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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄二年

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167 龍泉寺城のお披露目

 さて元服をしたということは立派な大人になったということである。

 当然、美和ちゃんとの結婚も、いつしてもおかしくない状況だ。


 でもさ、どうせなら新居で新婚生活を送りたいじゃないか。ちょうど良いタイミングで、龍泉寺城もほとんど完成したからな。

 城下町みたいなのはまだこれからだけど、とりあえず堀とか門とか居住区なんかは出来上がったんで、引っ越しをすることになった。


 くううううううう。

 これで俺も一国……はないけど、一城の主だ。


 龍泉寺城は天然の地形を利用した平山城だ。

 堀の水は、近くを流れる白沢川っていう川の流れをちょっと変えて利用させてもらった。この辺りは豪雨の時に鉄砲水が流れて水害を起こしていたから、堰を造ったりして庄内川に流せるようにしてもらったんだな。それで城の東と南と西をぐるっと周るように水堀を造っている。


 もう一つ外側にある堀は、普段は空堀にしておいて、洪水の危険がある時とか敵が来た時には水を流せるようにしているんだ。


 水堀と空堀の間に、いわゆる武家屋敷っていいのか分からんような長屋と、城下町を造った。


 まあ城下町って言っても、そんなに大きなものは作れないけどな。元々この場所には龍泉寺ってお寺があって、その門前町として栄えてたんで、お寺が移動する時に一緒に行かなかった人たちとか、俺がいつも鍛冶仕事をお願いしてる津島の五郎助さんこと加藤清忠殿と、その親戚で桶屋の福島正信さんに来てもらった。


 なんかさ、偶然なんだけど、加藤殿と福島殿ってあの木下藤吉郎こと後の豊臣秀吉の親戚になるらしいんだよ。

 なんでも二人とも、奥さんが秀吉のお母さんの姉妹なんだとか。


 いや~。世間って狭いなぁ。


 その縁で、って言ったらおかしいけど、なぜだか秀吉も俺のとこに来た。しかもいつの間にか、ただの足軽から足軽小頭って言って、三十人くらいの足軽を率いる立場になってたよ。


 なんだか出世が早くないかって思ったら、あれだよ、例の、織田信長の草鞋ぞうりを懐に入れて暖めるエピソードで一気に出世したらしい。


 俺が元服するっていうんで目が回るほど忙しい間に出世するとは……さすが秀吉と言うべきなんだろうか。


「いや~。こうして殿のご寵愛深い信喜様の家来になれるとは、この藤吉郎まっこと幸運でございますなぁ」


 うん。秀吉は相変わらず口がうまいっていうかなんていうか。


 ただ、一緒にいるうちにそんなに悪いヤツじゃないような気がしてきた。もちろん抜け目ないし、口がうまいんだけどさ。

 だけど、確かに人たらしは伊達じゃないっていうか。なんとなく気を許しちゃうところがあるのは確かだ。


 熊とかみっちゃんなんかは、その気安い口調が気に入らないみたいだけど。


 あと、これが大事。

 秀吉ってさ、信長兄上のことを本当に尊敬してるんだよ。だから信長兄上のためだったら、どんなこともするんだっていう気概を見ちゃうとさ、なんていうかほだされちゃうよな。


 もちろん油断しちゃいけない相手なのは確かだ。でも本能寺の変の後も信長兄上が生きてたら、秀吉はずっと兄上に従ってたんじゃないかなって気がする。


 もっともそれは、俺の想像に過ぎないけどな。




 そして引っ越す前に信長兄上へのお披露目がある。ほら、このお城を建てるスポンサーは信長兄上だしな。ちゃんと中を見せておかないと後が大変だからな。


「ほう。これが馬出か」


 馬出っていうのは、城の正門、いわゆる虎口って呼ばれる外側に、さらに的土あづちって言われる盛土を造っておくのを言う。龍泉寺城の場合は城の中から門の外を見ると、半月状の盛土が見えるようになっている。馬出の出入口は両端にあるんだけど、そうすると外から門を見た時に中の様子が見えなくなるんだよな。


 それと敵が攻めてきた時に、馬出に一度に敵兵が入ってこれないっていうのと、入ったとしても門の上のやぐらから敵を狙い打ちできるっていう利点がある。


 そういえば尾張では馬出ってあんまり見ないな。

 いや、俺も大河ドラマで馬出を知ったんだけどな。


「なるほど。敵をここに留めて櫓から狙うのか」


 さすが、一を見て十を知る信長兄上だ。俺がちょっと説明しただけで、馬出の利点を理解してくれたよ。

 顎に手をあてて何か考えてるけど、清州の虎口にも馬出を造るのかもしれんね。


 他の目玉は何といっても温泉だな!


 龍泉寺には湧泉ゆうせんがあるし井戸もたくさんあるから水には不自由しない。それがさらに東側に温泉が出たんだから、最高だよな。しかもさ、温度調節しなくてもちょうどいい湯加減なんだよ。


 今から温泉に入るのが楽しみだ。


「竹炭を使って湯をろ過しているので、濁りもなく綺麗なお湯になりましたよ」


 本当は白く濁った温泉が好きなんだけどなぁ。まあ透明な温泉でも肩こりとかリューマチには効くんじゃないかな。筋肉痛とか。


「これが風呂か」


 この時代のお風呂ってサウナみたいなのしかないからな。お湯につかってのんびりするっていうのは、なかなかできない。

 

 確か、部下への褒美で温泉につからせるっていうのをやった武将がいたような気がするんだけどな。誰だっけな。


「お湯につかると一日の疲れが取れますよ」

「ほう。そんなに良いか」

「ええ。極楽です」

「よし。では入るぞ」


 そう言って信長兄上はいきなり着物を脱ぎだした。


 ええっ!?

 お付きの人もいるのに、いきなり脱ぎだしたよ。


 えええっ。

 今から入るの!?

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