日常
お久しぶりです
「ねぇねぇミロ様、これ見て!」
三枚の葉が付いた草むらの中から珍しい四枚の葉が付いたものを見つけると、私はそれを指さし彼の名前を呼んだ。少し離れたところで私と同じように探していた彼は名前を呼ばれてこちらに来ると、私の指の先にあるものを見て微笑んだ。
「やっと見つけられましたわ」
「先に見つけられてしまったから、俺の負け?」
「はい、なので今日一日ミロ様は私の言うことを聞いてくださいませ!」
「わかったよ、今日一日だけだからねほんとに」
私は彼の返事に満足気に笑うと立ち上がって伸びをする。
今日は王都から少し離れた場所にある丘まで、私とミロ様はピクニックに来ていた。
私たちはこの丘に着くと目の前にある緑いっぱいの自然に少しはしゃいでしまったが、しばらく動いていたところすぐに疲れてしまった。着いて10分ほどで食事に入ってしまうのは、何だか早すぎる気がして何かすることはないかと考えていたところ、足元に沢山生えていたクローバーを見て"四葉のクローバー早探し勝負"を持ちかけたのだ。負けた者はその日一日勝ったものの言うことを聞く、という景品付きで。
「クローバー持ち帰らないの?」
せっかく見つけたのに、という彼に私は少し考えて、首を横に振った。
「抜いたら可哀想かなと思いまして」
「……この前家に咲いてた花を許可なく切って花束にしてたのは、誰だったっけ?」
「そ、それとこれとはまた別なのです!」
少し焦りながらも言い返した言葉に彼は楽しそうに笑うと、私がそのままにしておいた四葉のクローバーを抜いてしまった。
「え、取ってしまうんですか?可哀想に……」
「自然と育ったクローバーは可哀想で、庭師の努力によって立派に育てられた花たちは可哀想ではなかったと?」
「……」
言い返す言葉もなく黙り込んでしまうと彼はまた楽しそうに笑い、詰んだ四葉のクローバーを私の手にのせた。
「これで栞作ってほしいなって思って」
「ご自分で作れるのではありませんか?」
からかわれたことで拗ねたように、横を向いて冷たい態度をとると、彼は私の頬を指先でつついた。
「俺が作ったものより、アンナが作ったものの方が特別なものになる」
その言葉は素直に嬉しかった。けれど何だか素直に嬉しいと言うのは悔しくて、私はそっぽを向いたまま文句を言った。
「今日言うことを聞いてもらえる権利は私にあるのですよ?」
「わかってるよ、だから"命令"じゃなくて"お願い"をしてるんじゃないか」
別に口喧嘩をしていたわけでもないけれど言い負かされたような気になり、悔しくなって頬を膨らませると、それは彼の指によって潰されてしまった。
「……次に会う時、クッキーを百枚用意してくださるのなら考えます」
「アンナは食いしん坊だね」
「そうです食いしん坊なんです!そのせいで太って可愛くなくなっても私はミロ様の婚約者なんですからね!」
「ぽっちゃりしたアンナも可愛いだろうね」
王子に対するものとしては全くよろしくない態度を取っても楽しそうに笑い続ける彼に、私は拗ねた態度を取り続けていることが恥ずかしくなって、馬車のある方に向かって歩き始めた。
「アンナ?」
「……失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。栞はこちらで作らせていただきます」
私が怒ってしまったのかもしれないと心配になってのであろう彼は、こちらまで駆け寄り私の顔を困った表情で覗き込んだ。
だが私の顔を見た瞬間彼の表情は明るくなり、笑いを堪えて肩を震わせた。
「笑わないで下さりませ」
「あぁ、ごめんねアンナ。顔が真っ赤になってるけど照れちゃったの?」
「……少し恥ずかしくなっただけですわ」
目を合わせないように視線を彷徨わせる私の手を取ると指を絡ませ手を繋ぎ、私の隣を歩き始めた。
「今日は言うことを聞かなきゃいけないけど、俺に何をさせるか考えたの?」
「……クッキーが100枚食べたいです」
「それは次に会う時の約束だろう?ちゃんと準備する。他には?」
「これ以上からかわれたくありません」
「わかりました、今日はもうしません」
「えっと、今日はお茶よりフルーツの飲み物の方が飲みたいです」
「確か持ってきていたはずだから、後で飲もう」
「えっと……もうないです、今は思いつきません」
「アンナはあまり欲がないね」
会話の途中で、私は突然足を止めた。そのことにすぐに気付いた彼は同じように足を止めると、私の方へ振り返りどうかしたのかと尋ねてきた。
「……ミロ様」
「うん?」
「浮気はしないで欲しいです」
「いきなり生々しい話になったなぁ。もちろんしないよ、絶対しない」
私が急に落ち込み始めたと思ったのか、彼は落ち着かせるように空いた方の手で私の頭を撫でた。別に理由もなく突然落ち込み始めてなどいないが、その手は払わずにされるがままになる。ミロ様に頭を撫でられると穏やかな気分になれるのだ。
「ほんとに絶対しないって誓えますか?」
「誓うよ。まず俺はアンナ以外の女性に興味ないし」
「それは、もう何度も聞いたんですけど……」
「何か嫌なことを俺がした?それとも思い出した?」
首を横に振る私を見て、彼は不思議そうに首を傾げた。
「……何故かわからないけれど、ずっと怖かったんです。ミロ様はずっと私に気持ちを言ってくれていたのに、いつか誰かを好きになるんじゃないか。私に興味が無くなる日が突然来てしまうんじゃないかって……気持ちなら十分すぎるくらい伝わってるのに、不安になってしまうんです」
不安は突然浮かび上がってきた。
私がミロ様への気持ちを自覚したのはたった半年前で、彼が私への想いを口にしてくれるようになったのもその日から。だからその日は嬉しくて堪らなかったのにそれから数日ほどたったある日、私は漠然と、この人にいつか捨てられてしまうのではないか、という不安に駆られるようになった。
意識はしていなかったが力が込められた手に応えるように、彼は繋がれた手をギュッと握った。
「アンナ」
名前を呼ばれて下がっていた視線を上げるように上を向くと、私の目には優しく微笑むミロ様の姿が映りこんだ。
「絶対、何があっても俺はアンナを好きでいる」
初めは一度だけゆっくりと、だけどその言葉が心にじんわりと染み込んでいくと共に、何度も頷いた。
不安が完璧に消え去ったわけではない。けれどこの人のこの言葉を信じたいから、信じるしかないのだと思う。
私は繋がれた手をぱっと離すと、突進する勢いで彼に抱きついた。彼はあまりに唐突だったその行動に慌てた様子ではあったけれど、しっかりと私の体を支えてくれた。
「……すごいびっくりした」
「すみませんミロ様。甘えたくなってしまいました」
先程よりも気持ちが落ち着いたことを証明するように顔を上げて微笑むと、彼も安心したように笑ってくれた。
「大好き」
そう一言だけ言うと、とても嬉しそうな表情を浮かべた彼は、顔を近付けて唇をふわりと重ねた。
「そろそろ昼食にしようか。ジュースが飲みたいって言ってたしね」
「はい、食べましょう」
唇を重ねた回数は少なくはないはずなのに、照れたように顔を赤くさせた彼に愛しさが込み上げる。
大丈夫だ、と思った。あんなにも不安で苦しんでいたというのに、たったこれだけのことで吹き飛んでしまった自分の単純さに笑ってしまう。
私は一度話してしまった彼の手を取るとギュッと握り、メイドや護衛達のいる馬車までゆっくりと歩いて行った。
更新全くしなくてごめんなさい。
完結表示にするために書きました。本編書き終わった直後くらいは三話くらい考えてたんですけど、なんといっても最後に書いたのは去年の10月ということでね、私もびっくりしました。何が言いたいかというとどんな話書こうとしていたか忘れてしまったので、急遽ぱっと考えて思いついた話書きました。サボってすみません。
というわけでこの話は完結なんですけど、コメントでif話どうですかって言われたやつが未だに頭の中に残ってて、今でも書きたい気持ちが結構あるんです。なんか他にも書きたい新しい話もたくさんあるんですけど、こっちも書きたいからやっぱ書こうかなと思ってます。
でも絶対長くなる自信しかないのでこっちには書かずに新しく別で書こうかなと思います。こっち読み返さなくてもいいように初めの方とか前世あたりの話も書き直そうと思いますそっちで。題名変えるかどうかも検討中です。
更新遅くなってしまい申し訳ありません。改めて、最後まで読んでくださった方々ありがとうございました!
 




