったはず。
転移魔法は送る側と受け取る側で一人ずつ術士が必要になるので、エンティパイア国内で移動させるならまだしも、他国とのやりとりは相当な労力が必要となる。
外国のものを、転移術士を使って輸入する、というのは非現実的なのだ。不可能ではないけれど。
そのため、国力を下げないために、馬鹿みたいに予算が必要になる外国産のものの輸入は禁止され、転移術士も許可制ということになっているのだ。傘下国の国家予算で年に何回も外国との交流を行っていたら、普通に国の経営が傾くのは想像に難くない。
記憶違いってことはないと思うけどな……と考えながら聞いてみると、マルシの顔が固まった。やっべえ! という焦りがにじみ出ている。
「……別に、気になったから聞いただけですわ。言いたくなければそれでかまいませんのよ。わたしにはもう関係ないことですもの」
グルルリアにいる人間のことだ、帝国に届を出さずに転移術士を無許可でこっそり雇っているに違いない。
グルルリアは三大美食国家の中で最も『おいしいものが食べれればそれでいい』という考えを持っている国だ。それがたとえ違法な食材であろうと、体に有害なものであろうと、彼らは構わないのだ。
あそこは、ほんのひと時、食事の間に至福を得られれば良いという、刹那主義が多すぎる。
そんな国民性を持つグルルリアが、あるかもしれない外国の美食を我慢できるわけがない。違反を犯してでも、転移術士を隠して雇い、外から食品を輸入することに驚きはない。
そもそも、違法食材とか普通に食べる国だし……。犯した罪が一つ増えたところで今更だ。
「……そ、そうだねー。グルルリアにたまに訪れるということを聞かなかったことにしてくれると助かるかな……」
マルシはひきつった笑みを浮かべながら言った。
別に帝国は転移術士を禁じているわけではない。届けさえ出せばいいのだが――やはりこの反応は、無届けの術士か。
聞かなかったことにして欲しい、と言われたところで、わたしにエンティパイアとの連絡手段があるわけでもないから、忘れても忘れなかったとしても、結果は変わりないと思うんだけど。
「――……はあ、それにしても、これだけの数の術具に魔力を込め直すには相当時間がかかりそうですわね。一週間程度では終わりませんわよ。わたし、それほど魔力があるほうではないので」
ざっと見ただけで、五十近くの術具がある。ものにもよるが、一日につき、二つか三つ、使えるようにできればいいほうだろう。一見したところでは見当たらないが、もしも品質のいい術具があればもっと一日なんかでは魔力を込めきることはできないだろう。品質がいいほど必要とする基礎魔力は多く、一つにつき、二~三日はかかるはずだ。
「早くても一か月、遅くて三か月かしら」
すべての術具を確認してみたわけではないが、そのくらいは少なくとも見積もっておいたほうがいい。




