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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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207 同盟

「同盟ですと!? 一体どこと同盟なさるのですか」


 熊の問いに、信長兄上は一拍置いて口を開いた。


「六角義秀殿だ」


 その言葉に、おおっと感嘆の声が漏れる。けれども同時に、不安そうな声も上がっていた。


 六角義秀の出自はちょっと複雑なんだよな。

 今の六角家の当主は、去年当主になったばかりの若干十五歳の六角義治殿だけど、実権は六角義賢(よしかた)、剃髪して今は承禎(じょうてい)って名乗る父親が握っている。


 この承禎は元々次男だったんだけど、兄である氏綱(うじつな)が若くして亡くなると、その嫡男である義秀の後見役として六角家をまとめていた。


 本来であれば正当な血筋である義秀に当主の座を譲らないといけないんだけど、そこで自分の子供に跡を継がせたいって思っちゃったんだろうな。義秀は病弱で当主は務まらないってことにして、息子の義治に当主を譲ったんだ。


 確かにそんな理由でもなければまだ十五の元服したての子に当主なんてやらせないよなぁ。だって俺と同じ年だよ!? 当主なんて普通は無理だよ。


 これで父親が早く亡くなって、他に後継ぎがいなくて仕方なく、っていうならともかく、親父さんはピンピンしてるどころか、統治に口出ししまくりみたいだしな。


 ここら辺の事情は六角家と親しい半兵衛が色々教えてくれたからな。俺も良く知ってるんだよ。


 六角家と竹中家が親しいのは、どっちも義龍と対立してるからなんだそうだ。


 なんでも去年、織田と敵対してる美濃の斉藤義龍が、幕府の相伴衆(しょうばんしゅう)っていう、将軍が殿中における宴席や他家を訪問する際に付き従う役目についたらしいんだけど、本来は幕府の重鎮じゃないと就けない役職なんだよ。


 義龍は、自分の父は斉藤道三じゃなくて土岐頼芸(よりのり)だって宣言することで、名門である「一色」の名前を拝領したから就任できた。


 こうしてみると、義龍って道三が思ってたみたいな出来損ないじゃなくて、実際はかなりのヤリ手だよな。もしかしたら道三はそれを理解していて、その本性をこそ嫌っていたのかもしれん。


 だけど出る杭は打たれるっていうことわざ通り、足利将軍義輝の周りには義龍を嫌ってる者が多いらしい。本当は成り上がりの下賤な者のくせに、って事なんだろうな。


 実質的な六角のトップである六角承禎もその内の一人で、敵の敵は味方ってことで、義龍と反目している竹中家とは懇意にしてるんだそうだ。


 なんていうかさ。同じ室町幕府に仕える身なんだから、お互いに仲良くすればいいと思うんだけどな。

 義龍の美濃は織田の敵だから、実際は仲良くなられちゃ困るけど。


「皆も知っておるように、公方様は今川が幕府をないがしろにしていることを、大変遺憾に思っていらっしゃる。そこで、そのおごり高ぶった態度をたしなめる為に、六角家との同盟を薦めてくださったのじゃ」


 ああ。今川は「今川仮名目録」で、「幕府なんてもう知らないよ。今川で勝手に法律作って治めるよ」って宣言しちゃってるからな。


 今川と敵対してる織田にテコ入れして、対抗しておこうって訳か。


 でも幕府の総意として織田と同盟するのはまずいから、六角家の中でも微妙な立場にいる六角義秀殿との同盟にするってことなのかね。六角家としても、今川に譲歩しなくちゃいけない場合があったら、織田もろとも厄介者の義秀も始末できるからな。


「来月には義秀殿が熱田参りをなさる。皆の者、歓迎の用意をしておけ」

「ははっ」


 皆と一緒に平伏した俺が顔を上げると、信長兄上が何か企んでるような視線を向けてきた。


 こ……これはいつもの無茶ぶりの前触れか!?


「信喜」

「はい」

「義秀殿のもてなしを任せる。励めよ」


 えーっ!

 何言ってんの!?

 そんな大役、元服したての俺に任せるとか、鬼ですか。そういうのはもっとベテランの熊……はダメだ。なんか大雑把なもてなしになりそうな気がする。佐久間のおじちゃんは……くそぅ。目を逸らしたな。


 他に誰かいないのか。


 と、見回したけど、誰も視線を合わせてくれない。


 信長兄上は上座でニコニコしている。目が笑ってないけど。二つ返事しか許さないぞ、って無言のオーラを放ってるけど。


「承知いたしました」


 俺が返事をすると、一気に座が和む。

 俺の後ろに控えている明智のみっちゃんが、お手伝いいたしますのでがんばりましょう、って言ってくれる。


 くうう。

 みっちゃん、君はなんて優しいヤツなんだ!


「いやぁ。殿が突然同盟を結ばれたとおっしゃるので、てっきり長尾様との同盟かと思いましたぞ」


 熊の軽口に、信長兄上は腕を組んだ。


「そういえば文が来ておったが、あちらはあちらで忙しいらしい」

「というと?」

「三万の大軍が包囲する下野の国の唐沢山城を救うために、鎧もつけずにわずか十三騎で中央突破し、見事に北条軍を撃退したそうじゃ」

「なんと。わずか十三騎でございますか」

「うむ。なんでも唐沢山城主の佐野昌綱殿が秘蔵の酒を景虎殿に献上する約束であったゆえ、北条などにくれてやるものかと奮起したらしい」


 えええっ。

 お酒のために、そんな危ないことしてたのか!?

 どんだけ酒が好きなんだよ。


 酒のためじゃないにしても、十三騎で突破とか、無双すぎるだろ。

 ありえなーい!

 これぞまさに、事実は小説より奇なりってやつか!?


「愉快な男だ」


 そう言って笑う信長兄上は、とても楽しそうだ。

 やはり天才同士で分かりあえる何かがあるんだろうか。


「ううむ。しかしながら、やはり酒のためというのは建前で、まことに毘沙門天の化身であられたゆえ、義のために突撃なさったのであろうか」


 首を傾げる熊は、眉間に皺を寄せて考えこんだ。そしておもむろに信長兄上の方へ向き直った。


「これぞまさに、一騎当千の働きでございますな! この柴田勝家も、負けてはおれませんぞ。それがしも単騎で三万の敵の中を中央突破できるように精進いたしませんと!」


 いや、熊。

 それもう、既に人間じゃないから。

 熊ですらないから。

 景虎殿はお手本にしちゃいかんぞ!



六角義秀は実在しているかどうかはっきりしていない人です。

でも去年、桶狭間の戦いにおいて佐々木氏(六角家)の戦死者がいたという文書が見つかったことから、登場していただきました。

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