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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス7巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄二年

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166 元服式

 まだ元服して城持ちになった訳じゃないんで、鵜飼さんには就職を打診しておく程度にしておいた。いくらくらいで雇えばいいのかとか、相場も分からんしね。実際に雇えるようになったら熊にでも相談しようと思う。


 そして年が明けて、永禄二年。俺は十四歳になった。ついに、元服だ。


 烏帽子親は信長兄上がなってくれることになった。普通は力関係とか色々考えて目上の人に頼むんだけど、現状、頼める目上の人って信長兄上しかいないからな。


 いや、不満なんてないからいいんだけどね。

 信長兄上が俺の元服式で、何かとんでもなく突拍子もないことをしなければ、それでいいんだけどね。


 信長兄上のやらかしにちょっと怯えてたんだけど、予想に反して信長兄上はとっても真面目に烏帽子親を務めてくれた。


 正月の三が日が過ぎた後、吉日を選んで熱田神社で俺の元服式が行われた。元服の際には戦神(いくさがみ)にお祈りするからな。熱田なら、日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀ってるからちょうどいいんだよな。


 元々、戦神は経津主(ふつぬし)、健雷雄(たけみかづち)の二柱だったんだけど、須佐之男命(すさのおのみこと)、日本武尊、神功皇后、坂上田村麻呂なんかも戦神に数えることもある。


 須佐之男命と日本武尊まではともかく、神功皇后と坂上田村麻呂を戦神として拝むっていうのは、効果があるんだろうか、って気もするけど。いやほら、神話の人じゃなくなっちゃってるからさ。


 戦の神様って言うくらいだから、なんとなく神話の時代の人の方がご利益がありそうじゃないか?


 でも菅原道真とか崇徳上皇も神様扱いになってるんだから、この時代では当たり前なのかもしれんけど。


 仏教の戦神だと不動明王とか大威徳明王、摩利支天、弁財天、鬼子母神ってとこか。ああ、毘沙門天も忘れちゃいけないよな。


 あれ? そしたら信長兄上も後世では神様扱いされてるのかな。上杉謙信は毘沙門天の生まれ変わりな軍神様だけどさ、信長兄上は第六天魔王だから神様っていうより、悪の帝王?


 うーん。謙信に比べてだいぶイメージが悪いな。

 ちょっとイメージアップのことも考えておかないといけないんじゃないかな。


 熱田についたら、まず大宮司である千秋季忠殿じきじきに、修祓(しゅぱつ)の儀をしてもらった。

 修祓の儀っていうのは、よく神主さんがばっさばっさ白い紙がたくさんついてる棒を頭の上で振ってくれるアレだ。その棒は大幣(おおぬさ)って呼ばれてるんだけど、それで参列者を祓い清めてくれるんだな。


 その後、拝殿に参列して神殿に供物を備える。太刀とかそんなのが多いんだけど、なぜかその中に折り紙つきうちわとか、額縁に入った押し花とかまである。……謎だ。


 その後は祝詞を聞いて、いよいよ髪上げの儀だ。


 ここで普通は前髪を落として月代の形に整える。


 でもさ、知ってるか? あのチョンマゲの剃ったとこってさ、カミソリとかで剃るんじゃないんだぞ。元服する最初の時は剃るけど、その後は、毛抜きで一本一本抜くんだよ。それが武士のタシナミなんだってさ。


 でも俺は、毎日毛抜きと仲良くしたくはないです。

 毛髪は、大事にしよう。うむ。


 幸い、と言っていいのかどうか、信長兄上は傾奇者に寛容だった。っていうか、自分が一番かぶいてるからな。


 俺が前髪を落とすのは嫌だって言ってみたら、そのままで良いってことになった。

 何でも言ってみるもんだな!


 ただ、髪は下で結ぶんじゃなくて、まとめて烏帽子の中にしまわないといけないから、ちょっと上の方で結ぶ。一髻(ひとつもとどり)って髪型だ。


 それから烏帽子を被せてもらって、信長兄上から名前をもらう。


「そなたはこれより、織田信喜(のぶよし)と名乗るが良い」

「ははっ」


 烏帽子親から一字をもらう時は、上についてるほうが良いってことになってる。俺の場合、信長の「信」を上につけてるってことだな。

 その作法通りでいくと、長ナントカでもいいわけだけど、やっぱり織田の一門に生まれたからには、信ナントカの方がいいよな。織田の通字(とおりじ)も「信」だしさ。


 喜六郎の「喜」を使ってるから、今とあんまり変わらん気もするけど。

 でも上に「信」がついてるから! もう幼名じゃないから!


 その後は神酒拝戴(しんしゅはいたい)して、酒盛りだな。

 俺も、初めてお酒を飲んだ。清酒は、まあまあ飲めたかな。

 前世のようなさっぱりとした口当たりとかはまだまだ遠そうだけど、それでも濁り酒よりは飲みやすい。


 ……養蜂が成功したら、蜂蜜酒でも飲みたいとこだよなぁ。


 信長兄上はお酒はちょっぴり飲んで、後は菓子職人の黒川円光さんに作ってもらった焼き饅頭を食べてた。貴重な砂糖を使ったお饅頭で、そんなに数はないけど、信長兄上が俺のために注文してくれたお菓子だ。


 熊はめでたいめでたいと泣きながら酒を飲んでた。


 泣くか、飲むか、どっちかにしろよ。

 ……まったく、しょうがないヤツだなぁ。


 でも……俺が元服して喜んでくれるその姿に、俺は今までずっと守ってくれてありがとう、って、そう心の中で呟いた。




最近セリフが少なくてすみません。

初陣の後は、喜六が暗くなってるだけなので、さらっと流しました。


名前は信喜にしてみました。信季(のぶとき)だと、同じ兄弟に織田信時がいて呼び方が被ってしまうので、変更しました。

皆さま、アイデアをありがとうございます。


元服式に関しては滋賀県竜王町の鏡の里元服式を参考にしています。

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