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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄元年

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150 折鶴

 弘治四年、二月二十八日。

 新しく天皇が立ったということで、元号が弘治から永禄に改元した。


 知らないことはないんじゃないかと思うくらい物知りな月谷和尚さまによると、全五十巻の「群書治要」っていう、中国の唐代初期に治世の上で参考にすべき文言を抜き書きして参考書にした書籍の言葉から取った元号らしい。


 能保世持家、永全福禄者也。


 つまり、家を保持して永く福禄を全うできた者って意味だな。


 要するに、戦乱のない平和な時代を望みます、っていうのを言葉を変えて言ったわけだな。ほんと、その通りになればいいんだけどな。


 だけど戦乱の世はまだまだ終わらない。


 三月初旬、瀬戸市にある品野城を奪還すべく信長兄上が出陣したのだ。


 品野城は三河との国境にある城で、約三百年くらい前に建てられた古いお城だ。そこを治めていた豪族の坂井秀忠は三河の松平清康につくか、尾張の織田信秀、つまり俺の父上だな、につくかで悩んで、結局尾張に臣従することにした。

 でもすぐに松平清康に攻められて、坂井秀忠は自刃。品野城は落城した。


 今回はその品野城を再び奪還する予定だってことだ。

 もちろん熊も出陣した。これで大将首の一つや二つ取ってきたら、熊も市姉さまとの結婚が許されそうなんだけどな。


 で、だ。

 俺が今何をしているかっていうと、清須城で市姉さまと犬姉さまと一緒に、折鶴を折ってるところだ。


 この時代の折り紙は、折据おりすえって呼ばれてる。


 元々は神様に捧げものをする時に紙で包んでたんだけど、その紙の折り目を美しくすると、もっと神様を敬ってるみたいでいいんじゃないかっていうのが始まりだ。


 その日本人好みの美しさに注目して、室町幕府の三代将軍、あの金閣寺を建てた足利義満が武家の礼法として折形おりがた礼法っていうのを制定した。


 公家だけじゃなくて、武家もこんな雅な礼法があるよ、ってイメージ戦略だったのかもしれんね。

 ほら。武家は武骨ってイメージがあるからさ。それを払拭ふっしょくしたかったのかも。


 折り形礼法っていうのは、和紙を折って物を包むことによって、物も心もこの紙で包みましたよ、と意思表示する礼法だ。

 だから現代の折り紙とはちょっと違うかもしれない。一番イメージに近いのは結婚式の時にお祝いを包むご祝儀袋かな。そんな感じで、色んな物を包むのに、色んな作法があるってことにしたわけだ。


 一応、秘伝扱いらしいよ。

 なんでか月谷和尚さまは知ってたけど。


「信長兄上たち、無事にお帰りになるといいですね」


 この時代では折り形礼法はあっても、折鶴はまだなかったらしい。

 っていうか、そもそも紙を正方形にして折る、っていう認識がないんだよな。紙は長方形に作られるのが普通だから、それをわざわざ正方形に切ったりしないんだよ。

 それに西洋ハサミじゃないと、紙って切りにくいからな。


 一応、津島から篠木村に移住した五郎助さんにお願いしてた西洋ハサミができてたから、それで紙を正方形に切ってる。


 無事を祈って千羽鶴、といきたいところだけど、さすがに高級和紙で千羽も鶴を折ったら信長兄上のゲンコツが降ってくるだろう。

 ふふん。俺も成長したもんだな。ちゃんとゲンコツ案件は避けれるようになったんだぞ。

 うん。まあ、あんまり避けれてないような気もするけど。


 だからとりあえず無事を祈って十羽鶴にした。


「喜六がこんなに素晴らしい折据を考えたのですもの。きっとご無事でいらっしゃいますよ」


 折り方を教えたらすぐにマスターした市姉さまが、手を止めて微笑んだ。

 うん。いつ見ても綺麗だな。 

 っていうか、最近特に綺麗になってないか? もう十五歳で、適齢期だしなぁ。

 あ、でも女の人は恋をすると綺麗になるって言うな。だとすると、恋……? もしかして恋なのか!?

 くくくく、熊に!?


「ええ、ほんに。柴田様もご無事だとよろしいですわね」

「ま、まあ、犬ったら」


 犬姉さまにからかわれて、市姉さまが真っ赤になる。

 うむ。なんだろう、この破壊的な美しさ。


 浅井長政と結婚して不幸になるよりは熊と結婚したほうがいいって思ったけど、やっぱり熊にはもったいないんじゃないだろうか。

 いやでも、今では市姉さまも熊のことを憎からず思ってるみたいだし、ここは俺も大人になって応援するべきだよな。


 でも、あげたくない。

 ずっと俺の市姉さまでいて欲しい。

 だけど市姉さまは熊が好きで。

 うがー。


 折鶴を折る手を止めずに、犬姉さまがコロコロと笑う。市姉さまより一歳年下の犬姉さまも、もう十四歳だ。

 でもまだ二人とも縁談の話はない。


 あれだ。信長兄上ってシスコンなんだよ。だから家の為に妹を政略の駒にしようって気がないんだよな。本当なら、市姉さまも犬姉さまももうとっくに許嫁の一人や二人、あ、二人いたらいかんな。許嫁の一人でもいてもおかしくないんだけども、全くそういう話はない。

 もうずっと一生、家にいてもいいとか思ってそうだ。


 もっとも、織田家が躍進していくにつれて、どうしたって政略結婚が必要になってくるんだけどさ。

 今のところは、その気配はない。


 そういや、史実では市姉さまは浅井長政と結婚してたけど、犬姉さまって誰と結婚してたんだろう。

 

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